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不死身の元魔王ヴィルヘルミナ~吸血鬼は千年の戦場を見届ける~  作者: Takahiro
第七章 霧になる魔法

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命を弄ぶ魔法

 吸血鬼たちの死体は洞窟の外に持ち出すだけで処理できた。死体であっても日光に晒せば一瞬で消滅するので、非常に便利である。


「あー、ちょっと。ヘルムートの死体だけは取っておいてくれるかい?」


 ヴィルヘルミナは死体を運び出そうとしている辺境伯軍の兵士に要請した。ヴィルヘルミナが上半身しかないのも、最早驚かれなくなっていた。


「は、はぁ……」

「理由は聞かないでくれ。ただ、この吸血鬼共を生み出した吸血鬼を探すのに、その死体が必要になるかもしれないんだ」

「わ、わかりました。では……」


 ヴィルヘルミナの近くにヘルムートの死体を残し、兵士は去っていった。


「またゲルトルートさんの魔法で記憶を見るのですか?」


 と、ヴェロニカが問う。ヴィルヘルミナは「その通り」と答えた。


「恐らく、ここにいた吸血鬼は全員、ヘルムートから血をもらって吸血鬼になった。こいつに血を与えた奴の記憶はこいつしか持っていないだろうね」

「なるほど……。ですが、本当に信用していいのですか?」

「え、うん。だって、彼女のお陰でここを突き止められたんじゃないか」


 ヴィルヘルミナは困惑した様子で返す。彼女にはゲルトルートを疑うという発想がなかった。


「そうではなく、あの人は土壇場でヴィルヘルミナ様を裏切ったではありませんか」

「裏切ってなんかないよ。ゲルトルートは最初から最後まで、私を殺すことが目的だった。彼女の態度は何も変わってはいない」

「ヴィルヘルミナ様は……自分を殺そうとしている相手と、よくそんなに平然と一緒にいられますね」


 ヴェロニカは呆れ果てた様子だった。ヴィルヘルミナの精神性が常軌を逸していることは、わざわざ説明するまでもない。


「まあ、私は死なないからね」

「では、ゲルトルートさんがやっていることは無駄なのですか?」

「そんなことはない。私の生命力を全て消費させ切ったら、私を殺すことができるからね」

「何でそんな平然と……。しかし、ヴィルヘルミナ様にも限度はあるのですね」

「吸血鬼の力の源は血液に含まれる生命力だからね。これに例外はない。そして私の固有魔法『命を弄ぶ魔法』は、生命力を使って命を生み出せる」

「ええと……ゴーレムでも作れるのですか?」

「あー、試したことはないけど、多分無理だね。あくまで自分用の命を生み出せるんだ。何個でもね」

「それって、何回でも生き返れる、ということですか?」

「その通り。やっぱり賢いね、君は」

「そ、それほどでも……」


 ヴェロニカはわかりやすく頬が緩んでいた。


 ヴィルヘルミナの『命を弄ぶ魔法』の本質は、新たな命を創造できることにある。ヴィルヘルミナの血族以外の吸血鬼は、どれほど生命力を蓄えていたとしても、一度心臓を破壊されたらそれで終わりだ。


 だがヴィルヘルミナは、死んだ途端に新たな命と心臓を生み出すことで、即座に生き返ることができる。あるいは命を事前に錬成して、別の場所に置いておくこともできる。


「ですが、それって、私も『命を弄ぶ魔法』を使えるのですよね?」

「もちろんだ」

「私は命を弄びたくなんてありません……」

「む……そう来たか」


 ――ヴェロニカなら当然の反応か。いや、大体の人間が同じ反応をするか。


「私が格好つけただけの名前だから、別に深い意味はないよ。生きている人の命を無意味に奪うようなことは絶対にしない。それとも、新たな命を生み出すのは冒涜だと思うのかい?」

「そうは思いませんが……」

「吸血鬼に吸われた生命力に、個性なんてない。元の人間を復活させることもできない。ならば、どう使おうと問題はない」

「なるほど……。わかりました」


 どうやらヴェロニカは、他人の命を勝手に使うようなものだと思ったようだ。考えようによってはそうとも言えるが、普通の再生でもそれは同じことである。


「しかし……そうなると、ヴィルヘルミナ様はどれほどの命に相当する生命力を蓄えているのですか?」

「――いい質問だね」


 ――問われたからには、答えるしかないか。


「まあ、大体数万人分ってところかな。細かい人数はわかんないんだけど」

「…………」


 当然の反応と言うべきだろう。ヴェロニカは暫しの間、言葉を失った。吸血鬼の白い肌が、輪をかけて青ざめていった。


「そ、それって……それだけの人を、殺した、のですか……?」


 恐る恐る尋ねる。


「人を殺したことはあんまりないよ。私としては、ほとんど吸血鬼を殺して奪った生命力だ」

「多くなくても、人を殺しはしたのですね……?」

「ああ。だが誓って、何もしてない人間を殺してはいない。殺すのは戦場に戦いに来た兵士だけだ。それでも、できるだけ殺さないようにはしている」


 ゲルトルートの家族を殺したと言っていたことに、明らかに矛盾している。それをヴェロニカが見逃すはずもない。


「……では、ゲルトルートさんの家族を殺したと言っていたのは?」


 ――そう言えば、その話はもうしてしまっていたか。


「そうだね、何百年も生きていると、たまにはいつもと違うこともしたくなるんだ。ただ、それだけだよ」

「そ、そんな理由で、殺したと……?」


 ヴェロニカは信じられないものを見る目をしていた。その声は怒りに震えていた。



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