第20話 夢を摘む森(ドリームフォレスト)
ひかりん:えっ、カイ、新星杯に出るの!?
翌日、ダンジョンに潜った時にひかりんさんに報告した。
「はい! そうなんです! 昨日、受付の方に言われて」
ひかりん:冒険者を始めて一ヶ月くらいでこの大会に出る人なんてそうそういないよ! やっぱりカイはすごい
「それも全部ひかりんさんのおかげですよ!」
ひかりん:えー、そうかな? いやカイの力だよ!
そんなやり取りをしながら、21層に足を踏み入れた。
空気が変わった。
石の壁と冷たい床が続いていたこれまでの階層とは、まるで別の世界だった。目の前に広がっていたのは、鬱蒼と茂る森。
巨木が天井を覆い隠すように枝を伸ばし、薄い霧が地面を這っている。木々の隙間から差し込む淡い光だけが、かろうじて足元を照らしていた。
ダンジョンの一層とは思えない広大さだった。どこまで続いているのか、先が全く見えない。
視界が悪い。密集した木々と霧のせいで、十メートル先がぼやけている。耳を澄ませると、葉擦れの音に混じって、何かが枝の上を移動する気配がした。
「右か!」
反射的に体を倒した。頭のすぐ横を、赤い火の玉が通り過ぎていく。熱が頬を掠めた。火の玉は背後の木の幹にぶつかって弾け、焦げた跡を残した。
飛んできた方向を見る。木の枝の上に、一匹のモンキーがいた。体長は子供ほど。茶色い毛並みに、妙に賢そうな目。その手には、冒険者が使うような魔法の杖が握られていた。
杖を持つ猿。違和感に頭が追いつく前に、背中にぞくりとした悪寒が走った。
振り向いた瞬間、後ろから白い塊が飛んできた。
「なっ——!?」
咄嗟に剣で受け止める。氷だった。拳ほどの大きさの氷の塊が剣にぶつかり、砕けた破片が顔に散る。だが、それだけでは終わらなかった。剣を握る手が動かない。見ると、刀身が薄い氷に覆われ始めていた。
後ろの木の上にも、もう一匹。こちらも杖を握っている。
ひかりん:この階層はルーキーたちの間で有名な場所だよ。「夢を摘む森」って呼ばれてる
「夢を摘む……?」
ひかりん:この森に住むモンキーたちは、冒険者が倒されたり逃げたりしたときに落としていった武器や魔法の杖を拾って使うの。しかも真似がすごく上手くて、冒険者の魔法や剣術をそのままコピーしてくる
「ええっ!?」
周囲を見回す。霧の向こう、木々の上のあちこちに、小さな影が見えた。杖を持つ者、短剣を持つ者、盾のようなものを抱えている者。何匹いるか分からない。
視界が悪い中で、四方八方から魔法が飛んでくる。これは厄介だ。
ひかりん:いい機会かも
「え?」
ひかりん:カイ、一つ技を教える
「技、ですか?」
ひかりん:本来はEランクの冒険者が習得するには早いけど、カイならできる。それに、自分の魔力を知るいい機会になると思う
「わかりました!」
ひかりん:この技を習得できれば、きっと大きな力になる。がんばろ
「はい!」
ひかりん:じゃあまず、武器を全部置いて
「……え?」
ひかりん:武器、全部。剣も短剣も
言われた通り、暁闇の黒剣と短剣を足元に置いた。丸腰になる。この森の中で。正気じゃない。
だが、ひかりんさんの言うことに従って間違ったことは一度もない。
武器を地面に置いた、その瞬間だった。
茂みが揺れた。上から、横から、一斉にモンキーたちが飛び出してきた。僕の武器めがけて殺到し、あっという間に暁闇の黒剣も短剣も持ち去られていく。
「あっ——僕の武器……!」
木の上で、モンキーの一匹がデュランダルを得意げに振り回していた。
ひかりん:今から飛んでくる魔法を、全部拳で打ち返して
「ええっ!?」
返事を待たず、正面から火の玉が飛んできた。
言われるがまま、拳を突き出す。
ただ、あまりに突然すぎて、拳に魔力を纏わせるのを忘れていた。
素手が、炎の中に突っ込んだ。
「あっっっつ!!!!」
拳を振り払って、悶えた。手のひらが真っ赤になっている。
ひかりん:魔力はいつでも纏わせておいてね
「は、はい……」
ひかりん:次くるよ
顔を上げると、木の上のモンキーが既に杖を構えていた。
「はい!」
こうして、修行が始まった。




