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太陽の下に隠れた傍観者  作者: 紗倉 悠里
≪第一章≫ 裏表裏。
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話しちゃ、ダメ

【第十話】<話しちゃ、ダメ> -???-


 私は、今、自分の車の中にいる。そして、右手には黒いスマートフォンを握っている。


 私は、このスマートフォンが「悪」なのだと知っている。だから、壊さなきゃならない。

 だけど、これを壊したら怒られちゃう。時雨に怒られるなんて、もううんざり。

 よく考えれば、彼には昔からよく怒られるのよね。寿樹の時は、私が彼の育ててるチューリップに触ったから怒られたし、時雨の時には、お前の料理の味が薄すぎて不味いって怒られた(どちらかって言われると寿樹の時よりかは時雨になった今の方が優しいと思う)

 それでも。優しい人間だろーが、怖い人間だろーが関係なく、人に怒られるのは気持ちいいものじゃない。その上、私はMでもないからね。もしMだったとしたら、心の痛みもちょっと軽減されてたんだろうけど、それは仕方ない。


 とにかく、私はこの手に握っているスマートフォンを壊すことに専念するしかない。怒られるのは嫌だけど、逃げればきっと大丈夫。

 しかし、私は、このスマートフォンの設計は知らない。

 もし変に壊してしまえば、後で一生後悔するようなことになるかもしれない。

 とりあえず、壊す目標は手に入れたものの、壊し方が分からない。これは困った。どうすればいいのだろう。

 プチ、と電源ボタンを押して、電源をつけてみる。直様ロック画面が表示された。私は、画面上で指をスライドさせる。まだパスワード機能は設定されてないらしく、指を横にスライドするだけでロックは解除された。


 ふふっ、ここはパスワードを設定しておくところよ、歩。そしたら、私はこれに侵入できないのに。

 歩は、あのロック機能のついたドアを過信してるんじゃないの? 絶対、このドアを突破できる奴はいない、ってね。あーあ、詰めが甘いわ。残念ね、歩。私には、“盗みのプロ”が友達にいるんだから、それくらい、簡単に突破可能なのよ。

 

 ロックを解除してから、なにをしようかなー、と画面を意味なくスライドする。

 そして……とっても面白いことを思いついてしまった。“あのゲーム”をこれにインストールさせようじゃないの。そしたら、これを直接壊さなくても、あのゲームが内部から間接的に壊してくれる。

 あははっ、私っててんさーいっ。思わず、自分の頭を撫でたくなるのをどうにか我慢して、スマートフォンのアプリ購入画面まで、指を走らせた。

 そして、あのゲーム「Die Application」をインストールする。値段は、無料。購入画面には「\0」と表示されていた。

 インストールするのには、結構時間がかかるみたいだ。なかなかインストールが進んでいない。

 私は、待つのがめんどくさくなってきて、スマートフォンを助手席に放った。

 放られたスマートフォンは、見事な弧を描く。 そして、助手席の柔らかなクッションに当たると同時にぽふんと可愛らしい音を立てた。

 画面には、「1.25%/100%」って書かれてあった。正直、「なんで、少数第二位まであんの!?」って突っ込みたいけど、そんな汚い言葉ははしたないからやめておく。それに、これ作ったの自分だしね。多分、今の私の頭の中を文字にするならば、「私頭悪すぎワロタ」になると思う。

 勿論、こんなに汚い言葉は、使ってはいけない。それは、昔からちゃんと躾けられてる。


 じゃあ、なんで使ってるかって?

 こ、これは、頭の中だからギリギリセーフなのっ! セーフだもん、アウトじゃないーっ!





 コホン。話を元に戻そう。

 とりあえず、暇な私は街をドライブでもすることに決めた。

 車のエンジンをかける。もうこの車は古くなっているから、エンジンの音がちょっと危ない。まるでヨボヨボの老人のようにか弱いエンジン音しか出さない。

 そろそろ、車を替えた方がいいのかも。それなら、カローラかベンツがいいなぁ。あ、でも、アウディもいいなぁ。あ、それとそれと(全部言えばきりがないので略)

 

 特に当てもなく運転していく。最初は女子高生が沢山いたけど、やがて人気のない古い街並みへと風景が変わっていく。

 人が沢山いるのもいいけど、こうやってちょっと古くなった街も趣があっていいと思う。……まぁ、私にそんなことを敏感に感じ取れる心があるのかと聞かれると、自信はないけどね。

 どうせ時間も余ってることだし、と、なんとなくゆっくり走ってみる。この街には、今はあまり見かけない八百屋さんや駄菓子屋さんが並んでいて、つい立ち入りたくなる。けど、ドアに「閉店しました」って感じの内容の張り紙が貼られているか、シャッターが閉められているかして、入ることはできない。

