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魔王討伐後、猫カフェ開業資金を稼ぐためにダンジョンへ潜ります ~見た目は銀髪ロリ美少女、中身は十一サークル大魔導士~  作者: ツユユです


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第5話

「……あ。」


俺が視線を向けた先にいたのは。


粗末な棍棒と錆びた刃物を手にした、小柄な魔物の集団だった。


子供ほどの背丈。


大きく垂れ下がった耳。


潰れたような鼻。


そして。


欲望に濁った黄色い瞳。


「……ぷぅ、期待してたのに、ゴブリンかよ……ぷぅぅぅ」


こいつらを見るのも、随分久しぶりだ。


ゴブリン。


前世では嫌というほど戦った相手だった。


魔王城へ向かう道中。


それこそ雑草みたいに湧いて出てきた連中。


最初の頃は魔法で一匹ずつ処理していたが、途中からは魔力を使うことすら面倒になった。


その結果。


「ヘラ、適当に蹴散らしておいて。」


「え!? 私勇者なんだけど!?」


「勇者なら弱い魔物くらい倒せるだろ。」


「そういう問題じゃない!!」


……そんな感じで、ヘラに任せていた。


ゴブリンの特徴なんて、結局そこまで変わらない。


数が多い。


卑怯。


そして。


「……相変わらず臭そうだな。」


結局それくらいだ。


ふと。


昔の仲間たちは今頃何をしているのか気になった。


こちらへ来てから、一度も考えたことがなかった。


俺が所属していた勇者パーティーは、全部で五人。


まず。


世界唯一の十一サークル大魔導士。


レオン・ラバンチ。


……つまり俺。


女神に選ばれた勇者。


ヘラ・ガステンベルト。


あいつ、今でも俺を探しているのだろうか。


「レオンーー!! どこ行ったのーー!!」


……とか叫びながら。


次。


あまり役に立たなかった暗殺者。


セシル・シノオブ。


ちなみに。


こいつの本名を正確に知っているのは、パーティー内では俺だけだった。


普段話しかけても。


『影は語らない』


とか意味不明なことしか言わないくせに。


あの日だけは違った。


俺が夜番をしていた時。


まだ日が昇る前。


セシルが突然近づいてきた。


「……私の名は……セシル・シノオブ……。」


そう言い残して。


そのまま寝床へ戻っていった。


「……いや、何だったんだよあれ。」


今でも意味は分からない。


だが、あまりにも印象的だったので覚えている。


なんとなく。


他の仲間に教えてはいけない気がして。


最後まで黙っていた。


次。


ドワーフのくせに戦うことしか考えていなかったタンク。


エドガー・トゥーン。


ちなみにこいつは男の子を――


「……。」


最後。


奴隷商から助け出したエルフの弓使い。


ビアンカ・フォン・ソルティディス・ベルギリウス。


……長い。


本人も気にしているのか知らないが。


俺は勝手に『ビッキー』と呼んでいた。


しかし。


俺が話しかけると、なぜか顔を隠して逃げる。


ヘラとは普通に話しているくせに。


命の恩人相手にその態度はどうなんだ。


……まあ。


女同士でしか分からない何かでもあるのだろう。


ちなみに。


魔王城で最後の戦いに彼ら二人がいなかった理由だが。


別に忘れられていたわけではない。


単純に。


エドガーは魔王城直前で。


「緊張してきた。ちょっとトイレ。」


と言い残して帰ってこなかった。


待つのも面倒だったので、俺とヘラとセシルだけで突入した。


ビアンカに至っては。


魔王と対峙する直前。


俺が耳元で。


「頑張れ。」


と囁いた瞬間。


「ひゃっ!?」


みたいな声を出して逃げた。


……絶対俺のこと嫌いだろ。


助けてやったのに!


まあ。


二人いなくても問題はなかった。


正直。


ヘラと俺だけでも魔王討伐は可能だった。


というか。


「あいつ、普通に弱かったしな。」


魔王とか名乗っていたが。


攻撃は遅い。


詠唱も長い。


避けるのなんて簡単だった。


俺の感覚では。


通りすがりのお婆ちゃんでも。


「よっこいしょ。」


と言いながら避けられるレベルだった。


一体どうやって魔王になったのか。


今でも謎である。


別に戻りたいとは思わないけど。


酒は不味い。


コーヒーも不味い。


「……まあ、いいか。」


俺は昔の記憶を切り上げる。


そして。


パチン。


指を軽く鳴らした。


ゴブリンたちがこちらへ飛びかかるよりも早く。


空気中へ極微量の魔力を散らす。


その魔力を媒介に。


奴らの体内にある魔力を強制的に暴走させた。


無詠唱魔法。


「……終わり。」


次の瞬間。


パンッ。


パンパンッ。


パンッ――!!


