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不死身の元魔王ヴィルヘルミナ~吸血鬼は千年の戦場を見届ける~  作者: Takahiro
第六章 西の吸血鬼退治

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吸血鬼の群れの最期

「ッ! これは……!」


 ヘルムートの足を浸す血の海。それがにわかに生き物のように蠢き出した。ヘルムートがその異常に気づいた時には、もう手遅れであった。霧になる魔法が使えない以上、回避する手段はないのだ。


「残念だったね」

「お前――」


 ヴィルヘルミナの血が、槍となった。何本もの槍がヘルムートの全身を貫き、身じろぎすらできないほど拘束した。両手両足はもちろんのこと、首も貫通されていたが、ヘルムートはまだ死んでいなかった。あえて心臓を避けたからである。


 血の池の中に転がるヴィルヘルミナは、ヘルムートに最後の言葉を掛けた。


「迂闊だったね。ヴェロニカを人質になんてしてなければ、逃げられたかもしれないのに」

「ッ…………」


 ヘルムートは喉を貫かれているので、声を出すこともできなかった。


「じゃあ、死のうか」

「親分!!」


 配下の吸血鬼が助けに来たが、ヴィルヘルミナの血の棘がまるで柵のようになり、近づくこともできない。ヘルムートは何か言おうとしていたが、ヴィルヘルミナは聞く耳を持たなかった。


 血の槍が少しずつ伸びていって、ヘルムートの心臓に迫った。


「君みたいなのがまた現れないと嬉しいんだけどね。まあ、君には関係ないことだ」


 ヘルムートがどうもがいても無駄であった。血の槍先はヘルムートの心臓を貫いた。ヘルムートは最早動かなくなった。


「親分が死んだ!!」

「に、逃げろ!! 殺される!!」

「散々人殺しをしてきたお前達が、何を言ってるんだか」


 ヘルムートが死んだからと言って、彼に吸血鬼にされた者が死ぬわけではない。残った六体の吸血鬼は次々と霧に変身し、洞窟の奥に逃げていった。


 戦いはひとまず幕引きを迎えた。


「はぁ……。疲れた……」

「おいおい、大丈夫か、ヴィルヘルミナ?」


 相変わらず古い彫像のような有様のヴィルヘルミナに、ヘルヴェコナ伯ゲッツが話しかけた。


「暫く休んでれば回復するよ。心配は不要だ。こいつらの血も頂くしね」

「お、おう……」


 ヴィルヘルミナから流れ出た血液と、ヴィルヘルミナが殺した吸血鬼の血液。それらが一気に波打ち、ヴィルヘルミナの傷口から体内に吸収されていく。


「こいつのことは放っておけ。それより、残りの吸血鬼を殲滅すべきであろう。わかっているな?」


 ゲルトルートは当然、ヴィルヘルミナを心配する様子など微塵もない。


「そうだな。奥に逃げられちまったが。あんたが余計なことするからじゃねえのか?」

「これから皆殺しにする。お前達も手伝え。全ての入口から騎士を突入させ、洞窟をしらみ潰しに調べ上げよ」

「あいつらはもう脅威じゃないと思うか?」

「最早大した脅威ではあるまい」

「私もそう思うよ。残っているのはただの負け犬だ」


 ヘルムートを失い、強みであった組織的な戦闘能力も失われた。霧になる魔法は戦闘においてはほとんど脅威にならない。吸血鬼狩りに慣れた騎士であれば、十分に対処できる相手であろう。


「ようやく俺達の出番ってわけだな」

「念のため、三人組以上で行動するようにね」

「わかってる。ゲルトルート、あんたも手伝うよな?」

「無論である。本当はヴィルヘルミナを殺してやりたいが、今はあの連中を優先する。夜になるまでに殺し切るぞ」

「そうだな。逃げられるのは面倒だ」


 霧になる魔法を使えば、どれだけ兵士がいようとすり抜けて、洞窟の外まで脱出することができるだろう。そうなってしまうと捜索は非常に困難だ。


「早くしろ、ゲッツとやら」

「あんたはせっかちだなぁ。大体、ヴィルヘルミナを放っておくわけにもいかないんだが」

「そんな奴は日光の下に放置しておけ」

「私のことは放っておいていいよ。とっとと残りの吸血鬼共を皆殺しにしてきてくれ」

「了解だ」


 ゲッツは部下に指示を飛ばし、ゲルトルートと共に洞窟の奥へ向かった。


 ゲッツの姿が見えなくなった頃、ヴェロニカがようやくヴィルヘルミナの許へやって来た。少なくともヘルヴェコナ伯には見つかると面倒だ。


「ヴィルヘルミナ様……。申し訳ありません。ほとんどお役に立てなくて……」

「何を言ってるんだ。君がこいつの霧になる魔法を封じたお陰で殺せたんだ」

「魔法が使えなくなるとは思いませんでした」

「恐らく、この魔法は身体が無傷の時にしか使えないんだろうね。霧になるだけで損傷をなかったことにできたら、さすがに強すぎる」

「強すぎるというのは、理由になるんでしょうか?」

「いい質問だね」


 確かに、既存の吸血鬼の上位互換が現れてはいけない、などという法があるわけではない。


「本当の理由はわからない。だが私の経験上、吸血鬼の固有魔法は概ね同等の強さに収まる。特別に強力な固有魔法を持つ吸血鬼が現れることはない。もちろん、吸血鬼として生きた時間の違いは、大きな力の差になるけど」

「あの大図書館にいたアンナさんでも、そういう事例はご存知ないのですか?」

「彼女にも聞いてみたけど、明確に強い固有魔法は見たことないって言ってたよ」

「なるほど……。吸血鬼の起源と関係があったり、するのでしょうか」

「予想はいくらでも立つけど、証拠は何も残ってないからねぇ」

「それはそうと、ヴィルヘルミナ様はこれからどうされるのですか?」

「この洞窟の中で暫く休むよ。回復するまで傍にいてくれるかい?」

「もちろんです!」


 ヴィルヘルミナが完全に再生するまで、まだ暫く時間がかかりそうだ。

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