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太陽の下に隠れた傍観者  作者: 紗倉 悠里
≪第一章≫ 裏表裏。
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面白くない混沌

【第九話】<面白くない混沌> -“狂った子供(チルドレン)”-



 キー、キー……。


 頭の中で、サイレンみたいな音が鳴り響いている。久しぶりのこの感覚。このサイレンは警戒音なんだけど、なんだか落ち着いてしまう自分がいた。


 ふぅ、と心の中でため息をつく。


 どうやら、ボクは電源を切られてしまったらしい。しかも、突然に。とても危険なことだった。それに、リスクも半端ない。

 しかし、これがどれだけ危険でリスクがあることか言葉で表現しろと言われると、なかなか表せない。

 とーっても簡単に例えるならば、「最後まで進んだゲームのセーブを忘れてしまい、次起動させた時には全てのデータが消えていた」というようなものだ。

 つまり、ボクからも一定の記憶が消えてしまう。流石に、全ての記憶が消えることはないけどね。


 電源が切られる度に、ボクは必要なことも不必要なことも忘れていく。せめて、必要なことくらい残していってくれたらいいのに、ボクの頭にある記憶機能はあまり性能が高くないらしい。全部、忘れていってしまう。

 なんだか切ない感情だった。でも、考えてみれば、ボクの存在自体が消えなければならないものなのだ。いっそのこと、ボクの存在自体を忘れてしまいたい。ボクなんか、いなくなってしまえばいいのだ。

 ……皆さんは、薄々気づいているんじゃないかな。

 ――ボクが人造人間であるってことを――


 ちょっとだけ、長くなる話をしたいと思う。どうせ、あと一時間でまた新しいデータが起動するんだから、それまでのボクの悪足掻きをしておきたい。今のデータが消えてしまわないうちに、ね。


 まず、ボクは人造物である。

 そして、そんなボクを造ったのは他の何者でもない、白野 歩だった。彼は、“傍観者(ノーサイド)”と呼ばれることを好んでいるから、ボクは彼のことを“傍観者(ノーサイド)”としか呼ばないが、本当の名前は白野 歩だ。

 このことを頭にいれてから、聞いて欲しい。



 昔々、約100年前の話。この世界の、前の世界の話だった(といっても、これはかなり分かりにくい表現だと思う。でも、簡単に言いたくても言葉が見つからない。とりあえず、この世界は第二の世界で、100年前には第一の世界があった、という解釈をしておいてほしい)。


 そこに、一人の少女がいた。名前は忘れたけど、腰までの黄色い髪をしていて、とっても綺麗な女性だったらしい。

 そして、もう一人。黒い髪の男がいた。彼は、優しい人間だった。……ただ一つ、重い過去があったことを除けば。しかし、その過去は、彼にとって忘れたいものであり、あってはならない事実だった。だから、消された。まるで鉛筆の文字を消しゴムで消されるように、綺麗に、だけどくっきりと痕を残して、消された。

 彼女と彼は、夫婦だった。そして彼は、創造主の友人の生まれ変わりだった。だから、「台本」という道具を所持していたのだ。

 台本というのは、世界を造る道具だった。創造主によって創られた世界に、付け足すものを造る道具。

 そして、その台本はまさに全知全能だった。この道具の手にかかれば、全ての事実を捻じ曲げることも、嘘を本当にすることも、可能だった(本当は一つだけ欠点があったのだけど、今ここでは棚に上げておくことにする)。

 だから、あの二人の心は、その台本に捉えられてしまった。それで、二人は沢山の人を騙して、振り回して、挙げ句の果てには殺しちゃって……そんなことまでして、自分達の願望を叶えようとした。

 その願望は……「この世界を創りかえたい」というものだった。

 しかし、その願望には沢山の障害がある。

 だって、考えてみれば当然のこと。創造主が創った世界を、創造主が創ったモノで壊すなんて、到底不可能。

 なのに、二人はどうしても壊したかった。願望を、叶えたかった。

 そして、ある日。その願いは叶った。台本によって造られた「世界を終わらせるボタン」は、実に有能だった。有能っていうのは、世界が本当に壊せる、ということ。

 しかし、それは同時に、『創造主が創ったモノが創造主よりも優っていた』ということを証明することにもなっていた。

 でも、二人はそんな事実には気づかなかった。だから……完成したボタンを押した。

 そしたらね、世界は真っ赤っかになる。その後で、真っ白になるの。

 なんで真っ赤っかになるか。それはね、光が赤いから。その光は、世界を壊せる力を持っていた。全てを、粉々の粒子にできる。それは、すごい力。

 こんなちっちゃな世界を壊すことは、赤い光には簡単なことだった。あっという間に世界を覆い尽くして、壊してしまった。

 さて、ここからが重要。世界に、大変なことが訪れてしまった。


 この世界を終わらせるボタンには、世界を壊す力はあった。だけど……新しい世界を創る力なんて、なかった。だから、このボタンを押した後で、新しい世界は誕生しなかった。人は一人残らず消えて、文明も全部なくなった。地球って存在は消えて、宇宙も消えた。ぜーんぶ、真っ白になる。



