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不死身の元魔王ヴィルヘルミナ~吸血鬼は千年の戦場を見届ける~  作者: Takahiro
第七章 霧になる魔法

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ノエルのその後

「――というわけで、君の面倒はヴィアドルス宮中伯に任せることにした」


 岩の寝台にだらしなく横たわったノエルに、ヴィルヘルミナは決定事項をいくつか通達した。


「勝手にして」

「承認と取らせてもらうよ。それと、ここの入口を塞いでる壁は壊していいかい?」

「いいよ。私が造ったんじゃないし」

「ああ、ヘルムートが造ったのか」


 ノエルはそのように認識していなかったが、あのわずかな穴だけが開いた岩盤の壁は、ノエルの力が奪われることを恐れたヘルムートが用意したものらしい。


「なら遠慮は要らないね。あれを壊せば色々とやり取りしやすくなる。君が外に出てきてくれれば、わざわざそんなことをしなくて済むんだが」

「この部屋は気に入ってる」

「そうかい。なら、暫くの間うるさいかもしれないが、我慢してくれ」

「構わない」


 かくして、ノエルが引き籠もる一室への道を開ける工事が開始された。方法としては、ひたすらツルハシを振り下ろして岩盤を削り切るしかない。


 ヴィアドルス宮中伯が用意した作業員が百ばかり。それに加え、万一に備えてポメレニア辺境伯軍の騎士二百ばかりが洞窟に残る。もちろんヴィルヘルミナとヴェロニカ、それにゲルトルートも残っている。可能性は非常に低いが、ノエルが突然牙を剥いたとしたら、太刀打ちできるのは彼女たちしかいないだろう。


 ○


「それにしても、あんたはよく平気でいられるなぁ?」

「お前たちなど脅威のうちに入らぬ。私はノエルの監視のために残っているまで」


 同じ洞窟に居合わせることになったヘルヴェコナ伯ゲッツと吸血鬼ゲルトルートは、互いに敵意を向けあっていた。両者は北方戦争の仇敵であるし、つい先日も一時は剣戟を交えた。


「ヴィルヘルミナと同じように不死身だったとしても、この数を相手にしちゃ、勝ち目なんぞないと思うがな?」

「私にはお前たちと戦う理由がない。お前たちが乱心して私に襲いかかってくるのであれば、とっとと逃げるまでだ」

「あんたの率いる吸血鬼連隊のせいで、こっちには相当な犠牲が出てるんだが?」


 ヘルムートとの戦いで一時的に裏切ったことについては、ゲッツは特に根に持っていなかった。ゲルトルートはそもそもヘルムートもヴィルヘルミナも殺すために来たのであるし、ヘルムートらを殲滅するという目的は果たされたからだ。


 本当に根に持っているのは、多くの兵士が死んだ北方戦争の方である。


「お前達に大義があったのならば、その謗りも受けよう。しかし北方の諸種族にしてみれば、お前達はただの侵略者である。お前の兵が何人死のうと、我々を非難することはできまい。お前は一体何人の無辜の民を殺した?」

「言ってくれるな……。とは言え、正論だ。あんたの方が正しい」

「随分と物分かりのいい奴であるな」

「俺はこう見えて合理主義が好きなんだ」

「そうか。もっとも、今ここで私を殺した方が得かもしれんぞ?」


 ゲルトルートは挑発的な笑みを浮かべながら。


「ポメレニア辺境伯家の家臣がそんな真似をできるか。殿下の名誉に傷をつけるわけにはいかないんだよ」

「最初からそのつもりであれば、わざわざ私に喧嘩を売る必要もないであろう。それとも、私から仕掛けたことにしたかったのか?」

「そんなわけがあるもんか」

「ふん。どうだか」


 吸血鬼ゲルトルートと義腕の将軍ゲッツは、打ち解けることはなかったが、表立って敵対することもなかった。


 ○


 さて、一ヶ月ほどの工事でノエルの居室までの道を塞ぐ岩盤は取り除かれた。ヴィルヘルミナはヴィアドルス宮中伯らをノエルの部屋まで案内する。ゲルトルートは半月ほど様子を見て、安全だと判断してどこかに行ってしまった。


「お、お前が、吸血鬼ノエルか……?」


 宮中伯はおっかなびっくり尋ねた。ノエルは天井を見つめたまま応える。


「そうだけど、何の用?」

「あ、ああ……私は、ヴィアドルス宮中伯コンラート。この辺りの領主だ」

「あなたが私の面倒を見てくれる人か」

「う、うむ。そのつもりだ。お前が裏切らなければ、十分な血を供給することを約束する。他にも欲しいものがあれば、遠慮なく言いがよい」

「面倒見がいい。ヘルムートとは大違いだ」


 ノエルは初めて宮中伯に視線を合わせた。


「そ、そうか……? ま、まあ、あんな野蛮人とは違って、これでも私は大貴族だからな……」

「君達、意外と相性が良さそうだね。摩擦が少ないのはいいことだ」

「これから、私のお世話係、よろしく」

「あ、ああ……。よろしく頼む……」


 宮中伯コンラートは引き攣った笑みを浮かべながらも、ノエルと握手を交わした。


 ――本当に、結構上手くやっていけそうだな。


「本当は生きたままの人間を喰いたいんだけど、新鮮な血を用意してくれればいいよ」

「そ、そうか……。最大限の努力はしよう……」


 ――やっぱり心配になってきたな。


 とは言え、それから暫くポメレニア辺境伯領とヴィアドルス宮中伯領は平和であった。死体はなくとも、ヘルムートより余程安定して血液を供給してくれる環境にノエルは満足しており、すっかりヴィアドルス宮中伯に飼い慣らされていた。


 ヴィルヘルミナはこの洞窟にヴェロニカと共に半年ばかり居残ったが、取り立てて問題は起こらず、後のことはヴィアドルス宮中伯に任せることにした。


 平和な時間は一年半にわたって続いた。

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