第13話 経営資源としての『モノ』
ある日の、煉のおじいさんの家にて…
「美琴ちゃん、いらっしゃい!」
「お邪魔します!」
今日は煉のおじいさんの喜寿祝いで、煉と一緒におじいさんの自宅を訪れていた。
「これ、気持ちばかりのものですけど…」
そういうと、私は綺麗にラッピングされた箱を、玄関から居間まで案内してくれたおばあさんに手渡した。
「まぁ!私たちは美琴ちゃんが来てくれるだけで嬉しいというのに!あの人も喜ぶわ。ありがとうねぇ」
「いえ!」
”スタスタスタスタ…”
「あなた!美琴ちゃんがあなたのお祝いにって、これを!」
居間につくと、おばあさんがおじいさんに私のプレゼントを渡す。
「おやおや!煉!!彼女さんに気にしないように言っておくれって言っていなかったか?」
「じいちゃん!言ったんだけど、『気持ちだから』って美琴が聴かなくてさ」
「本当に、大したものじゃないんです。気にしないで下さい!」
「ありがとう。大切にさせてもらうよ!」
「はい!」
「さて、煉と美琴ちゃんも来たことだし、夕食にしようかね」
台所から、おばあさんがおよそ4人では食べきれない程の料理を、居間のテーブルに並べる。
「…ばあちゃん…ちょっと奮発しすぎなんじゃ…」
「おじいさんのお祝いだもの。それに、余ったら冷凍しておいて、明日以降に食べるから大丈夫よ」
「まぁ、そういう訳だから食べるとしよう」
食事の挨拶をし、各々が思い思いの料理を手元の皿に運ぶと、それを口に運んでいく。
「…それにしても、『飽食の時代』とはよく言ったものだな」
「そうですねぇ。私たちが結婚した頃は、最初の東京オリンピックが開催されたり、テレビ・冷蔵庫・洗濯機が三種の神器って言われた、日本の高度経済成長の真っただ中で、物不足がやっと解消されつつある時代でしたからねぇ。終戦前後に生まれた私たちの世代は、誰もこんな世の中になるなんて、想像もしていなかったわね」
「おじいさんが私たち位の頃は、スーパーやコンビニってあったんですか?」
「今のようなスーパーやコンビニはなかったな。デパートは戦争が起こる前の大正時代からあったから、高級なものを買おうと思ったら、都心に出ていたな。ばあさんとのデートも、専ら都心だったしな」
「嫌ですよあなたったら、孫と美琴ちゃんの前で!!」
「都心のデパートには、物不足の時代にも多くのモノが流通していたな。戦後の日本の経済復興の基本は、大量生産・大量販売だったからな。そのうち、スーパーやコンビニが全国的に広がって、大量生産・大量販売による日本の高度経済成長が支えられた、という訳だ」
「それ、この前の大学の講義でも取り上げられていたよ。物不足の時代は プロダクトアウト で戦略を立てるのが効果的だったって」
「市場のニーズは意識せず、企業が保有するノウハウなどを重視して企画や開発して市場に大量投入するって奴だな。で、今は逆に市場のニーズを意識して、必要とされているものを必要なだけ市場に投入しないと利益が出ない、という訳だ」
「それが マーケットイン という考え方だって、教授が言ってたよ」
「おじいさん、とても博識なんですね!!」
「じいちゃんは、こう見えて高校の社会、それも政治経済がメインの先生だったんだ」
「『こう見えて』は余計だぞ!煉!!………日本の経済は、物不足の解消によって、戦後の高度経済成長が生まれ、世界で第3位のGDPを誇る国になった。少し前に中国に抜かれる以前は、アメリカに次ぐ第2位の時代もあったんだ」
「確かに、いくら優秀な ヒト が会社にいても、企業活動を行うためには モノ がなければ始まらないからな…」
「プロダクトアウトにより、市場に物があふれるようになった現代は、当然マーケットインの考え方で製品を流通させなければ、それは売れ残ってしまう。ばあさんがわしらの前に用意したこれらの料理も、スーパーやコンビニのマーケティング担当者がしっかり戦略を立てた上で、消費者に買ってもらえるよう、マーケットインを試行錯誤した結果だと言えるだろうな」
「それでいて、企業は利益を増やして総資本を減らし、 総資本利益率 (利益/総資本) を高めなければならないから、モノとして残しておく必要のないものは売却してカネにしたり、モノとして引き続き使う場合は売却してカネに替えた後、レンタルして手数料を払うようにするといった、企業の財務諸表からモノという資産を外す (オフバランス化)を図ったりするんだよな」
「金融機関が企業にカネを貸す時は、企業が苦労して作成した財務諸表の各項目を時価で再評価して、 実態貸借対照表 を作って融資の判断材料にすると言われているからのう。で、企業は借りたカネで各種投資を行って事業規模を拡大していく訳だから、 投資の採算性 を見極める必要もある。プロダクトアウトだけ考えていればよかった時代と比べて、現代の企業家は頭を痛めることが多くて大変そうだのう」
「そうだよな!!それでいて今のマーケットは………」
「………また始まってしまったわね…」
「煉とおじいさん、何だかとっても楽しそうに話してますね!」
「元々この人は高校教師。人と話すことが好きな人だからねぇ。それでいて、煉が経済の話ができる上に、これから教師になろうとしている。盛り上がらない方がおかしいって訳よ」
「煉がお家に来ると、いつもそうなんですか?」
「まぁ、大体はね。政治や経済の話で盛り上がると、私は入る隙もないわね」
「そうなんですね」
「美琴ちゃん。こんなんでも良かったら、また来て頂戴。私とこの人も、煉とあなたが来るのを、心待ちにしているから」
「はい!そうさせて頂きます!!」
「…わしが若い頃の日本経済はな………」
「…お料理が冷めないうちに、私たちはいただいてしまいましょう!」
「そうですね!」
第14話 に続く
☆検定問題にチャレンジ!!☆
次の、経営資源のうち「モノ」に関する記述のうち、不適当なものを1つ選びなさい(剣世炸作成 オリジナル問題)
1.モノが豊富であれば、企業は販売機会の逸失利益の減少や生産性の向上が期待できる。
2.モノが不足している時代には、マーケットインによって実際に必要とされているモノを必要なだけ市場に投入するのが効果的な経済戦略である。
3.遊休資産としてのモノを所有している場合、売却してカネに替えることで、総資本を減らすことができ、総資本利益率を高める一助とすることができる。
4.モノを売却したり借入金の借入等により調達した資金を用いて設備投資等を行う場合は、投資の採算性を合理的かつ客観的な基準により見極めて、適切な意思決定を行う必要がある。
不適当な選択肢は…
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2.モノが不足している時代には、マーケットインによって実際に必要とされているモノを必要なだけ市場に投入するのが効果的な経済戦略である。
☆ 解 説 ☆
モノが不足している時代には、プロダクトアウトによって、市場のニーズを意識することなく、企業が保有する技術やノウハウなどを重視して企画・開発して市場に大量投入・大量販売する戦略が効果的であったため、2は不適当ということになります。




