143 モニカの新しい生活13
翌日の放課後。モニカはカリストを連れて、邸宅へと戻った。事前に話があると両親に話しておいたので、父もすでに邸宅へと戻っていた。
「カリスト殿下。ようこそ、お待ちしておりました」
両親ともににこにことカリストを出迎えるものだから、モニカは疑問に思いながら首をかしげる。
昨日は話があると伝えただけで、内容は話していない。モニカとしては緊張しながら伝えたので、両親にも大切な話であることは伝わっているはず。
何かしら問題が起きたと感じとってもよさそうなのになぜか、とても歓迎ムードだ。
「カリスト殿下。このたびは婚約式を王宮でおこなっていただけるとのことで、一族を代表して改めてお礼を申し上げます」
応接室にて、父が真っ先に感謝を述べたことで、モニカは気がついた。
(もしかしてお父様とお母様は、カリストが婚約式の打ち合わせに来たと思っているのかしら)
裁判のあとに、モニカが女神だったことと、カリストが王子だったこと、そして二人の婚約式が王宮でおこなわれることになったことを、父は一族に通知したのだろう。一族もよろこんでいるのか、改めてお礼を伝えたかったようだ。
今のでカリストも、今の状況を把握したはず。ここから同棲の話を伝えるのはやりにくそうだ。
心配しながらちらりとカリストに視線を向けるも、彼は優雅なしぐさでお茶を飲んでから、モニカの両親に向けて微笑みを浮かべる。
(今までも気品は感じられたけれど、今のカリストは王族らしい品格が漂うようになったわ)
これは昨日今日で身に着けられるようなものではない。彼が幼い頃から、王族としての礼儀作法を厳しく教えられてきた証拠だ。
「陛下も、レナセール家と縁続きになることをとても喜んでいます。今朝は、婚約式の日程が決定したとの報告も受けました」
「本当ですかっ?」
それはモニカも初耳だ。驚きながら聞き返すと、カリストはモニカの手を包み込むように握りながら笑みを浮かべる。
「ああ。一か月後、俺が学園を退職したのちに婚約式と守護者任命式を同時におこなうことになった。当初の予定より少し待たせてしまうが、もう少しだけ辛抱してくれ」
「辛抱だなんて。正式に決まってほっとしました」
このままうやむやにされないか少し心配だったが、少なくとも国王はもう、モニカとカリストを引き離すつもりはないようだ。
「モニカ。よかったわね。これから忙しくなるわよ」
母に声をかけられて笑みを浮かべうなずくと、カリストが真剣な表情でモニカの両親へと向き直る。
「そのことで、今日はこちらへ伺いました」
「お気遣い感謝申し上げます殿下。すでに発注した物品では足りないと懸念しておりましたの。我が家のホールと王宮のホールでは大きさが違いすぎますものね」
装飾も増やさなければいけないし、王宮側の招待客が大幅に増えるだろうから食器なども足りない。準備を取り仕切っていた母はここ数日、そのことで頭を悩ませていたそうだ。
「そちらについては、予算も割り当てられたのでご心配なく。装飾のデザイナーにも連絡をしておきましたし、食器もミランダ・セーロス に確認したところ、いくらでも追加発注できるそうです。ほかにも追加で必要になるものが増えるでしょうから、侍従長と侍女長に洗い出しをさせているところです。後日改めて、モニカとレナセール夫人にご相談させていただく予定です」
(いつのまに、そこまで)
モニカは女神としての環境の変化に適応するのに忙しかったが、カリストはその間にも準備を進めてくれていたようだ。
「申し訳ありませんカリスト。私はそこまで気が回っていなくて……」
「今はモニカの環境の変化が最も大変な時期だ。俺にできることは任せてくれ」
彼自身も、長く離れていた王宮へと戻り、隠されていた状況から王子として認められた。決してモニカだけが大変なわけではない。
甘えてばかりはいられないと改めて気づかされたが、役目を減らそうとした時のようなヘマを繰り返すつもりはない。今は素直に彼の努力に感謝だ。
「ありがとうございますカリスト。日程も決まったことですし、私もがんばりますね」