 はずだった。


 だけど、そうならなかった。なぜかって? それは、世界が創られたから。分かりやすくいうならば……「世界を終わらせるボタンに対するモノができたから」。

 そして、それを創ったのは……“傍観者(ノーサイド)”だつた。

 “傍観者(ノーサイド)”が造った、世界を創るモノの名前は、「世界を創り上げるボタン」。ふざけてる名前だけど、一応彼は大真面目に造ったものなんだよ。

 



 “傍観者(ノーサイド)”は、あの夫婦に対抗して、そのボタンを造った。そして、それはあの夫婦が造ったボタンよりも強力だった。

 だから、世界はもう一度創られた。

 だって、もし“傍観者(ノーサイド)”が造ったボタンが、あの夫婦のボタンと同等だったとしたら、二つの力は打ち消されて、世界は壊れたのと同じようになってしまうでしょ? 


 だけど、あの夫婦はある勘違いをしていた。

 彼らは……世界を終わらせるボタンが、一旦旧世界を終わらせた後で、新しい世界を創造する、と考えていた。本当は、世界を終わらせてしまうだけなのに。

 それは、アリが砂糖と塩を間違ってしまったくらいに大変な勘違いだった(勿論、実際にアリが砂糖と塩を間違うことはないんだけどね、私の力ではこれくらいの例えしか思いつかないの)。

 とりあえず、彼らはこのボタンにそんな力があると思い込んでいて、だから、気に入らないことがあるとすぐにこのボタンを乱用しようとした。だけど、勿論それはイケナイこと。

 “傍観者(ノーサイド)”が造ったボタンだって、そんなことにいちいち対抗してられない。

 だから、“傍観者(ノーサイド)”は彼らからボタンを奪いとった。


 実に巧妙な口術で、彼らからボタンを奪ったんだけど、二人は奪い取られたなんて思ってないよ。だから、窃盗じゃないの、一応。まぁ、そこらの話はまた今度。


 キー、キー……。


 ボクがやっと話の序章を終えたその時、頭の中で鋭い警告音が響いた。

 あーあ、折角ここまで話せたのに。ボクは、とっても悔しい。もう、このことは忘れちゃうから。折角、こんなに話せたのに。あともうちょっとで、話の真ん中にはいれるところだったのに。

 さっきの音は、ボクのデータが消滅され始めた合図。これが鳴り始めたら、データはどんどん消えていく。だから、ボクに残された時間はそんなに長くない。

 身体にはなんの変わりもなくっても、データは、確実に消えていっている。それも、結構な速さで。

 その証拠に、ボクは今話した昔話が何年前のことか、思い出せなくなってる。

 とても残念だけど、もう、あまり長い話はできなくなっちゃった。

 今こういっているうちにも、データは消える。あれれ、世界を終わらせるボタンって、“傍観者(ノーサイド)”が造ったんだっけ? それとも、あの夫婦?


 キー、キー……。


 あ、一つだけ思い出した。それは、あの夫婦の名前。

 二人の名前は確か――


 キー、キー……。


 坂から始まってたっけ。


 キー、キー……。


 あれれ、それとも赤だったかな。あ、白からだったかもしれない。


 キー、キー……。


 なぁんだ、ボクなんにも思い出してないじゃん。っていうか、ボクって何か思い出したっけ? ううん、なにも思い出してない。


『白咲 葵 データ ヲ、強制削除 シマシタ』


 頭に、規則正しい電子音がした。

 それは、女声のようで、男声のようでもある。

 

 

 ――「やめてぇぇぇっ!!!!」

 私は、そう叫んだ。なのに、やめてくれなかった。

 ナイフで切られて、ハサミで切られて。

 いたいよ、いたいよ、助けてよ……ねぇ、なんで助けてくれないの?

 あなたは、私の味方でしょ? そうだよね?――



 頭の中で、知らない人の記憶が浮かぶ。なんだろう、これ。

 っていうか、ボクに味方なんていた? それに、ボクは自分のことを「私」なんて呼んでない。

 この記憶、誰のモノだろう。ボクの記憶ではないから、きっと他人のモノなんだけど、思い出せない。ボクは、『やめてぇぇぇっ!』なんて叫んだことはない。


 ボクは、悶々としてる考えを抑えて、すっと立ち上がる。そして、まだちょっと寝ぼけてる頭を軽く叩きながら、寝室のドアを開けた。

 きっと、この記憶は夢の中でのこと。頭がぼーっとしてるだけ。

 いつもの通り、覚醒したら全部忘れるよ。

 大丈夫、ボクは“狂った子供(チルドレン)”だから。

 


 キー、……。

 なにかの音が、小さく頭に響いた。

 あぁ、ウルサイな。たまにあるんだよね、耳鳴りみたいな、この音。文字通り、『耳障り』だな、っていっつも思うんだ。



【第九話 END】


 





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