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不死身の元魔王ヴィルヘルミナ~吸血鬼は千年の戦場を見届ける~  作者: Takahiro
第二章 ウティウム攻囲戦

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化け物たちの攻撃

「あまり矢を無駄にするなよ。十人くらいで攻撃すればよい」

「はっ」


 ウティウム伯の命令通り、十人の弓兵が魔導弩で攻撃を開始した。もちろんランゴバルド王国で使われている魔導弩も魔法式の連弩であるから、一分も経たずに百本を超える矢を放った。


 しかし、その結果は言うまでもない。


「て、敵は、無傷のようです!」

「ば、馬鹿な……。一体どうなっている……」

「敵の様子はよく見えません」


 人影が何やら動いていることだけは辛うじてわかるが、それより細かいことは全くわからない。今夜は月明かりすらわずかであり、戦場の夜は文字通りの真っ暗闇なのだ。


 と、その時であった。ウティウム伯は人影のすぐ近くで何かが星明りを反射しているのに気がついた。


「な、何だあれは? 輝いているように見えるが」

「近づいてきている……?」

「いや、違う! 大きくなっているのだ! こちらに伸びてきている!」

「氷の、階段……?」


 唐突に出現し、そして急激に伸びていくそれは、微かな月明かりに照らし出された氷の階段であった。それは兵士たちが反応する前に伸びきり、壁上に到達した。


「て、敵が突っ込んできます!!」

「迎え撃て!! 矢を惜しむな! あれをくいとめよ! 加えて白兵戦用意!!」

「こ、こんな魔法が……」

「エルフが敵にいるとしか思えん! 全力で迎え撃つのだ!!」


 たった四人の敵に対して、ウティウム伯軍は全力で攻撃を開始した。


 ○


「さあて、今度は防ぎ切れるかい、グレーテル?」

「私は問題ありません。ヴィルヘルミナ様こそ、きちんとヴェロニカ様とシルヴァ様を守ってください」

「もちろんだとも」


 氷の階段を駆け上る四名。大斧を持ったヴィルヘルミナと槍を持ったグレーテルが前に並び、シルヴァを背負ったヴェロニカがその後ろに続く。


 ウティウム側の二百名ほどの弓兵が一斉に攻撃を開始した。立体的に動き回る的を弓で狙うのは並大抵の人間ができる業ではなく、ほとんどがあさっての方向に飛んでいくが、数千の矢が飛来すればその一部は彼女たちに命中する軌道を描く。


「矢を落とすくらい、大したことないね」

「ええ、まあ」


 ヴィルヘルミナは大斧を盾のように掲げ、矢を防ぐ。グレーテルは槍を目にも止まらぬ速さで振るい矢を叩き落とした。


「あなたの身体には矢が刺さっているように見えますが」

「私には何本刺さってもいいんだよ。後ろの二人を守れればね」


 ――矢が刺さってるせいで動きにくいけど。


「随分と他人のことを考える吸血鬼ですね」

「それはどうも」


 ヴィルヘルミナは自分自身を守る気はなかった。ヴェロニカとシルヴァに矢が届かなければいいのである。矢を抜いている暇がないため、刺さりっぱなしであった。


 と、その時であった。


「ッ! 矢が!」


 グレーテルが叫ぶ。ヴィルヘルミナとグレーテルの間、ど真ん中を矢が抜けた。真正面こそ逆に守りが疎かになってしまっていた。


「クッ……!」


 ヴェロニカは爪を伸ばして矢を叩き落そうとする。が、それは彼女たちには届かなかった。


「こ、これは……」

「矢くらい防げるよ」


 エルフのシルヴァが真正面に掌ほどの氷の塊を作り出した。飛来した矢は宙に浮く氷に命中し、氷が砕けると同時にエネルギーが散逸して地面に落下していく。


「私も貢献するとしよう。ちゃんと支えてて」

「もちろんです!」


 シルヴァは同様の氷塊をいくつも浮かべ、飛来する矢の一部を迎撃して前衛の二人の負担を減らす。ヴェロニカは彼女をしっかり背負いながら走った。


 かくして三名の迎撃により、城壁からの射撃はことごとく無力化された。城壁の高さは十メートルほど。氷の階段を登り、矢を防ぎながらでも、一分程度で壁上に到達した。


「化け物どもを食い止めよ! 掛かれッ!!」


 階段の終端には二十人ばかりの兵士が待ち構えていた。主な装備は剣または斧である。


 ――ただの兵士を殺すのは気が引けるが……最終的な犠牲を減らすためだ。仕方ない。


「さあ、最初に死にたい奴はどいつだ!?」


 ヴィルヘルミナは両手に鎌を作り出し、おどろおどろしい声で叫びながら、兵士達に斬りかかった。吸血鬼の膂力で振り下ろされる鎌は、兵士が剣で防ごうと全く意味がなく、その身体を縦に真っ二つに切断した。


「私も参りましょう」


 グレーテルは相変わらず淡々としているが、その槍さばきは本物であった。ウティウム伯の兵ではまるで戦いにならない。歴戦の騎士と農民の子供が戦っているかのような一方的な戦いである。敵兵は次々と槍に突き刺され、或いは身体を真っ二つにされて屠られていく。


「逃げろ逃げろッ!!」「うわあぁぁぁ!!」「化け物ッッ!!」


 ヴィルヘルミナとグレーテルに恐れをなした敵兵は逃げ出し始めた。少なくとも水際での迎撃は失敗に終わり、化け物たちは城壁上に降り立った。


「グレーテルはあっちに進んでくれるかい? 私はこっちに進むよ」

「承知しました」

「ヴェロニカとシルヴァはここで待機だ」

「わかりました!」

「ああ」


 ヴィルヘルミナとグレーテルは狭い道を反対方向に進撃する。城門一帯を完全に制圧するつもりである。城門の制圧が叶わなければ作戦は失敗だ。

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