化け物たちの攻撃Ⅱ
城壁の上は狭く、せいぜい三人が並んで戦える程度であろう。ヴィルヘルミナとグレーテルにとっては非常に条件のいい戦場である。両手に死神のような鎌を構えたヴィルヘルミナの前に、剣を持った兵士が三人立ち塞がった。
「死にたいのか、お前たち? 今なら逃げてもいいぞ?」
ヴィルヘルミナはわざとらしく兵士を脅してみた。彼らは足元から手先までがくがくと震えており、とてもまともに戦える状態ではなかった。だが、逃げる気もなさそうだ。
「に、逃げるものか!!」
「貴様はここで食い止める、化け物め!!」
「……そうかい。ならばかかってくるといい」
「死ね!! 化け物ッ!!」
「お、おい!」
勇敢な兵士がヴィルヘルミナに突っ込み、彼女の心臓に剣を突き立てた。ヴィルヘルミナが吸血鬼であることはわかっていたのだろう。だが、だからこそ、心臓を破壊されても平然と剣を抜くヴィルヘルミナを見て、顔が真っ青になった。
「残念だったね」
「ヒッ……」
怯えて尻もちをついたその兵士に、ヴィルヘルミナは左手の鎌を振り下ろした。鎌の先が兵士の脳天に突き刺さり、即死した。続いて残った二人に右手の鎌で斬りかかる。彼女の斬撃には誰も対応できず、一気に二人の首が、小麦を刈るように斬り落とされた。
――まるで相手にならないな。斬り合いが専門の兵士じゃないってことか。
先程戦った相手より遥かに弱かった。元々は弓兵なのであろう。護身用の剣で必死に戦ったと見える。
――強い弱いは関係ない。兵士として戦いに来たのなら、死んでも仕方がないさ。
ヴィルヘルミナは若干の罪悪感に苛まれたが、戦場の兵士にまで慈悲を求めるほどお花畑ではないし、長期的な犠牲を抑えるための仕方のない犠牲だと割り切った。
「さて……次に死にたい奴は前に出てこい!」
ヴィルヘルミナは挑発してみたが、敵の反応は予想外のものであった。
「撤退しろ!! 城壁は捨てよ!!」
「や、やった……!!」「逃げろ逃げろ!!」
「おやおや」
偉そうな貴族が命令を下し、兵士たちは先を争って逃げ出し始めた。逃げてもいいと言われれば、ヴィルヘルミナから一目散に逃げるのは当然であろう。
――妙だな……。お貴族様なら、死守させようとすると思ったが。
攻城塔も控えている。もしもヴィルヘルミナがウティウムを支配する貴族であったら、最後の最後まで戦わせるであろう。城壁が突破されれば負けは決まったようなものだからである。
「さて、どうしたものか……」
グレーテルの方を見てみると、依然として交戦中であった。グレーテルの能力は相手を怯えさせるのには向いていない。
――このまま左翼の敵を追い払って、その後で加勢に行くとするか。
どんな罠があろうと死ぬことはないだろうし、罠だったら正面から粉砕すれば敵の士気を一気に落とせるだろう。どうあっても城門は制圧しなければならない。ヴィルヘルミナは追撃することを決定した。もちろん逃げる敵を殺すことはない。
○
「か、掛かりました! 化け物が追ってきます!!」
「よし! いいぞ……」
案の定、これはウティウム伯の作戦であった。
「奴め……。調子に乗って悠々と歩いています……」
「ふん。我々を舐めてかかってきたこと、後悔させてくれるわ!」
「化け物が罠に入りました!」
「よし! 火炎で焼き殺せ!」
ヴィルヘルミナの前に飛び出したのは太い筒を抱えた兵士。その筒からヴィルヘルミナの身体を覆い尽くして余りある炎が放たれた。
火炎放射器――実は古代から使われている兵器である。魔法なしでも兵器として成り立つが、魔法を組み合わせれば炎の安定性や勢いは格段に向上する。城壁のような狭い戦場では非常に効果的だ。
「奴め、黒焦げになりました!」
「効いたか……?」
「い、いえ、動いています!!」
「もっとだ! 前と後ろから焼き尽くせ!! 確実に動かなくなるまでだ!」
ウティウム伯がヴィルヘルミナをここまで引き付けたのは、火炎放射器の設置場所で挟みたかったからだ。もう一人の火炎放射兵がヴィルヘルミナを背中側から焼き、前方の火炎放射器も再度炎を吹き、ヴィルヘルミナはいよいよ足元から頭まで黒焦げになってしまった。
○
――まったく、焼かれるのは嫌いなんだ。
ヴィルヘルミナは死んではいなかったが、無事というには程遠い。ヴィルヘルミナにとっては身体を真っ二つにされるより焼かれる方が再生に時間が掛かる。炭化した皮膚や肉を切り捨て、改めて再生しなければならないからだ。
ウティウム伯は吸血鬼対策として火炎放射器を導入したわけではないが、偶然にもヴィルヘルミナに最も効果的な兵器であった。
筋肉もすっかり炭になっているヴィルヘルミナは、肉体をほとんど動かせず、まるで無防備である。
――まあ、当然攻撃してくるよね。
辛うじて残っている眼球が、斧を持つ敵兵が接近してきているのを捉えた。
――やられるに任せるしかない、か……
為す術がないというのは非常に不愉快であったが、ヴィルヘルミナには本当に打つ手がないのである。




