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不滅の元魔王ヴィルヘルミナ~討伐されたはずの吸血鬼のやり直し戦記~  作者: Takahiro
第四章 フロレンティアの戦い

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フロレンティアの戦い前夜

「申し上げます! 魔王城に駐屯していた部隊がランゴバルド王国軍の攻撃を受けている様子!」

「やはりそうなったか。実にわかりやすい王だ」


 本土への帰路、ポメレニア辺境伯はその報告を受けた。


 案の定というべきか、ランゴバルド王国は寝返り、北方帝領への帰り道を塞いだのである。大勢の諸侯をここで討ち取り、ランゴバルド王国自身か、あるいはその背後にいる大国が北方帝領に攻め込むつもりなのだろう。


 統制が取れていれば大した敵ではないのだが、今の北方帝領でそれができる者はいない。ヴィアドルス宮中伯は会議のまとめ役としては認められていたが、北方帝軍の最高司令官とは認めてもらえないだろう。明確な上下の序列が生じてしまうからである。


「正面の敵勢はおよそ一万五千。フロレンティア近郊に陣を敷き、魔王の道を塞いでいるとのこと」

「わかった。下がれ」

「数では優っているけど、大変そうだね」

「ええ、まさに。こちらは全く統制が取れておらず、しかも敵は待ち構える側です。条件は非常に悪いと言わざるを得ません」


 ランゴバルド軍としては魔王の道を封鎖していればいいのであって、危険を冒す必要はない。北方帝軍は指揮をする者がいない状況で、守りを固める敵に攻めかからないといけないのだ。


「本当に勝てるのでしょうか……」

「勝てなかったら、ここにいる諸侯が皆、北方帝領に帰れなくなっちゃうね」


 ヴィルヘルミナは揶揄うように言った。ヴェロニカは黙り込んでしまった。


「実際のところ、勝てる見込みはあるのかい?」

「私の忠臣ヘルヴェコナ伯ゲッツがいれば勝てたかもしれませんが、残念ながら彼には本土の防衛を任せています。無理かもしれませんね」

「ほ、本当なのですか、兄上……?」


 無敗を誇る兄がそんなことを言い出して、ヴェロニカの声は震えていた。


「我々だけでは勝てない公算が高い。ヴィルヘルミナ殿が本気を出してくださればよいのですが」

「私がまたしても協力すると?」

「もしも私達が負ければ、北方帝領は間違いなく大混乱に陥ります。そうなれば、数え切れぬ民が死ぬでしょう。今はヴィルヘルミナ殿の信念を少々曲げてでも、私達に味方するべきでは?」

「それは……」


 戦争の手段として邪法を用いる者を滅し、戦争の過激化を防ぐ。それがヴィルヘルミナの公言している行動目的である。しかしその根本は、死ぬ人間を少しでも減らすことだ。


「ヴィルヘルミナ様……」

「ここで私が力を振るえば、それが普通になってしまうかもしれない。それによって未来永劫、戦争の犠牲者は増えてしまう」

「ですが、今回の戦いで北方帝領の諸侯の大部分が失われれば、ここにいる全員より遥かに多い人が死にます……」

「それはわかっているんだ。でも、それでもなお、私は加担しない方がいい……はずだ」


 確かに北方帝領が内戦状態に陥れば、最悪の場合百万を超える命が失われるだろう。だがそれでも、向こう数百年間の戦争に化け物が使われ、戦争の犠牲者が増え続けるのであれば、数字の上では、ここでヴィルヘルミナが介入せず負けた方が犠牲が少なく済む。


 ――もっとも、本当に計算して比べられるものじゃない。私が手を汚したくない言い訳……なのかもしれない。


「ふむ。ウティウムではそれほど葛藤もなくリヒャルト殿下に力を貸していましたが、それとは話が違うのですか?」

「あの時は戦いの犠牲を確実に減らすことができた。実際、敵味方合わせて二百人くらいしか死んでないだろう。だが、今回はそう都合よくはいかない」

「確かに、ヴィルヘルミナ殿がどう動こうと、多くの犠牲が出ることになるでしょうね」

「それは、私には許し難い」

「気難しい方ですね」

「君はわかってるだろう」


 共感してもらえるかはともかく、ポメレニア辺境伯がヴィルヘルミナの思考を理解していないはずがない。


「では、そうですね。ヴィルヘルミナ殿は度々、今の命を大事にするべきだと言っていたではありませんか。空想上の存在でしかない未来の世代より、今を生きる者のことを考えよと」

「……そうだね」


 ポメレニア辺境伯が領民に負担をかけてでも領地を増やすことに固執していた時、ヴィルヘルミナは確かにそう言った。


「であれば、我々に手を貸してくださるのが筋というものでしょう」

「まったく……そう言われると言い返せないね」


 自分の言葉を撤回しない限り、ヴィルヘルミナには言い返しようがない。


「ヴィルヘルミナ様、きっとそんなに悪いことにはなりません! 相手は裏切り者です。悪人に対してであれば、多少の邪法を使っても怒られませんよ!」


 ――たまにすごいこと言うよな、この子。


「まあ、そういう言い訳もできるね」


 あくまで邪な戦い方をする者に制裁しているだけ。その言い訳は、ヴィルヘルミナの心を動かすには十分であった。ヴェロニカもヴィルヘルミナの扱い方に慣れてきたものである。


「どうですか、ヴィルヘルミナ殿?」

「君が真っ当な方法で戦っている限り、私も真っ当に手を貸そう」

「ありがとうございます。もっとも、真っ当ではない戦い方というものは、逆に思い付きませんがね」

「毒を使うとか呪いを使うとか……いや、そんなことは考えなくていい。考えるなよ?」

「もちろんですとも」


 辺境伯は胡散臭い笑みを浮かべた。

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