第21話 大会当日
一匹のモンキーが吹き飛ばされ、木の幹に叩きつけられて崩れ落ちた。
「はぁ……はぁ……」
最後の一匹だった。
僕は剣を下ろした。両手はボロボロだった。皮が剥け、指の関節が腫れ上がり、柄を握るだけで痛みが走る。それでも、全部倒しきった。
ひかりん:魔力の制御もいい感じだね。よし、これで合格。よくがんばりました
「ありがとう、ございます……」
声が震えた。
この一週間の特訓が頭の中を駆け巡った。初日に素手で炎を殴って悶えたこと。何十発も魔法を食らって地面に転がったこと。感覚が掴めなくて、何度も何度もやり直したこと。
なぜか涙が出た。
僕は技の習得を終えた。
ひかりん:この技は魔力の操作が大事だから、一つ間違えると魔力を全放出して気絶しかねない。気をつけてね
「はい、肝に銘じます……」
ひかりん:じゃあ新星杯がんばって!! 優勝期待してる!
「はい! 優勝します!」
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翌日。新星杯当日。
僕は今、大会が行われる会場の前に立っていた。
会場は王都グランディアの東側に位置する、巨大な四角い建物だった。
ダンジョンの円形とは全く異なる直線的な構造で、白い石壁が朝日を反射して眩しく光っている。正面には大きなアーチ状の入り口があり、その上に「新星杯」と刻まれた紋章が掲げられていた。
なんだか緊張してきた。
だけど、装備の確認はした。準備は大丈夫だ。
今回のために、装備を新調した。銀色の軽鎧は体に密着する薄手のもので、肩や腕周りの装甲を最小限に抑えてある。中に着た白いシャツの袖が肘から先に覗いていて、剣を振るときに邪魔にならないよう意識した。
腰に目を落とす。暁闇の黒剣が、静かに帯刀されている。
よし。行くぞ。
入り口の受付で、クレアさんからもらった推薦状を差し出した。
「受理しました。カイ様ですね、お待ちしておりました」
受付の女性が書類を確認しながら、にこやかに言った。
「パーティーメンバーの方とは、後ほど合流ですか?」
「いえ、パーティーは組んでないです」
「……え?」
受付の女性の手が止まった。
「え?」
僕も止まった。何かまずいことを言っただろうか。
「す、少々お待ちください」
受付の女性が慌てて奥に引っ込んでいった。しばらくして戻ってきた彼女の顔は、少し困ったような表情をしていた。
「まず、こちらをお受け取りください」
差し出されたのは、細いシルバーのリングだった。上部に小さな赤い魔石が嵌め込まれている。
「これを左手にはめてください」
言われた通り、左手の指にはめる。魔石が一瞬だけ淡く光った。
「そして……」
受付の女性が、なぜか恐る恐るもう一つ同じリングを差し出してきた。
「右にもですか?」
「いえ、その……」
女性が申し訳なさそうに口を開いた。
「今大会の第一試練は、パーティーを前提とした内容になっております。こちらのリングは、パーティーメンバー同士を識別するためのものでして」
嫌な予感がした。
「ですので、開会式までにカイ様が他の参加者の方とパーティーを組まなければ、第一試練には出場できません」
「……え?」
聞いてない。そんなの全く聞いてなかった。
ひかりんさん、ごめんなさい。僕、戦わずに終わるかもしれません。
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いきなり不安になったが、とりあえず参加者が集う待合室に向かった。
広い部屋だった。高い天井に石造りの壁。壁際には長椅子が並び、中央に大きなテーブルがいくつか置かれている。
今大会の参加者は総勢52名と聞いている。部屋の中は既に人で溢れていた。
そして、全員がパーティー単位で固まっていた。
それぞれが輪を作って、作戦を話し合ったり、装備を確認し合ったりしている。
僕は一人だった。
なんだか寂しい。
一人で部屋の中をうろうろしていると、不意に背後から声がかかった。
「よう! 一人でここに来るなんて、度胸あるな!」
振り向くと、髪を後ろに流した黒髪の青年が立っていた。人懐っこい笑みを浮かべて、こちらに手を差し出してくる。
「俺の名はスヴェン。『蒼嵐の刃』のリーダーをやってる」
「僕はカイです」
「カイか! よろしくな!」
握手した手が温かかった。なんて明るくていい人なんだ。さっきまでの寂しさが、少しだけ溶けていくのを感じた。
「それにしても一人なんて珍しいな。パーティーのやつらが遅れてるのか? まさか全員腹痛でダウンとか?」
「いや、その……パーティーを組んでなくて。一人なんです」
スヴェンが驚いた顔をした。
「ってことはカイ、シーサーペントを一人で倒したのか?」
「はい」
「すげえじゃねえか!」
目を輝かせて肩を叩かれた。悪い気はしない。
だけど、今の問題はそこじゃない。思い切って聞いてみた。
「あの、スヴェン。お願いがあるんだけど……パーティーに、入れてもらえたりしないかな」
スヴェンが一瞬、苦い顔をした。
「すまん、カイ。今回の第一試練はパーティーの連携が見られるらしくてな。俺はこれまで一緒にやってきた仲間と出たいんだ」
「そうだよね。ごめん、無理言って」
「いや、全然気にすんな! それにしてもパーティーか……何か力になってやりたいんだが」
本当にいい人だ。
スヴェンと話しながら周囲を見回していると、待合室の奥の方から、荒い声が響いてきた。
「お前は今日でパーティーをクビだ」




