第30話 絶魔の剣閃
——3日前。
モンキーたちの修行場。最後の一匹が吹き飛ばされ、木の幹に叩きつけられて崩れ落ちた。
カイは拳を下ろした。両手はボロボロだった。だが、目の前で消え残る魔力の残滓を見つめながら、確かな手応えを感じていた。
ひかりん:うん、できてる。魔法を打ち消せてるね
「これが、絶魔の魔力……」
ひかりん:そう。飛んできた魔法の魔力に対して、対になる形と性質の魔力をぶつけて、相殺する技。普通の冒険者は、まず自分の魔力の形を一度崩して、それから相手に合わせた対の形に変換する。二段階の工程が必要なの
「でも、僕の場合は——」
ひかりん:カイの魔力は形がない。透き通ってて、最初から何の形も持ってない。だから崩す工程がいらない。直接、相手の対の形に合わせられる。一段階で済む
「だからできたんですね」
ひかりん:うん。正直、試してみるまでは確信なかったけど……できたね。及第点
カイは自分の拳を見た。素手で魔法に触れ、直に魔力の形を感じ取り、対の性質に変換して打ち消す。理屈はわかった。体も覚えた。
ひかりん:ただ、今のは素手だったから、相手の魔力の形を直に触れて読み取れた。感覚が速かったのはそのおかげ。拳で始めたのは、魔力の形や性質を直に感じて、理解を早めるため。いわば下準備
「じゃあ、今から本番ですか」
ひかりん:うん。剣でできるようにならないと意味がない。カイは剣士でしょ? 実戦で拳だけで戦うなんてことはないんだから。剣を持った状態で相手の魔法を読み取って、打ち消せるようになる。それがこの修行のゴールだよ
カイは木の根元に立てかけてあったデュランダルを手に取った。黒い刀身が、木漏れ日を吸い込むように鈍く光っている。
ひかりん:じゃあもう一回、モンキー呼ぶよ。今度は剣で全部打ち消して
「はい!」
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——現在。アリーナ。
炎が消えた直後の沈黙を、エルナの声が破った。
「い、今の! 今のは何が起きたんですか!? 火球が剣に触れた瞬間に消えました! ノエルさん!」
ノエルは立ち上がったまま、アリーナを凝視していた。数秒の沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。
「……絶魔の剣閃。まさか、ここで見ることになるとは」
「絶魔の剣閃? それは——」
「飛んできた魔法の魔力に対して、対になる形と性質の魔力をぶつけて打ち消す技です。魔法を剣一本で無効化する」
観客席がざわめいた。
「この技は、閃光の勇者リーナの代名詞とも言える技の一つです。勇者リーナが最強と謳われる理由は複数ありますが、あらゆる魔法を無効化できるこの技は、その中でも最たるものでしょう」
「リーナ選手の技を、Eランクの新人が!?」
「ええ……。ただし、この技は自分の魔力の形を一度崩し、相手の魔法に合わせた対の性質に変換するという二段階の工程が必要です。それを戦闘中に、一瞬で行わなければならない。最前線の冒険者でも使える者はごく僅かです。なぜ彼にそれができるのか——正直、私にもわかりません」
アリーナの中央で、オリアナが一歩退いていた。顔から余裕が消えていた。
「嘘……ありえない。今のは何——」
カイは答えなかった。剣を構え直し、踏み込んだ。
オリアナが反射的に火球を放った。三つ、四つと立て続けに。だが、カイは止まらなかった。
一つ目の火球。剣が触れる。消えた。
二つ目。消えた。
三つ目。消えた。
導火が地面を走った。カイは走りながら剣の切っ先を地面に添わせた。炎の筋に刀身が触れた瞬間、導火が途切れ、消えた。
「そんな——全部——!」
オリアナが後退しながら、両手から必死に炎を放ち続けた。だが、その全てが黒い刀身に触れた瞬間に消えていく。火球も、導火も、何一つカイに届かない。
距離が詰まっていく。
オリアナの目に、恐怖が浮かんだ。
カイがオリアナの目の前に立った。剣を静かに構えている。
「これで終わりです!」
一閃。
オリアナの腕輪が光った。魔法陣が発動し、オリアナの体がアリーナの場外へ転送された。
沈黙。
そして——歓声が爆発した。
「け、決着ーーーー!! カイ選手、勝利! Eランクの新人が、Dランクの魔法使いを完封しました!!」
エルナの絶叫がアリーナを震わせた。観客が総立ちになっている。
「ノエルさん、今の試合——」
「……とんでもないルーキーが出てきましたね」
ノエルはそれだけ言って、静かに座り直した。だが、その目はまだカイを追っていた。
観客席で、ミリアが泣いていた。両手で顔を覆って、声を殺して泣いていた。何が起きたのか、詳しいことはわからない。だけど、カイが勝ったことだけはわかった。それだけで十分だった。
観客席の最上段。フードの奥で、リーナが小さく笑っていた。
「さすが、私の愛弟子。」
アリーナの中央で、カイは剣を下ろした。観客の歓声が降り注ぐ中、静かに息を吐いた。




