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不死身の元魔王ヴィルヘルミナ~吸血鬼は千年の戦場を見届ける~  作者: Takahiro
第二章 ウティウム攻囲戦

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ウティウム伯の決断

「殿下! 急いで城内まで攻め入りましょう! ポメレニア辺境伯に一番槍を取られるわけにはいきません!」

「いいや、ならん」

「な、何故ですか?」

「戦場では焦った方が負ける。武功を焦って撃退されては、帝国全土から笑いものとなろう」

「いや、しかし……」

「儂とて、奴に功を取られるのは極めて不愉快なのだ。しかし、それを理由に家臣を危険に晒すわけにはいかぬ。今は素直に、我が力及ばなかったと受け入れよう」

「はっ……」


 城壁の攻略に時間がかかっていることを、フランク公カールは素直に認めていた。焦らず真っ当に戦って勝てぬのであれば、それは力量の不足であると。


「へぇ。さすが、この歳まで戦場で生き残ってるだけあるね」

「城壁を制圧したことは大きな武功だ。ポメレニア辺境伯が妨害なしに城門に近づけるのも我らのお陰。十分な功は既に挙げた」

「辺境伯も同じくらいの武功と評価されるかもしれないけどね」

「本当は阻止したいが、やむを得ぬ。足るを知ることこそ君主にとって肝要なのだ」

「君は欲深くなくていいね。うちの辺境伯とは大違いだ」

「奴がいずれ、その欲で身を滅ぼすところを見てみたいものだ」

「さて、どうなるかね」


 ――魔王と勇者が同じ理由で滅びるなんて笑えないんだが。


 真剣にやめて欲しいヴィルヘルミナであった。


 ○


「ここから退くことは許さん!! 敵を食い止めよ!!」

「「おう!!」」


 ウティウム伯は自ら最前線の指揮を執り、辛うじて敵を食い止めていた。ちなみに城壁の反対側は両軍ともそれほど力を入れておらず、静かな膠着状態にある。だが、そこに最悪の報せが入る。


「敵の本隊が動き出した模様! およそ五千の兵が城門に迫っております!」

「クッ……。最早、我々には何もできん……」


 ウティウム伯には、フランク公とポメレニア辺境伯が手柄争いしていることなど知る由もない。彼の目には戦況がただただ絶望的になっていくとしか映らなかった。


「城壁の後ろに陣を敷いて戦いましょう!」

「馬鹿者! 城壁から滅多打ちにされるわ!」

「そ、そうでした……」

「残るは、市街地で戦うことくらいでしょう。複雑な街路を活かせば、少数の兵で抗戦することも可能です。民に多くの犠牲を強いることにはなりますが……」

「それに、そこまで抵抗すれば略奪されても文句は言えません。降伏するのであれば……これが、最後の機会かと」


 実際のところ皇弟リヒャルトに略奪を行う意思はないのだが、戦場の一般論として、最後まで抵抗した都市が略奪を受けるのは当然だと考えられている。


「市街地に籠ったとて、東方帝の援軍が来るまで耐えられるか?」

「早くても九日はかかります。畏れながら、無謀かと」

「そうだな……」


 ウティウム伯の軍勢は精々三千。二万五千の相手に城壁なしに戦うのはあまりにも無謀だ。


「城壁への侵入を許した時点で、我らの勝機は最早……」

「あるいは、ウティウムを放棄し、詰めの城に籠るというのは?」


 ウティウム伯の政務の中心は城塞都市の中央にある屋敷だが、郊外には純粋に軍事的な拠点となる城がある。狭いが、その分兵力の密度が高く防御力に秀でる。


「奴らの目的は先に進むことだ。城に籠っては、ただ閉じ込められて終わりだろう」

「左様、ですね……」


 どうやっても勝機はない。あとはどのように負けるかを選択するだけである。


「北方帝領の連中に、我らの意地を見せてやりましょう! 徹底抗戦し、目に物見せてやるのです!」

「そんなことをすれば、このウティウムは大いに傷つきます。民のことを想えば、今すぐに降伏する他ありますまい」

「市民の多くは北方帝領に降ることをよしとせず、戦いの用意を整えております!」

「伯爵様、どうかご決断を。いずれにせよ、迷っている時間はありません」


 伯爵は暫し黙り込み、家臣らを一通り見渡して、ついに口を開いた。


「…………私はそもそも、東方正帝に恩を売って王国から独立するつもりでいた。ランゴバルド国王はいつも暗愚ばかり。先祖代々、独立の機を窺っていた。しかし、それが叶わぬのであれば、これ以上戦う意味はない。矜持のためだけに戦うなど愚策である。戦は終わりだ」

「お言葉ですが、矜持を捨てた家に未来はありません!」

「そうは思わぬな。一度他家に従属した後に再起を果たした例は数多あろう」

「ですが……」

「そのような貴族の都合に、無辜の民を巻き込みたくないのだ。よいか、これは降伏ではない。北方帝と和睦するだけだ」


 事実上の降伏であったが、ウティウム伯はせめて名目上でも対等な和睦という形式を保とうとした。停戦の使者が皇弟リヒャルトに送られ、リヒャルトは直ちに全軍に停戦を命じた。


 剣戟の音と喚き声の絶えなかった城壁も、今や全く静まり返った。互いを警戒して武器は降ろさないが、両軍とも停戦をよく守った。

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