2 今野くん
まさかこんなところに知り合いがいるなんて。
「今野くん?」
今野くんは同じクラスのあんまり話さない男の子。席も遠いし、接点がなかった。
「偶然」
「そうだね」
バランスを崩しそうになる私の肩を支えてくれた。
「大丈夫?」
そのとき目が合って、今野くんは私よりもちょっと背が小さいんだなって思った。
「足がもつれちゃった。ごめんね」
「ううん」
私たちのぎこちないやり取りを弟が顔を見上げて聞いている。
「お姉ちゃんの友達?」
「同じクラスの今野くん」
と言いながらも、正直、彼のことはクラスの席にぽつんと座った小柄な男の子という印象しかない。たまに他のクラスの友達が来て、そのときは楽しそうに話している。
「よろしく」
今野くんは丁寧に腰をかがめて虎と視線を合わせてくれた。
「お兄ちゃんも電車好きなの?」
「あ、うん」
と今野くんが答える。
「知らなかった」
私は言った。
「吉崎さんが知らなくて当然だよ。学校じゃ隠してるし」
「なんで?」
「キモいから?」
「好きなことがあるってすごいことだと思うけど。私ここに初めて来たんだけど、弟に乗り換えとか教えてもらって、こんなに小さいのに偉いなって思ったよ。一度も迷わなかったし。尊敬」
私が頭を撫でると虎はふふんという感じでにんまり笑った。
「今日、電気機関車の運転席に乗れる日だったから。いつも休みの日は家の手伝いしてるけどお願いして休ませてもらったんだ」
と小さな声で今野くんは申し訳なさそうに言った。
弟はそれを聞き逃さない。
「乗ったの? 良いなぁ」
運転席なんてなにが楽しいのだろう。さっぱりわからん。
「運転席は予約でいっぱいだけどまだ車掌車は受け付けてたよ」
と今野くんが教えてくれた。
「マジで? 行こう、お姉ちゃん」
待て待て待て。腕を引っ張らないで。あんた意外と力強くなってきてるんだから。
「危ないって」
今野くんが弟の手を止めてくれたから、私の体は持って行かれずにすんだ。
それからなぜか三人で受付をして、車掌室の申し込みに間に合った。てっきり電車の中の車掌室かと思ったが車掌車という電車を引く先頭か最後尾みたいなところに乗るだけで、今日乗った他のものとそう大差ない。それなのに弟は、
「これ電気系統だね」
と私ではなく今野くんに話しかける。
「よく知ってるな」
「お兄ちゃんもジオラマ見た?」
二人の会話がどんどん高度になってもうちんぷんかんぷん。
そう言えば私、電車がどうやって走っているのか知らなかった。箱型の乗り物とか言ったらこの二人は憤慨しそう。
「危ないからちゃんと掴まって」
今野くんが弟の手を柵に導く。そして虎の体を包むように自分の両手を虎の手の横に置いた。
「今野くんも弟いるの?」
私は尋ねた。
「妹がいる」
やっぱり。だからそんなに優しいんだね。
「そうだ、知ってる? ここって大人になったら電車の運転ができるんだよ。お兄ちゃん何歳?」
弟が今野くんに聞く。
「16」
へぇ、私よりも誕生日遅いんだ。
「あと二歳だね」
弟が羨ましそうに言う。
「運転免許も取らないと」
世の中にはたくさんの決まりごとがある。面倒だけど、法律だから守らなくちゃ。こっちが守らないといざというときに守ってもらえなくなる。




