142 モニカの新しい生活12
思わぬ提案にモニカは驚きながらカリストを見つめる。カリストは冗談を言っているわけでもなく真剣な様子だ。
「俺の住まいとして、神聖宮を与えられたんだ。もともとはモニカのために作られた場所なのだろう?」
「もしかして、六角形の建物ですか?」
「そうだ。勇者の記憶によると、昔は砦として使用していたようだな」
「はい。まだ健在だったのですね」
あの時代はすでに国家は崩壊していたので、その砦を拠点として人材をあつめ、今のこの国の基礎を築いた。モニカが天界へ帰ったころは、今の王宮を着工したところだった。
砦はとっくに役目を終えて取り壊されていたと思っていたが、まだ残っていたようだ。
「神聖宮は代々、呪われた子孫の住まいだった。表向きは、身体の不自由な王族に少しでも女神のご加護があるようにと、こんな名前がつけられたようだ。俺のように神聖宮にすら住まわせずに隠された者もいたが」
「カリスト……」
結局、カリストは王族として認められたが、住まいとして与えられたのは呪われた者が住む場所。カリストの呪いは完全に解かれたというのになぜ、いまだに虐げるような待遇なのか。
憤りを感じていると、モニカの頭にカリストの手が乗せられる。
「そんな顔をするな。俺はむしろ、神聖宮を与えられてうれしかった」
「なぜですか……?」
「モニカと出会う前に与えられていたら嫌な思い出として残っただろうが、今の俺にとっては、モニカが住んでいた場所という特別感しかない」
どうやらカリストにとっては、かつてのモニカの遺産であるほうが重要で、呪われた者の隔離場所であったことは気にならないようだ。
(先生が前向きにとらえているなら、私も気にしないほうがよさそうね)
モニカにとってはむしろ思い出深い懐かしい場所でもあるし、かつての女神の住まいだったと広めれば、カリストにとってはむしろプラスになるはず。
「そういうことでしたら、安心してお邪魔できますね」
「住む気になったようだな」
本当はレナセール家で両親と一緒にくらしていたかったが、今日のような騒動が起きてしまったからには、両親の安全も確保しなければいけない。
そのためには、モニカ自身がより安全な場所へ身を置くのが一番だ。
「はい。今はカリストのご提案が最善策だと思います」
異論はないと伝えてみるも、なぜかカリストは不思議そうな表情を浮かべながらモニカを見つめる。
「どうかしました……?」
「いや。同棲するとなれば、モニカはもっと動揺すると思っていたが……、意外と冷静だな」
「えっ……。どう……せい……?」
「未婚の恋人同士が一つ屋根の下で暮らすのだから、同棲だろう?」
「でっでも、これは……私の身の安全と心の安寧を心配してくださったからですよね……?」
「理由はどうであれ、同棲は同棲だ。しかも世間的には、婚約式もまだしていない二人の同棲ということになる」
知らず知らずのうちに、かつての女神としての感覚でものごとを考えていたことに、モニカは気がつく。
女神の自分ならば住む環境は自由に決めてよかったが、今は未成年の貴族令嬢。何を決めるにしても親の許可が必要になるし、世間体も気にしなければいけない。
急に令嬢としての自分が戻ってきてあたふたし始めた。
「どうしましょう……。同棲だなんて……うちの両親が許してくれるでしょうか……」
「許可を得るのは俺の役目だ。事情を丁寧に説明すれば、モニカのご両親もきっと納得してくれるはずさ。モニカは持ち出す荷物のことでも考えていてくれ」
このような時のカリストは、頼もしく見える。
モニカの父もそんなカリストの性格を見込んだからこそ、婿に最適だと考えたはずだ。
誠実に話し合えばきっと良い結果が得られる。
モニカはそう安心しながら、翌日を迎えた。




