表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死身の元魔王ヴィルヘルミナ~吸血鬼は千年の戦場を見届ける~  作者: Takahiro
第七章 霧になる魔法

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

70/89

ヴィルヘルミナの選択

「ヴィルヘルミナ、やはりそいつは危険だ。ここで排除しておくべきだ」

「そんな気もしてきたけど……」

「貴様にその気がないのなら、私がやるまで!」

「ちょっと?」


 ゲルトルートは突然、ヴィルヘルミナに向かってナイフを投擲した。ナイフはヴィルヘルミナの腹部に突き刺さり、そのまま貫いて、反対側にいたゲルトルートの腹に突き刺さった。


「これは効くか?」

「普通の吸血鬼でも、大して効かないよね?」


 ノエルはそのナイフを軽々と引き抜いた。実際、並以上の吸血鬼であれば、その程度の攻撃が致命傷になることはない。だがゲルトルートにはそれで十分であった。


「効いているではないか」

「もう治ったよ?」

「ヘルムートと同じく、傷があると霧にはなれないようだな」

「へえ。気付いてたんだ」


 もしも傷がある状態でも霧になれるのなら、わざわざナイフを抜く必要がない。やはり弱点はヘルムートと共通している。


 ――とは言え、殺すのは難しいと思うけど。


 彼女を殺すのであれば、不意討ちで心臓を一撃で破壊するか、あるいは傷を修復される前に心臓を突き刺す必要がある。しかし、心臓を狙った攻撃には敏感だろうし、血族の始祖として再生能力は非常に高い。


 とは言え、明確な弱点が見つかったのは確か。ノエルも少しばかり臨戦態勢に入り、ヴィルヘルミナとゲルトルートに交互に視線をやっている。三者は膠着状態に陥った。これはある意味、交渉の機会が生まれたとも言える。


「ゲルトルート、やっぱりやめよう」

「諦めよと言うか?」

「……そうだ」

「そのわけは?」

「弱点がわかったとしても、彼女を殺すのは非常に難しい。君ならわかるだろう。それに、十分な血を与える条件で手を結べば、裏切ることはないはずだ」


 それに加えて、ノエルに対する罪悪感もあった。魔王として支配下の諸侯を安心させていれば、彼女は普通の人生を全うできたかもしれないのだ。


「そうだろう? 血を無条件に与えてくれる相手を、わざわざ殺す理由は君にはないはずだ」

「そんな人がいるなら当たり前だよ。何で殺さないといけないの?」

「見立て通りだ。あと、ゲルトルートのことは許してくれるかい?」

「あー、どうでもいいよ。大したことないから、別に殺さなくていいや」

「なんだと!?」

「まあまあ……」


 地団駄を踏むゲルトルートを、ヴィルヘルミナは苦笑いしながら諌めた。苛ついたゲルトルートはヴィルヘルミナの心臓にサーベルを突き刺した。


「私はいくらでも刺していいんだけど、彼女を認める気にはなったかい?」

「……人を殺す気はないと言ったな。気が変わらないと断言できるか?」

「四百年以上気が変わってないし、変わらないと思うよ」


 ゲルトルートの剣幕にも全く怯まず、天井を見つめながら、のんびりとした口調で答えた。


「私は断言と言っているのだが……。お前にそんなものは期待するべきではないか」

「どうだい、ゲルトルート?」

「……わかった。生かしておいてやろう。ただし、もしも人に危害を加えたら、直ちに殺す。貴様もそうだな、ヴィルヘルミナ?」

「ああ。それはもちろん」


 ゲルトルートが人類の敵になったのであれば、敵対しない理由がない。容赦なくその心臓を壊すであろう。もっとも、その手段は思いつかないのだが。


「こういう条件で、和睦してくれるかい、ノエル?」

「いいよ。でも、もうちょっと血をくれない? あなたの血は面白い味がする」

「ああ、わかった。血くらいなら喜んで」


 ヴィルヘルミナは寝転がったノエルの顔の前に腕を差し出した。ノエルは顔を上げるのも面倒臭そうに口を開いた。ヴィルヘルミナは彼女の牙に腕を押し付け、血を吸わせた。


「やっぱり、血族の始祖に近い味だ」

「それはどうも」

「あーあ。私も血を吸ったら記憶が見れたらよかったのに」

「それは残念」


 ――もしもそんな力があったら、色々と困る。


「あなたの昔話は聞かせてくれない?」

「……できれば話したくないんだが」

「だったらいいや」

「私の血は要らんのか?」

「別にいいや」

「…………」


 ゲルトルートはヴィルヘルミナに負けた気がしたのか、不機嫌そうに歯ぎしりしていた。


 とにもかくにも、ノエルとの一件はこれで落ち着いた。


 ○


「――というわけなんだが、辺境伯殿下に伝えてくれるかな?」

「それよりも、ここは宮中伯領なんだ。宮中伯殿下に先に許しをもらった方がいいんじゃないか?」


 ヴィルヘルミナがヘルヴェコナ伯ゲッツに連絡を頼んでみたところ、実に真っ当な助言が返ってきた。ヴィルヘルミナはすぐに実行に移した。


「――というわけなんだけど、構わないよね?」

「あ、ああ。卿でも殺すことが叶わぬのであれば、飼い慣らした方がよかろうな……。血であれば、我が方で用意するぞ」

「そうかい? まあその方が面倒は少ないと思うけど」

「こ、こんなことで、ポメレニア辺境伯を頼るわけにはいかんのだ……。辺境伯には、このことについて手助けは要らんと言っておいてくれ」

「わかった。私も暫くはここに残るよ。よろしくね」

「あ、ああ……」


 ヴィルヘルミナはノエルを監視するため、暫くはここに残るつもりだ。あの岩盤の壁を壊さない限り、向こう側に行けるのはヴィルヘルミナとゲルトルートだけなのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