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不滅の元魔王ヴィルヘルミナ~討伐されたはずの吸血鬼のやり直し戦記~  作者: Takahiro
第三章 唯一の都レムリア

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皇太子フリードリヒ

 さて、先程から沈黙を保ってきた皇太子フリードリヒ。皇太子とは言え、その父はもうすっかり老人なので、十分君主を務められる年齢である。フリードリヒは先程から不機嫌そうに床を蹴っていた。


 ――あんまり大物の器って感じじゃないな。


 ヴィルヘルミナは、彼が恐らく影武者の跡を継げるほどの能力すらないと直感していた。案の定、フリードリヒはアレクシオスの挑発に激昂した。


「儂こそが皇帝家の当主である! 父上が亡くなられても、いや、父上が既に亡くなられたからこそ、儂こそが唯一北方帝の座に相応しい者である! 元老院議員の方々、今すぐに戴冠の儀を進めてもらおう!」


 ――これはダメそうだな。影武者の方がよっぽど上手くやれるだろう。


 もちろん、そんなことを言われて納得できる者はいない。全くもって主体性のない元老院議員も、さすがにこの状況でフリードリヒを北方帝に認めようとは思えなかった。


「力を示せと言ったであろう、ジギスムントの子倅。今のうぬは血統による支持を失っておる。自らの力示さずば、誰も皇帝と認めぬであろう」


 名目上では世襲は存在しないが、六百年も続けば実質的に受け入れられるものだ。諸侯も今日までは、皇帝家の嫡子という理由だけで――仮に無能であったとしても――当然のように北方帝位の継承を認めてきた。


「戦もないのに、如何にして力を示せと言うか!」

「確かに、力示す場が与えられぬは理不尽。なれば儂が与えてやろう。これより二月の後、儂自ら五万の軍勢率いて北方帝領に攻め込む。見事撃退すれば諸侯うぬのことを認めざるを得ぬであろう」

「なっ……。正気か、東方正帝」

「無論のこと。例えジギスムント健在であっても攻め込むつもりでいた。こうして戴冠の儀に立ち会えたのも何かの縁よ。うぬに助太刀してやろうと申しておるのだ」


 東方正帝は意地悪な笑みを浮かべながら戦線を布告した。一度の戦も指揮したことのないフリードリヒには酷い話である。


「皇太子殿下、よいではありませんか。東方正帝陛下の挑戦、受けて立ってやりましょうぞ」


 と、フランク公カールは援護しているようで追い詰める。


「相手は五万なのだぞ! 勝てると申すか!」

「儂だけではどうしようもありませんが、北方帝領諸侯の力を合わせれば勝てましょう。不服ながら、そこのポメレニア辺境伯の力も借りればよろしいかと」

「アレクシオス陛下との戦となれば無論、私も全力をお貸し申し上げます。もっとも、皇太子殿下に相応の器量がなければ、勝てる戦も勝てぬとは思いますが」

「何を言うか! 儂が皇帝に相応しくないと申すか!」

「あのような安い挑発を受けて真に受けているようでは、皇帝の器ではありませんかと」

「貴様! 貴様のような無礼者の助力など要らん! 貴様などおらずとも、東方正帝の軍勢ごとき打ち払ってくれるわ!」


 皇太子フリードリヒは威勢がいいが、諸侯がそれについてくる様子はない。ポメレニア辺境伯もフランク公カールも、すっかり呆れて溜息を吐いていた。そんな中、ヴィアドルス宮中伯コンラートがおずおずと発言する。


「み、皆の者、ひとまず落ち着くのだ! 要するに……フリードリヒ皇太子殿下を北方帝としてお認めするか否か、それを明らかにすればよいのだ。東方正帝陛下の仰る通り、血縁など関係ない。多くの者に認められたものこそが皇帝になる。よ、よろしいですね、元老院議員の皆様?」

「あ、ああ、もちろんだ。北方帝領の諸貴族の賛意があるのであれば、血統など関係はない」

「もっとも、この様子では賛意を得られたとは言い難いがね」

「何を仰るか!」

「では試してみよう。皇太子フリードリヒに北方帝の冠を授けることに賛成する者は拍手を」


 色々と問題のある議決方法だが、皇帝家を追い落としたい者にとっては好都合である。こんな状況で手を叩ける者はわずかであり、疎らな音が空しく響いた。逡巡している者も少なからずいたが、空気に呑まれて動けない。手を叩いているのは一部の剛毅な者だけだ。


 ――手を叩いてるのは、大貴族だとオストマルク辺境伯、ラエティア大公くらいか。


「こ、このような方法、公平さを欠いておろう! やるなら選挙だ! 古代のゲルマニアのしきたりに則り、選挙を要求する!」

「選挙をやったところで結果は変わらないかと思いますがね」

「貴様! 儂を愚弄するか!」

「まったく、そんな態度だから認められないのですよ」


 ポメレニア辺境伯は子を叱るように言う。皇太子フリードリヒの方が歳上なのだが。


「愚かにも自らの首を絞めたな、フリードリヒ。北方帝の冠得るは誰か、面白くなってきたものよ」

「貴様……!」

「目的は達した。北方帝領の諸侯は安堵するがよい。儂は当面の間、北方帝領に攻め込むつもりはない」

「やはり口から出まかせだったではないか!」

「その出まかせに乗せられる程度の力しかないとわざわざ世間に示したのはうぬであろう。この中の誰が北方帝になるかは知らぬが、その時を楽しみにしておるぞ。その時までに東方のまつろわぬ国々滅ぼし、戦の用意整えておこう。さらばだ」


 北方帝領に攻め込めば諸侯が団結する可能性が高く、混乱させた意味がない。であれば、北方帝が不在の間に浮いた兵を他方面に回し、勢力を拡大するのが合理的である。


 アレクシオスが軍勢と共に立ち去ると、まだ危機的な状況は全く終わっていないというのに、諸侯の多くが胸をなでおろしていた。


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