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不滅の元魔王ヴィルヘルミナ~討伐されたはずの吸血鬼のやり直し戦記~  作者: Takahiro
第三章 唯一の都レムリア

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影武者

「まあ、確かに客観的に証明することはできない。最低でも何百年か生きていて皇帝家と定期的に関わっている吸血鬼なんて、世界にほとんどいないだろうからね」

「ええ、そうでしょう。これは東方正帝の謀略です。諸侯の皆様、どうか惑わされぬよう」


 グレーテルは勝ち誇ったかのように言う。しかし諸侯の反応は鈍い。そもそもジギスムントが偽物なのではないかという疑いはほとんどの諸侯が持っており、真偽不明ながらも形のある証拠が与えられたのは大きい。


「ああでも、ほとんどいないとは言ったけど、全くいないわけではないよ」

「……どういうことでしょうか?」

「吸血鬼エンヘドゥアンナのことは皆知ってるだろう? 彼女なら私の話の真偽を確かめてくれるだろう」


 ――まあ、恐らく、きっと、多分。


「エンヘドゥアンナ……。あの大図書館の吸血鬼と、話せる関係なのですか?」


 南方帝領アラビア・ペトラエア属州にあるウル・シャリムの大図書館と、その主たる吸血鬼エンヘドゥアンナ。その存在は世界中で広く知られている。大図書館にしかない情報を求め、各国の君主もよくウル・シャリムを訪れる。


 しかし、北方帝領の人間でエンヘドゥアンナに会ったことのある者はほとんどいない。まず東方帝領を越えて南方帝領に行くことが困難であり、行ったとしても館長がわざわざ応対するのは、彼女が面白いと思った人間に限られる。それは皇帝だろうと関係ない。


「彼女とは大昔から浅からぬ縁があってね。まあ大体はろくでもない思い出しかないが」

「左様な相手の頼みを聞くとは思えぬな」

「彼女は秩序が大好きなんだ。あの読むのに一万年くらいかかりそうな蔵書を懇切丁寧に並べてるしね」

「……それがどうしたと? あなたは秩序を乱そうとしている側ではありませんか」

「だって、もしもジギスムント陛下が偽物だとしたら、諸侯を騙して皇帝を僭称している方がよっぽど秩序を乱しているじゃないか。その点に反論はないだろう?」

「ええ、そうですね。もっとも、そんな事実はありませんが」

「往生際が悪い」


 ――どうしたものか。エンヘドゥアンナを連れてくるって言っても一ヶ月は掛かるし。


 少なくともこの場では、もう打てる手がない。再び膠着状態となった。ジギスムントの堂々たる態度に、諸侯らもヴィルヘルミナの方を疑い始めているようだ。まさに半信半疑である。


「なればエンヘドゥアンナ呼び寄せ、ジギスムント影武者か否かを調べさせよう」

「確かにエンヘドゥアンナ様が来られれば全てはっきりするでしょうが、本当にウル・シャリムから来てくださると?」

「我が東方帝領にて便宜を図るゆえ、それほど時は掛からぬ。支障もなかろう。どうだ、ジギスムントの影武者よ?」


 経路のほとんどは東方帝領に属し、アレクシオスが本気を出せばエンヘドゥアンナがここに来られない理由はない。グレーテルはそれでも反論しようとするが、先に答えたのは玉座の横から現れた男であった。ジギスムントにそっくりな皇弟リヒャルトである。


「もうよい。あのエンヘドゥアンナ殿が来られれば、隠し通すのは無理じゃ。認めよう。ジギスムント陛下は三年前にお亡くなりになっておる。この者はその影武者じゃ」

「殿下……!?」

「おやおや。こっちは往生際がいいね」


 勝負は決した。北方帝ジギスムントは偽物であった。さすがにそこまで言われると末端の兵士でも事情がわかるのか、東方帝の兵士までもが大いにざわめいていた。


 その中で全く動じていない諸侯が一人。ポメレニア辺境伯アドルフである。


「それでは、あなたは何者なのですか? あまりにも顔が似すぎでは?」

「俺の顔か。それはただの偶然よ。ただの小作人だったところ、ジギスムント陛下に一命を救っていただき、万が一に備えて所作を全て写し取ったんだが、血までは誤魔化せなんだ」

「それはそれは。大層な忠誠心ですね」

「これで芝居は終わりだ。俺は舞台を降りさせてもらう。殺したければ殺せ」


 影武者の男は派手な冠や礼服を次々と脱ぎ捨てていく。だが、そこに待ったをかけたのは東方正帝アレクシオスであった。


「待て。名前は知らぬが影武者よ。お前が三年の間北方帝として国を治めたは真であろう。元よりレムリアの帝位世襲にあらず。力あらば、真の北方帝たること違いなし」

「……俺を認めるって言いたいのか?」

「いかにも。力ある者が帝位を得ることこそレムリアの法よ。力を示したのであれば、お前は北方帝に相応しい」


 レムリア帝国に公式な世襲制は存在しない。世襲に見えるのはあくまで歴代皇帝が子に帝位を与えることを強制できる力を持っていたからだ。皇帝の地位を得る条件は万人が認める力を示すこと。その点、この影武者は確かに国を治めていた。


 しかし、アレクシオスがいきなり影武者を擁護し始め、誰もが困惑していた。ヴィルヘルミナもポメレニア辺境伯もその例に漏れない。


「まさか、アレクシオス陛下は今度の譲位をお認めになるおつもりか?」

「否。儂は力への敬意を示したまで。そこにおるフリードリヒ、北方帝領率いるに相応しい力あらば、その冠受け継ぐがよかろう。それが叶うのであればな」


 皇帝家の血筋であるという暗黙の正統性は失われた。皇太子フリードリヒは自らの武力を示さなければならなくなった。

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