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不死身の元魔王ヴィルヘルミナ~吸血鬼は千年の戦場を見届ける~  作者: Takahiro
第二篇第一章 レムリア遠征 1255年

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魔王の道

 当初の二万八千から少々減って、およそ二万五千の軍勢がレムリアに向けて出陣した。やはりウィンドボナまで出向いて帰るというのは体面が悪いらしく、余程余裕がない諸侯を除いて、当初の予定通り参陣することとなった。


 軍勢が通るのは幅員二十メートルばかりの石畳で舗装された大路である。舗装されている道路というだけでも珍しいが、これほど太い道は世界でも極わずか、片手で数えられるほどしかない。


 ヴィルヘルミナとヴェロニカはしっかり遮光された荷馬車に乗っていた。暇そうなポメレニア辺境伯アドルフはその戸を開け、彼女たちと話し込んでいる。


「魔王の道ねぇ……。魔王を否定した割には、今でもありがたく使っているんだね」


 ヴィルヘルミナはその道に大きな思い入れがあった。『魔王の道』という名が示す通り、この道はヴィルヘルミナが四百年前に建設させた道なのだ。


「ウィンドボナ・メディオラヌム・レムリアを結ぶ道の需要は巨大です。元老院も魔王の道の維持管理を帝国全土に命じています。もっとも、道中の諸国にとっては、それほどありがたいものではないかもしれませんが」

「維持管理の費用が割に合わないからですか?」


 ヴェロニカがアドルフに問う。


「それも大いにあるが、自国に繋がる巨大な道は攻め込まれる時にも使われる。国防上、基本的に好ましいものではない」


 つまり魔王の道を抱える諸国は、高額な維持管理費用を払って潜在的な敵のために道を整備しているわけである。


「難儀なことだね。それでも廃れていないのは、なかなか凄いと思うけど」

「完全に維持されているわけではありません。国によっては幅員が減少している箇所もあります」

「使いやすいように道を全部同じ規格にしているからね。魔王領が巨大だった頃は問題なかったけど、バラバラになった今では、石切場がない国は維持が大変だ」


 かつてヴィルヘルミナは魔王として、北方帝領・西方帝領・半島本土、そして東方帝領の一部を一円支配していた。当時は上質な石材も広く流通し、魔王の道の維持管理は比較的容易であった。


「お詳しいですね、ヴィルヘルミナ様」

「大昔からずっとあるものについては、君達より詳しいに決まっているだろう」

「それはそうですね。私は、実物を見たことのあるものが少ないですから……。魔王の道も今日初めて見ました」

「そうか……」

「これも吸血鬼になれたお陰です!」

「喜んでもらえているなら嬉しいよ」


 ――まだ十年も経ってないんだ。吸血鬼になってよかったことの方が多いか。


 と、その時であった。皇弟リヒャルトからの使者が辺境伯の許へやって来た。いや、それは辺境伯ではなく、ヴィルヘルミナ相手にやって来たものであった。


「――吸血鬼ヴィルヘルミナ殿。パンノニア公リヒャルト殿下がお呼びです。どうか来ていただきたい」

「私かい? 物好きな奴もいるもんだね」

「というか、リヒャルト殿下にヴィルヘルミナ様の存在が知られていて、大丈夫なのでしょうか……?」

「問題はない。リヒャルト殿下の方も、グレーテルという怪物を擁しているのだからな」


 たとえ人間であっても、不老の怪物を配下にしているというのは体面が悪い。皇帝家とポメレニア辺境伯家は互いに弱みを握り合っているのである。それに、有力貴族が怪物を囲い込んでいるのは、暗黙の了解というものである。


「まあ、せっかくのお誘いだし、乗るとしよう」


 そういうわけで、ヴィルヘルミナは真っ黒な外套をわざわざ纏い、皇弟リヒャルトの陣へ向かった。


 ○


「――これはこれはヴィルヘルミナ殿、この目で見るのは初めてじゃ」

「ああ、初めまして、リヒャルト殿下」


 両者は馬に乗り、隣り合って会話を交わす。皇弟リヒャルトはいかにも人当たりのよさそうな老人であった。怒っている姿が想像できない。ちなみにグレーテルはリヒャルトの反対側から見張っている。


「それで、わざわざ私を呼びつけた理由は何だい?」

「この先もしも困難があれば、卿に力を貸してもらいたいと思ってな」

「全く気は進まないけど、報酬次第では受けないこともないよ。とは言え、私の主義に反することはやらないけど」

「それで構わぬ」

「先に聞いておくけど、どうして私を雇いたいんだい? 契約の前に具体的な仕事を聞かせてもらいたいんだが」

「それは当然じゃな。これより我らは、敵領と言ってもいい地を通る。儂を暗殺しようとする者が現れるやもしれぬ。あるいは、我らの進軍を邪魔されるやもしれぬ」

「グレーテルがいれば十分じゃないのかい?」

「そうです、殿下。わざわざ吸血鬼などに頼る必要はございません」


 ここぞとばかりに、グレーテルが存在を主張する。


「まあまあ。卿を頼っていないわけではないのだ」

「じゃあ何故だい?」

「グレーテルの魔法は強力じゃが、あまり派手なものではない。敵を怯えさせるのであれば、ヴィルヘルミナ殿の方が適役だと思うてな」

「なるほどねぇ……」


 確かにグレーテルの魔法――槍を作る魔法は洗練され非常に強力だ。しかしそれは槍術の達人にしか判別できないような熟練であって、普通の兵士に違いはわかるまい。

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