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不滅の元魔王ヴィルヘルミナ~討伐されたはずの吸血鬼のやり直し戦記~  作者: Takahiro
第三章 唯一の都レムリア

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血の味

「なるほど。確かに、我が弟リヒャルトはそのヴィルヘルミナに血を与えたそうじゃな。儂の血を吸えば、儂がリヒャルトではないとわかろう」

「いかにも。陛下が本物なのか偽物なのか、ほんの少し血を吸えばわかることです」

「またしても左様に無礼なことを!」


 と、ジギスムントの傍に控えていたグレーテルが叫んだ。


「それを決めるのは北方正帝陛下じゃないかい?」

「せっかくこのヴィルヘルミナ貴公の疑い晴らさんとしておる。疚しいことなくば、この提案受けた方が賢明であろう」

「東方正帝陛下も……いくら正帝とは言えそのような無礼は……」


 さすがのグレーテルも東方正帝相手ともなるとやりにくそうだ。諸侯が固唾を呑んで見守る中――ポメレニア辺境伯だけはやたら楽しそうだったが――北方帝ジギスムントが口を開いた。


「よかろう。せっかく東方正帝陛下が要らぬ疑いを晴らす機を与えてくださったのじゃ。受けぬ手はなかろう」

「陛下……本当によろしいのですか?」

「構わん。近う寄れ、ヴィルヘルミナ」

「ええ、謹んで」


 ヴィルヘルミナは諸侯の間を掻き分け、ジギスムントの側近くに辿り着いた。


「ジギスムント陛下とリヒャルト殿下は双子であらせられます。血の味は同じなのではありませんか?」

「いやいや、そんなことはないよ。血の味とは魂の形だ。血の味が同じ人間はいない。親類でも血の味は大して似ていないよ」

「そうですか……」


 グレーテルは何とかヴィルヘルミナを止める理由を捻り出そうとしたが、吸血鬼の事情に詳しいわけでもなく、そう簡単には思いつかなかった。そうこうしている間に、ヴィルヘルミナはもうジギスムントの血を吸おうとしている。


 ヴィルヘルミナはジギスムントの目の前でわざとらしいほど丁寧に頭を下げた。そして迷いなく口上を述べる。


「インペラートル・ウィンドボネンシス、ジギスムント・ユリウス・カエサル陛下、その血を謹んでもらい受けます」

「うむ。好きにいたせ」


 貴族らも事情がよくわかってない兵士らもその一点を見つめる中、ヴィルヘルミナはジギスムントの右腕に噛みつき、ほんの数滴の血を吸い取った。傷口はすぐに魔法で癒した。


「して、我が血の味はどうだ? リヒャルトと同じであるか?」


 ヴィルヘルミナの言葉を誰もが待ち望んだ。ヴィルヘルミナは数拍置いて、ゆっくりと語り出した。


「結論を言えば、ジギスムント陛下の血はリヒャルト殿下とは全く違う味がした。ここにおられるのはリヒャルト殿下ではない。吸血鬼の名にかけて証言する」


 大半の貴族は安堵して、一部の大貴族は落胆していた。だが、ポメレニア辺境伯と東方正帝アレクシオスだけは、ヴィルヘルミナの次の言葉を待っていた。ヴィルヘルミナは「しかし」と力強く続ける。


「私の見立てでは、彼はジギスムント陛下でもない」

「何を仰っているのですか? 何の根拠が?」


 グレーテルにはやや焦りが見られる。


「私はかれこれ六百年ほど前から、北方帝やその親族の血をいただいていてね。今の皇帝家が北方帝を世襲し始めたのはその頃からだろう?」

「それはその通りですが、血を吸うだけで親類縁者が判別することはできないと、ご自身で言っていたではありませんか」

「確かにそうだ。双子の血を飲み比べて、それが双子だと判別するのはほとんど不可能。しかし、ある血縁について十分な数の人間から血を吸えば、自ずとその傾向がわかる」

「傾向?」

「ああ。血の味には色々な要素がある。双子でも、それぞれの要素に似ているところもあれば全く似ていないところもある。似ている味でも血縁に由来しているのか偶然なのかはわからない」

「多くの血縁の者の血を吸えば、その血縁に特徴的な味がわかるということか」


 北方帝ジギスムント――なのかは怪しい男――は、どうということもなさげに言った。焦っている様子は全く見られない。


「ご名答。少なくとも今の皇帝家であれば、血縁関係があるかないかはわかる。リヒャルト殿下は確かに皇帝家の一員だったが……君はそうではない」


 いよいよ議論が尽くされると、東方正帝アレクシオスが高らかに宣言した。


「ヴィルヘルミナの語るところ真実であるに違いない! そこにいる男は、北方帝ジギスムントの名を騙る影武者よ!」


 再びどよめきが広がる。だがジギスムントを名乗る男とグレーテルは至って冷静であった。


「皆様、このような、たかが吸血鬼一体の戯言、耳を貸す必要はございません。そもそも吸血鬼が血縁を判別できるなど聞いたことがありません」


 それもまた真理である。血縁が判別できるなどとヴィルヘルミナが勝手に言っているだけで、客観的な証明にはなっていない。


「いかにも。正々堂々と戦をすることもなく斯様に卑劣な策をお使いになるとは思わなんだ」

「皇帝の死隠しその名騙るこそ、いかにも卑劣であろう」


 ジギスムントもアレクシオスも一歩も退かない。あらゆる点で前代未聞のこの状況、ほとんどの者がどう反応するのが正解なのか計りかねていた。


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