145 王宮での暮らし1
馬車から降りると出迎えてくれたのは、ソフィアと、ビエント家で見覚えのある使用人たち。そしてレナセール家から派遣されてきたモニカのメイドが三名。
「ビエント家ですね」
「ビエント家だ」
どうやらカリストは、使用人たちを最も信頼できる者たちで固めたようだ。
両親とはまだわだかまりがあるようだし仕方のない選択か。
「お久しぶりでございます、レナセール嬢」
ソフィアが男性とともなって進み出てきた。
カリストが事前に話しておいてくれたのか、ソフィアはモニカを女神ではなく令嬢として扱ってくれるようだ。モニカはほっとしながら笑みを浮かべる。
「おひさしぶりですビエント夫人。またお会いできてうれしいです」
「このような形でお迎えできる日を、心待ちにしておりましたわ」
ソフィアは感慨深そうに笑みを浮かべている。
(夫人にとってカリストは息子みたいなものだものね)
「ソフィアには当面の間、モニカの侍女を任せることにした。それから、紹介する。こちらはソフィアの夫、ラモン・ビエント男爵。彼は俺の侍従を務める」
カリストがモニカに紹介したのは、ソフィアの隣にいた男性だ。ソフィアと同じく、穏やかそうな雰囲気の中年の男性だ。
「初めましてモニカ・レナセール嬢。お会いできて光栄でございます」
「これからどうぞよろしくお願いしますビエント男爵」
「僭越ながら、これからは私どもがレナセール嬢のお世話をさせていただきますので、どうかお楽にお話ください。私のこともお気軽にラモンとお呼びくださいませ」
(そう言われても、カリストの育てのご両親だし……)
カリストが大切にしている人たちだからこそ、モニカも丁寧に接したい。けれどラモンの意図も理解できる。ビエント家が丸ごと引っ越してきたようなものなので、誰が主人なのかを明確にしておきたいのだろう。
困りながらカリストに視線を向けると、彼が耳打ちしてくる。
「モニカ遠慮するな。俺もそう育てられてきた」
「カリストも……?」
「書類上の俺はビエント家の養子だったが、家の中ではソフィアは乳母のままだった」
(そういえばカリストはずっと夫人を乳母と呼んでいたし、夫人も「坊ちゃま」と呼んでいたような)
息子として扱わなかったのは、いつかカリストが王宮へ戻ることを願っていたからなのだろうか。
実の両親からは捨てられてもカリストが堂々とした性格のままだったのは、ビエント家の努力もあったのかもしれない。
「あなたずるいわ。私が先にレナセール嬢と仲良くなろうと思っていたのに。――レナセール嬢、どうか私のこともお気軽にソフィアとお呼びくださいませ」
間を埋めるようにソフィアまでお願いしてきたので、モニカは思わず笑みを浮かべる。
カリストにも温かく迎えてくれる家庭があってよかった。
「ふふ。お言葉に甘えてそうさせてもらうわ。ラモン、ソフィア。それから私のこともモニカと呼んでね」




