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第4話 英雄の都

村を出て三日。途中で馬車を乗り継いで四日が経った。


僕は、王都グランヴェルに到着した。


「すごいでかいなあ!!」


目の前に立った時、思わず声がでてしまった。

遠くから見えていた時点で大きいとは思っていたけど、近づくにつれてその感覚はどんどん塗り替えられていった。


灰色の石壁は僕の村の家を何十軒重ねても届かないような高さで、左右にどこまでも伸びている。

壁の上には等間隔で見張り塔が立っていて、旗がはためいている。


門の前にはすでに行列ができていた。商人の荷馬車、旅人、冒険者らしき武装した集団。みんな当たり前のようにこの巨大な門をくぐろうとしている。


僕はリュックの紐を握り直して、列の最後尾に並んだ。


そして門をくぐった瞬間、世界が変わった。

音が違った。人の声、馬車の車輪が石畳を叩く音、鍛冶屋の槌の音、どこかから漂ってくる焼き立てのパンの匂い。全部が一度に押し寄せてきて、別の世界に来たような気持ちに陥った。


王都グランヴェル。


千年以上前、大地が裂け、世界にただ一つのダンジョンが姿を現した。その深淵から溢れ出す魔石や素材は人々の暮らしを一変させ、魔石から灯りが生まれ、武器が生まれ、やがて魔道具が生まれた。ダンジョンの恵みを求めて人が集まり、街ができ、国が興った。


世界で最も栄えた都にして、すべての冒険者が目指す唯一の場所。


別名——英雄の都。


絵本にも描かれていた伝説の都が、今、目の前に広がっている。

僕は人の流れに押されるようにしながら、きょろきょろと歩いた。


石造りの建物の隙間から、遠くにダンジョンの入口らしき巨大な構造物がちらりと見える。あれが——あのダンジョンか。胸の奥がどくんと跳ねた。


「——おい、そこの兄ちゃん」


声をかけられて振り向いた。道の脇に露店を広げている中年の男が、にやにやしながらこちらを見ていた。革製品を並べた台の向こうで、腕を組んでいる。


「王都は初めてかい?」


「あ、はい。初めてです」


「だろうなぁ。さっきからずっと口開いたまま歩いてるぞ」


「え、そんなに?」


慌てて口を閉じた。商人がからからと笑う。


「いいよいいよ、田舎から来た奴はみんなそうだ。この通りをまっすぐ行きゃあ中央広場に出る。ギルドも、ダンジョンも、全部その先だ。迷うこたぁねえよ。道なりに人が多い方に歩きゃ着く」


「ありがとうございます!」


「おう。——あ、兄ちゃん、ついでにどうだ。革の鞘、安くしとくよ。剣士なんだろ?」


商人の目がちらりと僕の腰に向いた。そこにあるのは——木の剣だ。


「いい木の剣だな。……えっ、木?」


「はい、木の剣です!」


「…………がんばれよ、兄ちゃん」


商人は一瞬だけ真顔になった後、何とも言えない顔で手を振ってくれた。


言われた通りにまっすぐ歩いた。確かに、道なりに進むだけで人の流れが自然と中央に向かっていく。通りが広くなり、建物が大きくなり、道行く人の装備が立派になっていく。


と、ふと目に入ったものがあった。


道の脇で、女の人が何かを食べながら話している。その横に——丸い球が浮いていた。


拳くらいの大きさの、淡く光る球体。女の人の斜め上あたりに、ふわふわと漂っている。紐で繋がっているわけでもなく、誰かが持っているわけでもない。ただ勝手に浮いている。


「——何だろう、あの丸い玉」


女の人は球のことなんか気にもしていない様子で、手に持った串焼きを幸せそうに頬張りながら、誰に向かって話しているのかよく分からないテンションで喋っている。


「こちら、最近メイン通りにできたお店のベリークレープでーす! 外はもちっ、中はとろ〜って! みんなもメイン通りに来たら絶対食べにきてね!」


周りの人も特に気にしていない。浮いてる球が日常の風景なんだろうか。田舎にはあんなものなかった。魔道具の一種だろうか。


気になったけど、立ち止まっている場合じゃない。僕の目的はダンジョンだ。

通りを抜けると、急に視界が開けた。


中央広場だ。


広い。村の端から端まで歩くのと同じくらいの広さが、一つの広場として開けている。石畳が敷き詰められ、中央には大きな噴水がある。広場の周囲には立派な建物が並んでいて、その中で一際目立つ建物が二つ。


僕は、見覚えのある紋章が掲げられた建物に向かった。

どっしりとした石の土台の上に、太い木の柱と梁が組み上げられた大きな建物だった。


二階建てで、屋根は山のように急な三角形をしている。壁は石と木の板が交互に組まれていて、所々に明かり取りの窓がはめ込まれている。


そして建物の正面、ちょうど真ん中あたりに——大きな紋章が掲げられていた。牙を剥いたドラゴンの顔を、二本の剣が交差して貫いている。


絵本で何度も見た。


——冒険者ギルドの紋章だ。


建物の中から、がやがやとした声と笑い声が漏れ聞こえてくる。


「ここが、冒険者ギルド!」


僕はその中に一歩踏み込んだ。

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