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不死身の元魔王ヴィルヘルミナ~吸血鬼は千年の戦場を見届ける~  作者: Takahiro
第二篇第一章 レムリア遠征 1255年

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74/90

押し問答

「名前を聞いているのではありません」

「わかってるわかってる。とは言え、別に大して面白い話じゃない。私はただ、辺境伯殿下に雇われているだけだ」

「吸血鬼の傭兵ですか。勇者の末裔ともあろう方がそのような行為に手を染めるとは」

「私はあくまで、吸血鬼やその他の邪法を用いる連中の敵だ。真っ当に戦っている人間相手には戦わない」

「なるほど。確かに、相手が先に左様な手段に訴えてきたのなら、やむを得ないのかもしれませんね」

「ご理解いただけて光栄だよ。それに私は極めて善良な吸血鬼だ。絶対に人間を襲ったりはしない」


 ヴィルヘルミナは誇らしげに言うが、グレーテルは全く信じる様子がなく、まるで胡散臭い錬金術師を見るような目をしていた。


「それはともかく、一つ思い出したことがあります。ヴィルヘルミナと言えば、帝国の記録に何度か名を見せる強大な吸血鬼とお見受けしますが」

「ああ、多分そのヴィルヘルミナだよ」

「であれば、歴代の北方正帝に謁見したことがあるのも納得できます。とは言え、あなたの正体について、当方の記録にはほとんど何も記されてはいませんが」

「正体って言ってもねぇ。一体何を聞くっていうんだい? 私は強いけど、ただの流浪の吸血鬼に過ぎないよ?」


 ヴィルヘルミナが元魔王だと想像する人間はまずいないだろう。両者を関連付ける記録は最早残っていない。


「では、あなたは血族の始祖なのですか?」

「そうではないが、それに近しい存在だ」

「詳しくお聞かせ願いたいものですが」

「別に大したことじゃない。血族の始祖を喰らって、その力を得ただけさ」


 肝心なところは何重にもぼかされている、まさに玉虫色の回答である。


「血族の始祖を喰らった? 左様なことが可能なのですか?」

「吸血鬼にされた後だからね。どうとでもなるさ」


 ヴェロニカにしたのと同じ説明である。


「血族の始祖とそれ以外では、大きな力の差があります。戦闘に不向きな始祖を喰らった可能性もあるでしょうが」

「ヴィルヘルミナ様が戦闘に不向きとは思えませんが……」

「ちょっと?」

「あ、すみません……」

「まあいいんだけど」


 ヴィルヘルミナの圧倒的な戦闘能力を目撃している手前、彼女が戦闘に不向きなどとは、ヴェロニカは口が裂けても言えないのであった。


「なるほど。あなたが始祖でなくてもそれほど強い吸血鬼であったのか、あるいは相手がそれを望んだからか」

「……さあ、どうだろうね」


 ――こいつ、数百年生きてるってのも伊達ではないな。ちゃんと賢い。


「望んだ……? そんなことがあり得るのでしょうか……。吸血鬼なら、死にたくなったら自殺できますし……」

「確かにこの説には不自然な点が多いですね。しかし、全く考えられないわけでもありません。死にたいが自分の力が失われるのを惜しんだとか、死んでも力を与えることが目的だったとか、あるいは相手を呪おうとしたとか」


 すらすらと仮説を並べるグレーテルに、ヴェロニカは気圧されていた。


「な、なるほど……。呪うというのは、どういうことです?」

「吸血鬼の力を呪いと捉える血族の始祖がいれば、誰かに押し付けて死ぬということも考えられます。そのような吸血鬼がいないわけではありません」

「呪い、ですか……。確かに、人間に戻ることはできないですし……」

「はい。いかがでしょうか? 私の仮説のどれかは当たっていますか?」

「数打ちゃ当たるっていうのはズルいんじゃないかな? もっとちゃんと推理するべきだと思うよ」

「では、この中に当たりがあると」

「どうだろうね」

「では……吸血鬼らしい発想としては、相手に呪いを押し付けたと推測しますが、いかがでしょうか?」

「残念。外れだ。まあ、部分的に当たっている部分もなくはないけどね」


 ――まあまあ危なかったな。


「左様ですか。それではいずれ、情報を集めてから再び参ります」


 グレーテルは数打ちゃ当たるをよしとしない性格のようだが、同時に諦める気もなさそうである。しかも相手は永遠に生きる不老の存在だ。死ぬまではぐらかすのも困難だろう。


 さて、次はヴィルヘルミナの番である。


「私はこんな話をするために来たんじゃないんだ」

「そうなのですか?」

「ああ。予想外に面白い方向に話が飛んでいってしまったが、本当は今回のレムリア遠征の真意を確かめたくてね」


 こちらがポメレニア辺境伯から依頼された話である。


「真意とは、何のことでしょうか? 北方正帝陛下の御譲位の宸旨以外、理由などありません」

「わざわざ皇帝を挿げ替えなくても、摂政を立てればいいんじゃないかい? それこそ嫡男フリードリヒ殿下を摂政にすればいい」

「北方正帝が政争以外で譲位するというのは、歴史上例がありませんかと……」


 ヴィルヘルミナもヴェロニカも、持ち前の知識でグレーテルを問い詰める。


「高齢を理由に摂政を立てることこそ、例がありません」

「であれば、宰相を立てればよいのではありませんか?」


 要するに、わざわざ皇帝を変えずとも、皇帝抜きで政治をやっていく方法はいくらでもあるということである。


「それらを踏まえてもなお、陛下は御譲位をお望みでおられます」

「そうかい? ああ、そうそう。最近北方帝領である噂が広がっているのを知っているかい? ずっと皇帝に仕えている君なら、何か分かるかもしれないと思ったんだが」

「はて。何のことでしょうか?」

「北方帝ジギスムント陛下は実は影武者なんじゃないかという噂があってね。知らないかい?」

「ちょ、ヴィルヘルミナ様、そんないきなり……」

「左様なこと、口に出すだけでも不敬です。口を慎みなさい」

「ごめんごめん」

「左様な世迷い言に惑わされる方に付き合っている暇はありません。もしもポメレニア辺境伯に付き従うのなら、またお会いすることもあるでしょう。これにて失礼させていただきます」


 グレーテルは明らかに不快そうに会話を断ち切り、ヴィルヘルミナとヴェロニカを置いて去っていった。

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