ゴブリンたちの頭が、まるで熟した果実のように弾け飛んだ。


一瞬。


あまりにも一瞬の出来事だった。


俺へ向かって涎を垂らしながら近づいていた十数匹のゴブリンは。


何が起きたのか理解する暇もなく、地面へ崩れ落ちた。


「お。」


俺は足元へ飛び散った液体を見る。


「紫色か。」


珍しい。


いや。


別に驚くほどではない。


俺のいた世界では、ゴブリンの血は濃い緑色だった。


どうやら。


この世界では生物構造が少し違うらしい。


まあ。


赤だろうが。


紫だろうが。


虹色だろうが。


死んでしまえばただのゴブリンの死体だ。


「……この程度なら余裕だな。」


魔法使いを志す者なら。


一度くらいはゴブリンを狩った経験があるはずだ。


魔塔の資格試験には、魔物の討伐証明として一定数の死体を提出する課題が存在した。


その中でも。


最も簡単に狩れて。


最も数を集めやすい魔物。


それがゴブリンだった。


言ってしまえば。


魔法使いたちにとっての公式的なサンドバッグ。


「新人魔法使いの頃は、何匹倒したかで競争してたっけ。」


通称。


『ゴブリン討伐数自慢大会』。


……いや。


今考えると、かなり頭のおかしい競争だった。


ちなみに。


俺が新人だった頃の記録は――


「1259匹。」


十一サークル大魔導士レオン・ラバンチが、魔塔を去るまで十一年間破られなかった記録だ。


もちろん。


あれは提出した死体の数だけ。


実際に倒した数なら、もっと多い。


……ただの自慢だ


「ふぁぁ……。」


思い出話をしていたせいか。


急に眠気が襲ってきた。


目尻に浮かんだ涙を指で拭いながら、再び歩き出す。


ゴブリンの群れがいる。


それはつまり。


近くに群れを支配する上位種。


ホブゴブリン。


あるいは。


ゴブリンシャーマン。


そんな存在がいる可能性が高いということだ。


前世の経験上。


これはほぼ確定事項だった。


「シャーマンがいたら少し面倒だな。」


あいつらは厄介だ。


隠密系の魔法を使う個体もいる。


もちろん、今の俺なら問題なく対処できるが。


それよりも。


「……でも。」


俺にはもっと重要な問題があった。


「ここにもいないのか……。」


俺は周囲を見渡す。


「猫っぽい魔物。」


この世界に来てから。


ずっと探しているもの。


可愛い生き物。


特に。


猫。


地球では野良猫という存在がそこら中にいると聞いた。


ネットでは毎日のように猫の写真が投稿され。


人々は嬉しそうに自慢していた。


なのに。


なんでだ。


なぜ俺の前には一匹も現れない。


数日前。


コンビニの裏で丸まっていた三毛猫を発見した時もそうだった。


俺は慎重に。


それはもう慎重に近づいた。


逃げられないように。


怖がらせないように。


あと少しで触れられる距離まで近づいた瞬間。


「シャァァァッ!!」


猫は。


まるで悪魔でも見たかのような顔で威嚇し。


塀の向こうへ消えていった。


「……。」


あの時の傷は、まだ癒えていない。


「俺だって……撫でたいのに。」


ふわふわの毛を触りたい。


お腹に顔を埋めたい。


ゴロゴロという音を聞きたい。


なのに。


なぜか動物という動物に嫌われる。


この世界だけじゃない。


前世でもそうだった。


だからこそ。


今、魔物を探している。


普通の動物ではなく。


魔物にしか使えない魔法。


『絶対命令』


それを試してみたいという目的もあった。


36年の人生。


そして。


5年間の戦争。


その果てにようやく手に入れた自由。


なのに。


どうして。


猫一匹撫でることが、魔王の首を刎ねるより難しいんだ。


「……よし。」


俺は決意する。


目的変更。


ホブゴブリン討伐…


じゃない。


「猫に似た魔物を探す。」


それだけだ。


そんな極めて個人的な目的を胸に、俺は森のさらに奥へと足を踏み入れた。

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