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不死身の元魔王ヴィルヘルミナ~吸血鬼は千年の戦場を見届ける~  作者: Takahiro
第二章 ウティウム攻囲戦

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城壁上の戦い

 フランク公の軍勢とヴィルヘルミナはすぐに合流した。


「シルヴァ、この氷の壁を壊してくれるかい?」


 氷の壁は敵と味方を完全に分断している。敵が反撃できないのはいいが、こちらから進軍することもできない。


「フランク公の命令があり次第。お前に命令される筋合いはない」

「そんなに人間に忠誠を誓っているとはね」

「フランク公はいい人。エルフに対しても分け隔てなく接する。ポスナニア公もそうだったけど」

「それは……悪いことをしたね」


 ヴィルヘルミナが直接殺したわけではないとは言え、ポスナニア公に対して一定の罪悪感はあった。とは言え、戦場の死に一々謝るのもまた不合理だ。


 フランク公は公爵だというのに――しかも帝国でも最有力に近い大貴族だというのに――自ら城壁上を闊歩してきた。


「公爵様が自らお出ましとはねぇ」


 ヴィルヘルミナはフランク公カールに馴れ馴れしく話しかける。彼の家臣は非常に怪訝な目で睨みつけてきたが、当の本人は特に気にしていなかった。


「お前がヴィルヘルミナか。面白い吸血鬼よ」

「それはどうも」


 ヴィルヘルミナと挨拶を済ませ、フランク公は早速シルヴァに氷を溶かすよう命令した。


「氷が溶け次第、ありったけの矢を放て。劈頭で勢いを握った方が勝つ」

「では、始めさせてもらいますよ」


 シルヴァが魔法をかける。人の背丈の数倍ある氷の棘が音を立てて割れ始めた。やがて全ての棘が砕け、城壁から落下する。ここに再び敵と味方が相対した。


「放て!!」

「「おう!!」」


 両軍の距離はおよそ二十メートル。フランク公軍もウティウム伯軍も、最前線に厚い盾を並べていた。両軍の弓兵が魔導弩で射撃を行うが、盾に阻まれて有効打とはならない。だが、フランク公はその先の手を既に打っている。


「曲射だ! 奴らの頭から矢を浴びせてやれ!」

「普通の弓か。準備がいい」


 魔導弩は基本的に直接射撃しかできないが、普通の弓は間接射撃が可能である。つまり、放物線を描いて上から敵を襲うのである。通常の条件では魔導弩の方が圧倒的に射撃速度が速く、戦場で使われることは少ないが、今回のような限定的な状況では最適解である。


 フランク公が事前に準備させていた弓兵が、少し後方から弓による射撃を開始した。矢は敵の盾を飛び越え、盾の後ろにいる兵士を襲う。そのような攻撃を想定していなかったのか、敵は大混乱に陥った。敵兵は押し合い圧し合い、まだ生きている兵士ですら死体と共に城壁から落下していった。


「まだ耐えている兵もいるね」

「大勢に影響はあるまい」


 一部の兵は自前の盾で防いだり、あるいは剣や斧で矢を叩き落したりしているが、自分の事に手一杯で崩壊を食い止められるものではない。


「頃合かな。私が先陣を切ってあげよう」

「頼んだ」

「では、吸血鬼の戦い方というものを見せてあげよう」


 ヴィルヘルミナは打って出た。最前線の敵はまだ士気が高く、魔導弩で迎撃してくるが、ヴィルヘルミナは矢に貫かれるのも気にせず全速力で駆けた。そして、敵の盾の目前で跳躍し、反対側に回り込む。


「ば、化け物ッ!!」

「すまないが、君達には死んでもらうよ」

「ッ……!!」


 弓兵がいきなり対応できるわけもない。ヴィルヘルミナは彼らの心臓を爪で突き刺し、あるいは首を斬り落とし、ついでに盾を吹き飛ばした。


「今ぞ! 突撃!!」

「「おう!!」」

「これで十分そうだね」


 フランク公の兵が突撃を開始した。ヴィルヘルミナが敵の先鋒を乱したことで反撃は少なく、たちまちウティウム伯軍と乱戦に突入した。


「このまま押し込め! 城壁から敵を追い出すのだ!!」

「「おう!!」」


 一度勢いのついたフランク公軍は敵勢を一気に押し込む。その勢いは凄まじく、討ち取られる前に城壁から落下して死ぬ敵兵が続出するほどであった。


「いやはや、君達もなかなかやるねぇ」

「我らは誇り高きフランクの戦士である。ポメレニア辺境伯の兵などと一緒にするな」

「戦士ねぇ。血の気が多いことは認めるけど、そんなに差があるものかね」

「比べられるほど我らを知っているのか?」

「まあね。私が何百年生きてると思ってるんだい?」


 ――フランク族は頑強に抵抗してきたが、別に強くなかった。


 ヴィルヘルミナは魔王としてフランク族(当時はまだ部族的な制度が残っていた)を討伐したことがあるので、彼らの能力はよく知っている。まあ四百年前のことなので、全く同じではないだろうが。


「やっぱり、膠着しそうじゃないか」

「……仕方があるまい。このような狭い戦場、守備側に優位なことは言うまでもない」


 フランク公軍は敵を八十メートルばかり押し込んだが、ヴィルヘルミナが生み出した勢いはその辺りで途絶えてしまった。ウティウム伯軍は槍兵を数列に並べて壁上に槍衾を構築し、守りを固めている。


 ――敵の大将もそれなりに戦えるみたいだ。このまま押し切るには時間がかかる。


 と、その時であった。


 ――ん? あれはポメレニア辺境伯か?


 吸血鬼の視力が、ポメレニア辺境伯軍が何やら動き出しているのを捉えた。そしてその直後、伝令がやって来た。


「申し上げます! ポメレニア辺境伯軍、城門に向かって進軍を始めました!」

「何? 手柄を横取りする気か」

「横取りって。城門を制圧したからには、地上からも攻めるのが定石だろう?」

「……で、あるな」


 フランク公は眼下の友軍を睨みつけながら暗い声で答えた。

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