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不滅の元魔王ヴィルヘルミナ~討伐されたはずの吸血鬼のやり直し戦記~  作者: Takahiro
第三章 唯一の都レムリア

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レムリア入城

 皇弟リヒャルトの二万の軍勢は首都長官領に入った。ここまで来ればまず安全である。そのまま南下し、一行は唯一の都レムリアに到着した。


「あれが、レムリアですか……。壮観ですね……」


 石造りの頑強で巨大な城壁に囲まれた都市の姿は、遠目からでもよく見える。唯一の都たる威容を来る者に伝えるには、これ以上ないであろう。


「あの城壁ができたのはかれこれ千年前。その時からほとんど変わっていないね」

「やはり、レムリアは色々と別格ですね……」


 本の記述でしか知らなかったレムリアに、ヴェロニカはすっかり魅入られていた。自分が吸血鬼であるのも忘れて馬車の外に出てしまいそうである。


「気を付けてよ。外に出たら死ぬんだから」

「わかっていますよ。私を何だと思っているんですか?」

「え、ああ、ごめん」


 城壁が近付いてくる。だが、軍勢は妙なものに気付いた。城門の上に双頭の鷲を描いた赤地の軍旗がいくつも掲げられているのである。


「あれは……何だっけ?」

「あの意匠は東方正帝の旗です。まさか、レムリアを占領して私達と戦うつもりなのでしょうか……」

「そんなことをしでかしたら、さすがに皇帝の建前が吹き飛ぶと思うけど」

「で、ですよね……」


 元老院に弓引くなど、何があってもあってはならない。実質はともかく、名目上は今でも、皇帝たちの正統性は元老院に任命されることで保障される。それを破れば帝国内のあらゆる勢力に東方正帝を討伐する大義名分が生まれるのだ。


「アドルフ、あれはどういうことだと思う?」


 ヴィルヘルミナはポメレニア辺境伯に尋ねる。


「戦うつもりはないでしょうね。ただ我々を威嚇しているだけかと。気にする必要はありません。仮に向こうが先に手を出してきたら、その瞬間に東方正帝は終わりなのですから」

「そのことはリヒャルト殿下にも伝えるのかな?」

「わざわざ皇帝家の利益になることを言うのも癪ですが」

「兄上……本気で言っているのですか……?」


 ヴェロニカは呆れ果てた様子で。この遠征始まってからというもの、辺境伯アドルフはふざけすぎである。


「戯言だ。リヒャルト殿下に問われれば適切に答えよう」

「頼みますよ……」


 その後、ポメレニア辺境伯は皇弟リヒャルトに呼び出され、まさにその件の相談を受けた。どうやら真面目に答えたようで、リヒャルトの軍勢は東方正帝など気にせずレムリアに入城することになった。


 見上げるだけで首が痛くなる城門を抜け、市街地に入る。東方正帝の兵士が数十名、城門の上や周囲に配置されており、もちろん手を出してくることはないのだが、両軍とも警戒を緩めることはなかった。


 さて、政治的な緊張はともかくとして、生まれて初めてレムリアに入るヴェロニカは目を輝かせていた。


「すごい建物です……! 見たこともない建物がこんなにたくさん……!」

「何度も来たことがあるけど、ほとんど変わっていないね」


 数万人を収容する巨大な円形闘技場、城より巨大な神殿、数百の店が並ぶ商業施設など、レムリアの他には存在しない巨大な石造建築がいくつも立ち並んでいる。


 だが、進むにつれてヴェロニカの声音は徐々に暗くなっていった。


「何というか……人が少ないですね……。寂しい感じです」


 人があまり歩いていないのである。人の流れはまばらで、生きている街という雰囲気はあまりない。


「かつての人口と今の人口とを比べれば、こうなっている理由もわかるのではないか?」

「確かに……レムリアの最盛期の人口は百万を超えていたといいますが、現在の人口は二十万程度です。百万人のために建設された都市に二十万人しか住んでいなければ、スカスカなのも無理はないですね」

「まあ、二十万もいれば十分大都市なんだけど、最盛期と比べちゃうとね」

「属州からの食糧が入ってこなくなれば、仕方のないことです」


 元老院が今や権威の供給元でしかなく、政治的な実権を持たないことは、この見た目だけは立派な都市が象徴している。もっとも、そのお陰で市内には空き家が多く、兵の大半は屋根のある建物で過ごすことができた。


 貴族はともかく、兵士の大半は平生より快適に暮らすことができた。寝床は風もなく雑音も少なく、腐っても二十万都市が誇る商店から北方帝領では手に入らない嗜好品を購入することもできた。ポメレニア辺境伯もコーヒーを買い漁っていた。


 さて、宿泊場所を確保し、一晩の休息を経た翌朝のことである。


「ポメレニア辺境伯殿下、北方帝陛下より全ての諸侯に召集がかかっております。至急パンテオンにお越しください」

「承知した。すぐに参ろう」


 北方帝ジギスムントはもう到着したらしい。その北方帝が遠征に参加した諸侯を集めたいようだ。


「ようやく北方帝のお出ましかい。本物ならいいけどね」

「さて、どうでしょう。せっかくですしヴィルヘルミナ殿も来られますか?」

「いいのかい?」

「私の供回りということで、後ろの方にいていただければ」

「そりゃどうも。ヴェロニカは――」

「私も行きたいです!」

「ヴェロニカもヴィルヘルミナ殿と共に来るといい」

「ありがとうございます!」


 三名は北方帝ジギスムントの招集に応じ、神殿だった建物に向かった。

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