「モニカの気持ちは尊重したいが、今の生活環境では心配だ」
カリストはついに本題を切り出すために、モニカの両親を見つめる。
「昨日もあのような事件があったばかりです。これからもモニカの噂は世間に広まり、多くの者が女神に会おうと無理をするようになるでしょう」
そう指摘すると、モニカの両親は心配そうに表情を曇らせる。
「殿下のおっしゃるとおりでございます。今日はフエゴ公爵のご配慮で警備の騎士を増やしていただいている状態ですが、この状態をずっと続けるわけにも参りません」
「あなた。やはり我が家でも私兵を雇いましょう。いつまでもフエゴ騎士団のお世話になるわけにはいかないわ」
「そうだな……」
両親は両親で、フエゴ騎士団に負担がかかっている状況を心苦しく思っていたようだ。
少しだけ両親と離れることに後ろ髪を引かれる思いがあったけれど、やはり昨日の決断は正しかった。
「お父様、お母様。私は、王宮で暮らそうと思います」
「神殿ではなく、王宮で……?」
「神殿はまだ私を受けれる準備が整っていないので、王宮が最も安全に暮らせる場所なんです」
「でもモニカ。いくらあなたが女神だといっても、勝手に決められることではないのよ……」
「そうだよモニカ。まずは私から陛下に今の状況についてご報告を――」
さすがに急な宣言すぎたか、両親は困惑を隠せないようだ。
(やはり先に、カリストに説明してもらうべきだったわ……)
困りながらカリストに視線を向けると、カリストが面白そうに微笑む。
「モニカは交渉がうまくなったのではなかったのか?」
「それは、カリストの性格を知ったからで……」
両親の性格は知っているようで知らない。なにせちゃんと向き合えるようになったのは学園に入学してからだ。両親の過保護度合いはまだ量りかねている。
「お二人ともご心配なく。モニカを王宮で保護したいと提案したのは俺からで、昨日のうちに二人でよく話し合いました」
「そうでしたか……」
「私たちったらつい……」
カリストの説明で両親は安心したようで、二人は少し照れている様子。どうやら過保護の自覚はあったようだ。
続いてカリストは、王宮の警備体制や、宮殿内の安全性について説明をした。その安全性については外部の人間はもちろんのこと、カリストとモニカの生活距離にも配慮したものだった。
モニカの部屋は上階に設け、侍女長がその階を管理し、レナセール家からメイドを同行することも許可することに。
そしてカリストは下階を使用し、モニカが生活する階へは立ち入らないと宣言した。
「娘に対して多大なご配慮を賜り誠に感謝を申し上げます」
「カリスト殿下。どうかモニカをよろしくお願い申し上げますわ」
カリストの説明であっさりと納得した両親を見て、モニカはぽかんとする。
もっと反対されると思っていたモニカとしては、肩透かしを食らった気分だ。
「あの……。世間的には婚約前の同棲になるのですが、お二人とも許可してくださるのですか……?」
「世間がどう思おうと私たちは、モニカの身の安全を第一に考えるよ」
「そうよ。それにモニカには、女神様だったころの記憶もあるのでしょう? 心は立派な大人よ。あなたの決断を尊重するわ」
(そう思ってくれていたんだ……)
先ほども両親は手続きの心配をしただけで、同棲自体を心配するものではなかった。
そして最も安全な場所がカリストのそばだと両親が考えるのはひとえに、カリストがこれまでモニカの体調管理をしてきたからだろう。
これまでの人生ではモブ体質のせいで両親にも忘れられがちだったが、モニカを思い出した時の両親はいつもモニカを一番に考えてくれた。
それが二人の本質だったのだと改めて知ることができた。
「ありがとうございます。お父様、お母様」
他作品ですが、十二月に発売されたアンソロジーコミックに収録されている「愛のない結婚を繰り返そうとする夫に、賛同します」が本日からpixivコミック様にて期間限定で無料で読むことができるみたいです。
前編が本日、後編がたぶん来週月曜に公開されます。
ご興味がおありの方はぜひ!
https://comic.pixiv.net/works/12637




