144 モニカの新しい生活14
その後、四人で夕食を食べた際に、カリストが父にだいぶ絡まれてしまった。見送るために玄関の外へと出たモニカは、申し訳なく思いながら頭をさげた。
「父がすみませんでしたカリスト……」
「気にしないでくれ。それだけレナセール伯爵もモニカを愛しているんだろう」
当初はカリストをレナセール家の婿養子にと考えていた父だったが、カリストが王子として認められたことで、それが叶わない状況となったからだ。
この国では慣例的に、国王の兄弟には大公の地位が与えられる。
もしも長男であるカリストが国王になれば、ブラウリオが大公に。現状どおり王太子のブラウリオが国王になれば、カリストが大公となる。
どちらにせよ、カリストがレナセール家で同居する父の夢は崩れ去ってしまったのだ。
「父もカリストを責めたわけではないのですよ? カリストを気に入っていたからこそ残念なんです」
「わかっているさ。単に婿養子がほしかっただけなら、とっくに破談にさせられていただろうからな」
父がどれほどカリストを気に入っているかは本人にも少しは伝わっているようだ。これがきっかけで二人がぎくしゃくするようなことはなさそうなので、モニカはほっとす。
「ところで陛下もご許可くださり安心しました。国王陛下と王妃殿下へのご挨拶はいつ伺えばよいですか?」
カリストからは身一つで引っ越して構わないといわれたので、明日の放課後からお世話になる予定だが、彼のご両親には一日でも早くご挨拶したい。
馬車に乗り込もうとしていたカリストに尋ねると、なぜか彼は無言で動きを止める。
「カリスト?」
「挨拶は、必要か……?」
「え……?」
「あいつらは俺に興味がないし、よほどのことでなければ否定もされない」
「けれどこれから長くお世話になりますし、ご挨拶はするつもりでしたが……」
モニカは、カリストの意外と独断行動な性格を察して嫌な予感がしてくる。
「もしかして、許可……いただいていないのですか?」
おそるおそる聞いてみると、カリストはモニカの質問など聞こえていないかのようににこりと笑みを浮かべる。
「明日、楽しみにしている」
モニカの額におやすみのキスしたカリストは、そのまますぐに帰ってしまった。
ぽかんとしながら見送ったモニカは心の中で叫ぶ。
(許可を得ていないなんて……自由すぎませんか……!)
翌日。学園の教室へと到着したモニカは、真っ先にブラウリオとリアナを連れて休憩室へと向かった。
王族の事情は王族に聞くしかない。そう思い昨日のことを打ち明けると、ブラウリオはやや困り顔でほほ笑んだ。
「兄上らしいな。王宮とひとくくりにいっても、宮殿ごとに所有者が異なるからね。今の神聖宮の主は兄上だから、兄上が好きに決めていいんだよ。だから安心して」
「規則的に問題がないのは理解しているのですが……」
これは日本人としてのモニカの感覚のせいだろうか。両家への挨拶なしに同棲を始めることには抵抗がある。
「兄上はまだ、父上や母上との距離感を掴めていないんだと思うよ」
「そうですよね……」
カリストはいつも、辛い過去などなかったような顔で、ただの他人として国王を扱っているが、牢屋で吐露したように親に対しての感情はあるはずだ。
そしてあの時に、カリストは初めて父親に裏切られた。あの裁判は円満に解決したけれど、昨夜の様子を見る限りカリスト自身の気持ちが晴れたようには思えない。
(カリストの気持ちを尊重するならご挨拶は控えたほうがよいのかしら。でも、無礼な婚約者だと思われるのも嫌だし……)
今まで肩身の狭い思いをしてきたカリストだからこそ、パートナーのことでケチをつけられるような事態にはさせたくない。
モニカが悩んでいると、隣に座っていたリアナが抱きついてきた。
「モニカちゃんの気持ちわかるよ! 私も学園を休んで王宮で静養していた時は、ちょっと気まずかったもん」
それを聞いたブラウリオは、あの時の行動を恥じている様子でうつむく。あの時はバッドエンドへかなり傾いていたせいで、彼も正気ではいられなかった。
仕方のない状況ではあったが、冷静さを取り戻した今のブラウリオとしてはいたたまれないようだ。
「リアナには迷惑をかけてしまってごめんね……」
「あっ。ブラウリオを責めているわけではないのよ。私も事前に陛下にご挨拶していればもう少し気楽に過ごせたかなーと思って。だからモニカちゃんにもご挨拶の場を設けてほしいな」
「そうだね。引っ越しが落ち着いたらモニカ嬢だけでも挨拶できるように、父上に話しておくよ」
「わあ! ありがとうございますブラウリオ殿下。リアナちゃんもアドバイスありがとう」
そして放課後。モニカはレナセール家へは戻らず、カリストとともに王宮へと向かった。
馬車は王宮の門をくぐり、本宮の横を通り、奥へと進んでいく。いくつかの建物を抜けた先に神聖宮はひっそりと建っていた。
「わあ、久しぶりだわ。外観はあまり変わっていませんね」
「そのようだな。宮殿内は改装を繰り返しているから、変わっている部分も多いはずだ」
「楽しみです」