 と、一つの自動販売機を見つけた。

 他の自動販売機はもう動いていないのに、この自動販売機だけはまだ電気がついている。なるほど、ここだけ稼働してるのかな。

 天然水や、お茶、炭酸水。そんなものを見ていると、なんだか喉が乾いてきた。

 もうちょっとで自宅だし、ここで買わなくていいじゃない。

 そう思ったけど、なんだかここで買った方がいい気がした。うん、なんとなくだけどね。

 ってことで、私は車から降りた。キョロキョロと周りを見回してみるけど、誰もいない。

 相当、寂れてるんだなぁー。なんだか、しみじみしてしまう。

 あと100mもしたら大型のショッピングモールがあるのに、そことは大違い。

 あのショッピングモールも、やがてはここみたいになるのかな。

 そんな考えに浸りながら、自動販売機にお金をいれる。そして、お茶のボタンを押した。


 ピッ。


 そんな音が鳴る。

 しかし、お茶は落ちてこない。

 あれれ? 可笑しいなー。

 私は、もう一度ボタンを強く押してみる。だけど、今度は音も鳴らない。

 うわぁ……。なんだか、涙が出そう。

 なんとなんと、この自動販売機は壊れていたらしい。ってことは、私のお金は返ってこない。

 その事実は、なによりもお金に執着している私にとって、涙がまるで、ナイアガラの滝のように流れ出るほどに辛いことだった。

 たかが120円だろ? そう思う人もいるかもしれないけど、120あれば、某棒が12本も買えるんだからねっ! そう思えば、大切でしょ? でしょ?

 多分、今環金詐欺の電話が掛かってきたら、私はホイホイと釣られてしまうと思う。それくらい、辛かった。

 

 なんか、物凄く腹が立った。腸が煮え繰り返るって、きっとこのことなんだろーなー、って思った。


 とりあえず、自動販売機に一発蹴りをいれておく。「ガンッ!」大きな音が鳴って、自動販売機が少し凹んだ。うわぁ、女の人の蹴りで凹むなんて、大分脆いんだなぁ……。

 まぁ、こんな古いとこだし、腹が立つけど今回はこれだけで許してやろうじゃないか。今度見かけたら、ぶっ壊してやる!


 そんな、正義のヒーローに負けた魔王の捨て台詞のようなセリフを心の中で吐くと、車に乗り込んだ。私のこの言葉は、捨て台詞じゃない。決して。


 こんなことになるんだったら、家でお茶飲んだ方が良かったよ。馬鹿だなー、私!!


 なんか、すごく情けない。この話、家に帰ったら、我が息子に聞かせてあげようかな。まだ昼過ぎだけど、今日入学式だったから、もう帰ってるはず。

 それにしても、入学式だったのに両親揃って出られなかったな……、ごめんね。折角だし、息子の晴れ姿は見たかったんだけど……仕事があるからね。

 え、私が暇そうに見える? そ、それは、私が早く仕事を終わらせたからだよっ。う、嘘? ついてない、ついてない。信じてよぉ……ぐすん。


 また車のエンジンをかける。相変わらず、ヨボヨボな音で、こっちの気が抜けそう。

 はぁ、とため息をついて、自動販売機への怒りを全て体外に吐き出す。そして、運転を始めた。

 人のないこの街並みは、意外と長い。だから、結構速度を出しても大丈夫だし、誰にも怒られない。きっと、警察もこんな寂れた所まで入念にパトロールしに来たりはしないはず。

 ってことで、私は警察が聞けばすぐに私を逮捕するくらいの速度でかっ飛ばしていた。本当に逮捕されたら困るから、ここでは言わないけどね。


 そのまま、私は街並みを通り過ぎた。そして、次に私の前に立ちはだかるのはショッピングモール。ここの広告には、いつもセールのことが書かれてあって、すっごく魅力的。安いものをみると、ついつい大量購入してしまうのが私の悪い所なんだけど、ここの物は品質もいいから、買ってしまう。まぁ、仕方ないのよ、うん。やっぱり、主婦の本能が植え付けられてるのよね。

 だけど、今日は特別買いたいとは思わなかった。さっきの件で、私はちょっとだけ販売関係に不信感を抱いているのかもしれない。

 だから、今日は大量出費なんてこともなく、無事家に辿り着いた。




「おかえり……じゃなかった。ただいまーっ!」

 うぅ、恥ずかしい。間違えてしまった。

 とっても恥ずかしいことに、私はよく挨拶を間違えてしまうのだ。今のみたいに、おかえりとただいまみたいな挨拶は、三日連続で間違えることだってある。大人なのに……思われるかもしれないけど、無理な物は無理。

