第24話 第一試練:採集競争(ハーヴェスト・レース)
「出場者の皆様、ようこそダンジョンへ! これより第一試練、『採集競争
』を開始します!」
エルナの声が続ける。
「ルールは簡単です! ダンジョン内の魔物を倒し、魔石を集めてください! 魔石にはそれぞれポイントが設定されています。先にお配りした魔法鞄に魔石を入れると自動的にポイントが加算され、100ポイントに到達したパーティーからクリアとなります!」
一拍置いて、エルナの声のトーンが少し下がった。
「ただし、クリア枠は先着7パーティーまで。8パーティー目以降は、たとえ100ポイントに届いていても失格となります。また、7パーティーがクリアした時点で試練は終了。その時点で100ポイント未満のパーティーも全員失格です」
7パーティー。52人で、1パーティーあたり平均4人だとすると、13パーティー前後。その半分近くがここで脱落する。
「なお、他パーティーへの妨害行為は一切禁止です!発覚した場合は即失格となります。今回、出場者の皆様には各個人で配信をつけるよう事前に設定しており、ダンジョン内にもギルドの監視用機材を複数設置しております。くれぐれもご注意くださいね!」
その言葉が終わると同時に、肩のあたりに球体がふわりと浮かび上がった。いつの間に設定されてたんだ?
「制限時間は3時間。それでは——始め!」
エルナの声が消えた。
静寂が戻ったダンジョンの中で、遠くから魔物の唸り声が聞こえた。
僕はミリアと顔を見合わせ、デュランダルの柄に手をかけた。
「行こう、ミリア!」
「はい!」
第一試練が、始まった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
——実況席
アリーナの観客席最上段に、大型のモニター魔石が設置されていた。ダンジョン内部の映像がリアルタイムで映し出されている。その前に、二人の人物が並んで座っていた。
「さあ、第一試練『採集競争』が始まりました! 実況は引き続き私、エルナがお送りします! そして解説には、この方をお迎えしております!」
エルナが隣に手を向けた。
「Sランクパーティー『恵雨の園』、ノエルさんです。今日はよろしくお願いします!」
「はい、よろしくお願いします。出場者の皆さんの戦いを、しっかり見届けたいと思います」
穏やかな声だった。柔らかい茶髪を肩まで伸ばした青年で、物腰は丁寧で落ち着いた空気を纏っていた。
「さて、ノエルさん。まずは今回のダンジョンについて解説をお願いできますか」
「もちろんです。今回、出場者の皆さんが転送されたのは、王都ダンジョンの30層から40層にかけての区画です。通称『霧蝕域』と呼ばれています」
ノエルがモニター魔石に映る薄暗い通路を示した。
「30層を超えると、ダンジョンの環境が大きく変わります。まず、魔力を含んだ霧が常に漂っていて、視界が悪い。それだけでなく、この霧には微弱ながら魔力を乱す作用があるんです。長時間浴び続けると、魔力の制御精度が落ちてくる。魔法を使う冒険者にとっては特に厄介ですね」
「なるほど。じゃあ長期戦は不利ということですか?」
「そうですね。制限時間は3時間ですが、2時間を超えたあたりから霧の影響が体感できるレベルになると思います。だからこそ、序盤のスピードが重要になってきます。もう一つ。30層以降は魔物の種類も変わります。20層台までの個体とは違い、群れで連携してくる魔物や、霧に紛れて奇襲してくる種が増えます。単純な戦闘力だけでなく、索敵と判断力が問われる区画です」
「今回の出場者はDランク以上がほとんどですが、それでも厳しい環境ですね」
「ええ。Dランクの方々は30層前後が活動圏ですから、攻略経験がある方が多数だと思います。ですが今回は、スピードが大事なのでチームの連携力が試されると言ってもいいでしょう。」
エルナが頷いた。
「さあ、試練開始から10分が経過しました。早速ポイントの動きが出てきていますよ!——おっと! 早くも10ポイントに到達したパーティーがあります!」
モニター魔石の端に、ポイントランキングが表示された。
