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不死身の元魔王ヴィルヘルミナ~吸血鬼は千年の戦場を見届ける~  作者: Takahiro
第六章 西の吸血鬼退治

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瀕死のヴィルヘルミナ

 身を翻して一本を回避し、二本の斧でそれぞれ一つずつを叩き落とす。だが、残った最後の矢は、ヴィルヘルミナの左の太腿に命中した。当然のように銀が塗られた矢が命中し、ヴィルヘルミナの左脚は完全に吹き飛ばされてしまった。


 ――その再生は時間がかかる……!


 即座に再生することは不可能。だが、そういう事態はこれまでにもあった。ヴィルヘルミナは膨大な記憶の中から戦い方を引き出す。その判断は極めて迅速に行われた。


 ヴィルヘルミナは右手の斧を後方に突き刺し、胴体を支える。そして次の瞬間、左手の大斧を敵に向かってぶん投げた。高速で回転する斧は回避する隙も許さず、射手の吸血鬼三体の胴体を真っ二つにして仕留めた。


「残りは五体か? まだ多いなぁ……」

「今度こそ、くたばってもらおうか」

「おやおや」


 ヘルムートはまたしても射手に矢を番えさせた。今度の射手は三体だったが、左脚がないヴィルヘルミナには、回避することも弾き返すことも困難だった。


 ヘルムートが「放て」と冷淡に言い放つと、三本の矢が飛来した。ヴィルヘルミナは心臓付近を斧で守ったが、今度は右脚に命中。両脚が失われ、ヴィルヘルミナは無様に倒れ込むしかなかった。


「死にはしねぇだろうが、こいつで暫く動けねぇだろ」

「まったく、こんな状態の女の子を斬りつけるなんて、野蛮な奴だね」

「何が女の子だ。ふざけるなよ」


 ヘルムートは仰向けのヴィルヘルミナに容赦なく斧を振り下ろした。上半身と下半身を切断し、両腕を斬り落とし、斧の先を心臓に突き刺す。ヴィルヘルミナから体積以上の血が溢れ出し、まるで血の川のような有様になった。


 それでもなおヴィルヘルミナは死なないが、しかし肉体の修復は全く追いつかず、腹部の断面から血を流し続けていた。


「ヴィルヘルミナ様!!」

「来なくていいよ、ヴェロニカ……」


 ――痛みはないが、意識が朦朧としてきたな……。


 叫ぶこともままならず、声はヴェロニカに届かなかった。しかし、状況は動いている。


 ○


「よくやった、ヘルムート。十分な戦果だ。約束通り、楽に殺してやる。それとも、私と戦うか?」


 ゲルトルートは目的を果たした。ヴィルヘルミナの生命力を十分に削るという目的は十分に果たされた。であれば、ヘルムートらは処分するだけである。


「お前もヴィルヘルミナと同じ力を持ってるのか?」

「不本意だが、そうだ」

「だったら、こいつと同じように殺しまくれば動けなくなるんだな?」

「そうだが、私はまだ全く消耗していない。貴様らにそこまでやれると思っているのか?」

「さて。やってみないことには、わからんな!」

「ふん。馬鹿が」


 ヘルムート自ら、斧を両手に持ってゲルトルートに飛びかかった。ゲルトルートは即座に投げナイフを放った。そのナイフは確実にヘルムートの心臓を捉えていたが、しかし命中しなかった。


「霧になるか!」


 命中する寸前、全身を一瞬だけ霧に変化させ、攻撃を素通りさせたのである。


「舐めるなよ!」

「こちらの台詞だ!」


 ヘルムートの二本の斧の攻撃を、ゲルトルートはサーベルで受け止める。両者の膂力は拮抗しており、何度打ち合っても決着はつき難い。


 だが、まさにその時であった。ヘルムートは突如として、体内に違和感を覚えた。それはみるみるうちに拡大し、腹部を中心に激痛が走る。


「クソッ……。何だ、これ……」

「どうした? 他人の血でも体内に入ったか?」

「他人の血……? まさか……!」


 ヘルムートの顔が青ざめる。


「お前は十分役に立っているぞ、ヴェロニカ」

「はい。ヴィルヘルミナ様を傷つけたこと、許す気はありません」

「クソッ……!」


 ヘルムートは飛び退き、ゲルトルートから距離を取った。


 しかし、ヘルムートの体内に残ったヴェロニカの血液が、ヘルムートの身体を物理的に蝕む。臓器や血管を内側から破壊され、ヘルムートは血を吐き出していた。血を固めて武器にする能力の、最も嫌な使い方である。


「さて、そんな状況で戦えるかな!」

「クッ……!?」


 ゲルトルートが弱ったヘルムートに斬りかかる。ヘルムートはサーベルを斧で受け止めたが、今度は明確に力負けしており、体勢が崩れる。


「こんな状態で戦ってられるか。ずらかるぞ!」


 ヘルムートが命令すると、配下の吸血鬼たちは次々と霧になった。だが、ヘルムートだけは霧にならなかった。いや、なれなかった。


「親分!?」

「クソッ! 奴の血のせいか! 霧になれねぇ!」


 自分の唯一の取り柄を封印されたとなれば、焦るのも無理はない。ヘルムートは怒りをぶちまけるように、無意味に叫び散らした。


「に、逃げてください、親分! あいつは押さえておきますから!」

「頼んだぞ!」

「ほう。随分と情熱的な連中ではないか」


 配下の吸血鬼がゲルトルートに襲いかかり、足止めを図る。ゲルトルートにとっては大した敵ではなかったが、ヘルムートも吸血鬼としての身体能力はまだ残っているので、少しでも足止めされると追いつくのは困難だ。


「先には行かせねぇぞ!」

「その必要はない。お前達の頭領は、これでお終いだ」

「何を言ってやがる!」

「直にわかる」


 ゲルトルートは最早、ヘルムートを追いかけようとは思っていなかった。


 そのヘルムートはと言えば、全速力で洞窟の奥に逃れようとしている途中、ヴィルヘルミナの血溜まりに足を踏み入れた。靴がすっかり血に浸かってしまうほど、大量の血が溜まっている。

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