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不滅の元魔王ヴィルヘルミナ~討伐されたはずの吸血鬼のやり直し戦記~  作者: Takahiro
第三章 唯一の都レムリア

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北方帝ジギスムント

 パンテオンというのは石とコンクリートで建設された巨大な神殿である。神殿としての崇拝は最早集めていないが、五千人は収容できる屋内広場として使われている。北方帝ジギスムントに招集された千名ばかりの諸侯はその中に整列した。


「北方帝ジギスムント陛下のお成りである!」


 一同が頭を下げる。姿を現したのは、噂通りに死にそうな顔色をした老人であった。グレーテルに支えられながらゆっくりと歩き、演壇に登って即席の玉座に腰掛けた。


「双子とは言え、リヒャルトとそっくりだね」

「た、確かに、見た目だけではほとんど見分けがつかないですね……」


 ヴィルヘルミナとヴェロニカがこそこそと話している。皇弟リヒャルトが北方帝ジギスムントの影武者なのではないか噂は前々から立っていたが、あれを見ると一定の信憑性があるのも頷ける。


 諸侯やその供回りが注視する中で、北方帝ジギスムントはゆっくりと話し出した。その声もリヒャルトとそっくりだった。


「我が病の故に、皆を振り回してしまった。しかしそれでも、これほどの諸侯に手を貸してもらえること、実に心強い。一同、大儀であった」


 ――声はわずかに違う気もするが……演技できる程度の違いか。


 儀礼的な短い挨拶だけを済ませると、ジギスムントはグレーテルに支えられて立ち上がり、そのまま退場しようとする。あまりにも短い登場に諸侯らはざわめいていた。


「お、お待ちください。陛下は――」

「陛下は今も酷くお身体を蝕まれておられるのです。奏上したいことあらば、書面にてお願い申し上げます」


 質問しようとする諸侯もいたが、グレーテルに黙らされた。


「あれしか話せないほど、陛下は重態なのでしょうか……?」

「あるいは、影武者に下手に話させるとバレるから、すぐに帰らせたのかもね」

「いずれとも言い難いですよね……」


 数分して、今度は皇弟リヒャルトが姿を現した。まるでジギスムントの変装を脱いできたかのような時間である。


「北方帝陛下は今日のうちに元老院に赴き、御譲位の承認を要請される。元老院が断ることはないであろう。一同、レムリアを楽しめるのは三日ばかりじゃ。せっかくの都、楽しんでいかれるがよい」


 その後、皇弟リヒャルトは諸侯からの質問にいくつか答え、解散となった。全体としては半刻もかからない短い謁見であった。


 ○


 そのすぐ後、北方帝ジギスムントは元老院議事堂に参上した。


「インペラートル・ウィンドボネンシス、アウグストゥス・ジギスムント・ユリウス・カエサル様、ご入来!」

「おお、よくぞ参られた、ジギスムント殿」

「こちらこそ、元老院議員の皆様とお会いできること、光栄の至りです」


 家臣に身体を支えられながら、北方帝は一礼した。


 北方帝の方が元老院より圧倒的な力を持っているが、あくまで平伏するのは北方帝の側だ。レムリア帝国において皇帝とは、市民と軍の推薦を受けて元老院が指名するものである。もちろん名目上の話だが。


「既にお伝えしている通り、我が息子フリードリヒを、次なる正帝としてお認めいただきたい」

「それほどの特例を通そうというのだ。タダということはあるまいな?」

「無論、格別のお計らいに感謝し、金貨二十万枚ばかりを献上いたします」

「さすがはジギスムント殿。助かるぞ」

「まったく、これでは賄賂も同然ではないか」

「何を言う。元老院の活動には金が必要。当然の対価であろう」

「それでは早速、叙任の儀を執り行おうではないか」


 皇弟リヒャルトの言った通り、元老院議員が北方帝の要請を拒否することはない。


 ○


 北方帝ジギスムントの影武者疑惑を深刻に受け止めている者、特に気にせずレムリア観光を楽しむ者など、諸侯によって反応は大きく分かれた。ポメレニア辺境伯は後者を装っていたが、観光地と呼べる場所にはほとんど姿を現さなかった。


「私は少々やりたいことがありますので、ヴィルヘルミナ殿とヴェロニカは好きにしていてください」


 ヴィルヘルミナとヴェロニカは、特にやることもないので、レムリア観光を楽しむことにした。


「それにしても、東方正帝の旗が多いねぇ。威圧感がすごい」


 レムリア市街地の至る所に東方正帝の双頭の鷲の旗が掲げられている。公式には宿所として使っていることを示しているだけだが、明らかに北方帝を威嚇することが目的だろう。


「こちらは諸侯がバラバラの旗を使っていますが、東方正帝は軍装を統一していますからね」

「レムリアらしいのは遥かに東方正帝の方だね」

「確かに、東方帝領も分裂してはいますが、今でも直轄領は広大です」


 古代国家は概して中央集権的になりがちである。建国当初のレムリアもその例に漏れない。そのやり方を最も踏襲しているのは、人口一千万を抱える直轄領を有する東方正帝であろう。


 と、その時であった。東方正帝軍の鎧を着た兵士が数名、ヴィルヘルミナとヴェロニカを取り囲んだ。


「おやおや、何だい?」

「吸血鬼ヴィルヘルミナ、東方正帝陛下がお呼びである。ついてこい」

「ど、どうしましょうか……」

「別についていくだけならいいんじゃないかな。レムリアで大層なことはできないだろうし」


 ヴィルヘルミナは彼らに連行されてやることにした。

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