第19話 新星杯
「新星杯?」
聞いたことのない言葉だった。
クレアさんが、控室の机の上に一枚の書類を広げた。
「新星杯。冒険者ギルドが主催する、年に一度の大会よ」
書類には大きく「新星杯」と書かれていた。その下に、参加条件や日程が記されている。
「参加資格は二つ。20層のボスを撃破していること。それと、ギルド受付員の推薦があること。この二つを満たした冒険者だけが出場できるの」
「なるほど」
クレアさんが説明を続けた。
「大会の目的は大きく二つあるわ。一つは、将来有望なルーキーを発掘して育成すること。もう一つは、冒険者業界全体の活性化。この大会は大勢の観客の前で行われるから、ここで活躍すれば一気に注目を浴びる。人気配信者が増えれば、それだけ冒険者という仕事に憧れる人も増えて、業界全体が盛り上がるの」
クレアさんが少し前のめりになった。
「そのイベントに、あなたが出るのよ」
「僕が、ですか!?」
「ええ。この新星杯で結果を残せば、ギルドから大きな支援を受けることができるわ。装備の提供、ダンジョン攻略の情報、専属のサポート。それに注目が集まれば配信に人が一気に押し寄せて、人気配信者になるのも夢じゃない」
すごい話だ。でも、それだけじゃないらしい。クレアさんの目が、さらに真剣になった。
「それにね。この大会で力を見せれば、冠位の五傑の目に止まることもある。そうなれば、派閥入りも夢じゃないわ」
「冠位の五傑……。派閥って何ですか?」
クレアさんが椅子に座り直した。少し長い話になる、という顔だった。
「この冒険者ギルドはね、今から千年前に五人の冒険者が設立したの。いわば始祖よ」
千年前。五人の冒険者。
「もしかして……!」
思わず声が出た。心臓が跳ねた。
「それって、『始祖の灯火』に出てくる五人ですか!?」
クレアさんが目を丸くした。
「あら、よく知ってるわね」
「僕、その絵本が昔から大好きなんです!」
「なら話が早いわ」
クレアさんが指を一本立てた。
「その五人は、ダンジョンに立ち向かうためにそれぞれが冒険者を育てた。自分たちの技術や知識、戦い方を次の世代に継承していったの。それが千年の間途切れることなく受け継がれてきて、今の五つの派閥になった」
「五人から現代に継承されてきた五つの派閥。まず、万象の魔女メルティアを祖とする『魔淵の七花』」
二本目の指が立つ。
「慈愛の聖者ルミナを祖とする『聖泉の祈庭』」
三本目。
「無影の絶影カゲツを祖とする『影刃の帳』」
四本目。
「不屈の剣聖ライゼルを祖とする『烈火の戦陣』」
そして、五本目。
「そして最後、暁の勇者アルスを祖とする——『黎明の聖剣』」
全身に鳥肌が立った。
あの絵本の中にいた五人。千年前に世界を守るために立ち上がった英雄たち。その力が、今もこの世界に繋がっている。千年を超えて、今この瞬間まで。
「すごい……すごいです!! 本当に! 僕、入りたいです!」
自分でも分かるくらい、目が輝いていたと思う。
クレアさんが少し笑って、それから真面目な顔に戻った。
「でも、どうして僕が参加を……?」
「私が推薦したの」
「どうしてですか? 僕はまだ冒険者として、そんな人たちと戦えるか——」
「戦えるわ」
クレアさんが遮った。静かだけど、強い声だった。
「あなたが倒れてギルドに運ばれた日、あなたのアーカイブを見たの。配信の記録を、最初から全部」
「……全部、ですか」
「一人でダンジョンに潜って、一人でボスを倒してる。それも凄まじいスピードで。異常だと言ってもいい」
クレアさんの目が、まっすぐ僕を見ていた。
「あなたはいつか、この世界を救う希望の一つになる。私はそう思ってる」
息が詰まった。そんなことを言われたのは、生まれて初めてだった。
「だからカイくん。絶対にこの大会で勝って、派閥に入りなさい。きっとあなたは、もっと強くなれるわ」
数秒、言葉が出なかった。
胸の奥が熱い。この人が、僕のアーカイブを見て、僕を選んでくれた。
「わかりました」
立ち上がって、頭を下げた。
「新星杯に、僕、出ます。出て、勝ちます!」
クレアさんが、少しだけ目を細めて笑った。
こうして、僕の新星杯への出場が決まった。
派閥:個人として所属する。そして各派閥の最強が冠位の五傑の一人になれる。
ランク制度:パーティーとしての強さ。
といったイメージです。