 あ、間違えと言えば、右と左もよく間違える。「そこの角を左に曲がって……」とか言われると、必ず両手を広げて確認してしまう。「お茶碗持つ方が左手」と。

 いつか、そういうことがきちんとできる大人になりたいな。

 私がただいまと声を掛けると、中から少女が走り出てくる。「母さん、お帰りーっ!!」と。勿論、彼女は私の娘、雪である。なんとも愛しく、可愛らしい。今は、中学三年生で、来年は高校一年生。


「ただいま、雪」

「お帰りーっ」


 私は、ぎゅーっと抱きついてくる雪の柔らかな髪を撫ぜてやる。その時に雪が気持ち良さげに目を細めるのが、私の癒し。これを見るだけで、元気100%になれると豪語する私は、俗にいう「親バカ」なのかもしれない。


「ははっ、また母さん間違えてたなっ。いつになったら直るの、それ」


 私が雪を全身で愛でている時に邪魔してくる人影が一人。勿論、こいつも私の子供、夜人。

 生意気な所はあるものの、いつも和かな夜人は、やっぱりいい奴で、放っておくことはできない。


「もーっ、うるさいわねっ! 仕方ないじゃないっ」


 私は、ぷぅーっと頬を膨らませる。

 その後で、雪ににっこりと微笑んでから雪の元から離れる。そのまま夜人の方に行って、夜人の脇腹にそっと手を置く。そして……コチョコチョ攻撃開始!

 指を猛烈に早く動かして、コチョコチョを始める。それに合わせて、夜人が爆笑する。


「ひゃひゃひゃっ!!……ははははっ、ちょっ、もう、やめ、て、母さん!!」


 夜人は爆笑しながら必死に逃げようとするけど、私は逃さない。

 私を揶揄った恨みは、コチョコチョで果たしてやろうじゃないかっ! とばかりに、攻撃を続ける。


「もうー、私を揶揄うのが悪いのよー?」


 ふふっ、と微笑みながら、そう言うと、夜人が軽く私を睨みつける。といっても、笑いながらだから待ったく威厳はない。


「も、もうしない、からっ! はははっ、ははっ、ごめん、ははっ、母さんっ」


 夜人は、必死に謝る。あまりに攻撃が効いているのか、真っ赤な顔の目の端に涙さえ浮かんでいる。

 やっぱり、我が息子だ。生意気だけど、可愛い。

 私は、攻撃をやめると、今度は夜人の頭を撫で回した。


「やっぱり可愛いなー、あんたは」

「やっ、やめろよ、母さん! 俺男だし、そんなの嬉しくねぇしっ!」


 夜人は、攻撃が終わってここぞとばかりに逃げて行ってしまった。ちぇっ、もうちょっと撫でたかったんだけどなぁー。

 そんなことを思いながら、夜人の後ろ姿を見ていた。

 そして、雪はそんな夜人の後を「待ってよ、夜人ーっ!」と走って追いかけて行った。あぁ、可愛らしき我が子供よ。そんな姿は可愛すぎるよ。

 親バカオーラを周りに振りまきながら、リビングの椅子に座った。そして、テレビをつけようとリモコンに手を伸ばしたその時――歩から電話がかかってきた。

 ピロリン、ピロリン。軽快な音楽が鳴る。この音楽は、歩専用の着信音。

 その時、あまりの私の子供の可愛らしさに、スマートフォンのことなんて忘れていた私は、電話にすぐに出てしまった。


「はい、もしもし」

「おい、梅子。俺の研究室の試作品がないんだっ! 知らないか!?」


 その声を聞いて、上気していた身体が、一瞬で冷えたのが分かった。

 やばい、暴露たのかな? でも、知らないか!? って聞いてるんだから、歩は私が盗ったとは思ってないはず。


「え、知らないよ? なくなっちゃったの? それ、大変! 私もそっちに向かおうか?」

「いや、いい。……お前は家にいろ」


 私が答えると、急に冷たくなった歩の声はそう言った。きっと、私が持っていないと分かって、興味がなくなったんだと思う。そのまま、ブチリと電話は切れてしまった。


「もぅ……。あ、そういえばスマートフォン助手席に置いたままだった!」


 私は、慌てて車の方に向かった。

 窓の外から助手席を確認すると、スマートフォンはちゃんとそこにあった。

 安心して深いため息をつくと、鍵を開けてスマートフォンを取り出す。

 そして、もう一度鍵をかけると、また家に帰った。


 私は、知らなかった。

 このスマートフォンが、ウイルスを持っている、なんてこと。

 私は、ただ、このスマートフォンが「悪」だということしか知らなかった。



【第十話 END】




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