「ノエルさん、これは!?」
「猛牙の咆哮ですね。やはり速い。リーダーのレクトが前衛で一気に魔物を薙ぎ倒して、後衛が補助と回収に回る。効率のいい分担です。Cランクの実力をそのまま出してきていますね」
「続いて——おおっと!? 15ポイントに到達して一気に1位に躍り出たのは、白氷の帳幕!」
「シンのパーティーですか。こちらは猛牙の咆哮とは対照的ですね。霧の中でもルートを正確に読んで、無駄な戦闘を避けながら効率よく高ポイントの魔物だけを狙っている。判断能力と統率力の高さが窺えます」
「やはりCランクの二組が序盤からリードしていますね! ……ただ、他のDランクパーティーも安定しています。さすがに20層のボスを突破してきた実力者揃いですから、大きく崩れるパーティーは今のところ見当たりません」
「そうですね。皆さん基本がしっかりしている。霧への対処も、大半のパーティーが問題なくこなしています」
ノエルが頷いた。その時、モニター魔石の映像が切り替わった。
「そして3位に蒼嵐の刃! こちらも順調ですね。前衛と後衛の切り替えが速い」
「スヴェン選手は器用なタイプですね。状況に応じて自分の役割を変えられる。パーティー全体の安定感に直結しています。ここまでの動きを見ると、上位争いに絡んできてもおかしくありません」
「さて、それに続く4位は——」
エルナの声が止まった。
「——え?」
一拍の沈黙。
「ちょっと待ってください。4位、『小さな一歩』……? 聞いたことないパーティー名ですね。え!? Eランクパーティー!?」
モニター魔石の映像が切り替わる。薄暗い霧の中を、二人だけで進んでいる姿が映った。銀色の軽鎧に黒い剣を持った少年と、ローブ姿の少女。
「Eランク、カイ選手。今大会唯一のEランク出場者ですね。そしてパートナーは——」
「ミリア選手ですね。元々は猛牙の咆哮に所属していましたが、大会直前にパーティーを離れたと聞いています」
「なんと、先ほど入った情報によると、この二人は待合室でパーティーを組んだそうです。つまり、大会直前に初めて組んだパーティーということですね!」
「そうなんですか」
ノエルが少し驚いた表情を見せた。
その瞬間——観客席の最上段、フードを被った人物の一人が、小さく息を吐いた。
「……組めてたんだ、よかった」
誰にも聞こえないほどの声だった。すぐに口を閉じ、再びモニター魔石に視線を戻した。
実況席では、エルナが続けていた。
「二人だけのパーティーで、しかも即席。この厳しい環境でどこまでやれるのか。正直、かなり不利な状況ですが——」
「ただ、動きを見てください」
ノエルが静かに言った。
「カイ選手の剣さばき。あれはEランクのものじゃない。それに、無駄な動きが少ない。霧の中でもしっかり索敵できている。探索に必要な判断力、反応速度、空間把握——すべてが高い水準でまとまっています。」
「それにミリア選手も、細かく的確に回復魔法を入れていますね。今カイ選手が縦横無尽に動けているのは、彼女の支援があってこそと言っていいでしょう。先ほど組んだばかりとは思えない連携力です」
「おお、解説のノエルさんから高評価が出ました! Eランクの新星がどこまで駆け上がるのか、注目です!」
モニター魔石の映像が、再び全体のポイントランキングに切り替わった。上位にはCランクの二組が並び、その下をDランクパーティーが追いかけている。
その中に——小さな一歩の文字が、4位に食い込んでいた。Eランクの二人組が、Dランクパーティーの大半を抑えている。数字は止まる気配もなく、確実に、一つずつ上がり続けていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
——ダンジョン内部
「よし、いい調子だ」
魔法鞄に魔石を入れると、淡い光と共に数字が浮かび上がった。ポイントが加算されていく。
ミリアの回復魔法のおかげで、体力を気にせず戦い続けられている。二人だけのパーティーだけど、思っていたよりずっとうまく回っていた。
「ミリア、次行いこう!」
「はい!」
霧の奥から、また魔物の気配がした。僕は剣を構え直した。




