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不死身の元魔王ヴィルヘルミナ~吸血鬼は千年の戦場を見届ける~  作者: Takahiro
第六章 西の吸血鬼退治

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ゲルトルートの意志

「お前が手を引けば、こいつは返してやる。俺達が逃げるのを見逃せばいいだけだ。簡単な話だろう?」

「随分と捻りのない提案をしてくれるね」

「捻りなんて入れる必要ねぇだろ。こういうのはわかりやすい方がいいんだよ」

「それは一理あるね。とは言え、私は君達を許すつもりはないし、この場で皆殺しにするつもりだ」


 ヴィルヘルミナに交渉に応じる気は一切ない。ヘルムートはその様子に焦りを隠せない。


「俺が躊躇するとでも思ってるのか? 今すぐにでもこいつを殺せるんだぜ?」

「そうかい?」

「……今すぐこいつの心臓を突き刺してやってもいいんだぜ?」


 ヘルムートはヴェロニカの左脇腹にナイフを突き刺した。血は脚を伝って、地面に血溜まりを作った。ヴェロニカは弱々しく苦痛の声を漏らした。


「うっ……。ぐっ……」

「本当にいいのか? このままナイフを突き刺せば、こいつは死ぬんだろう?」

「それはそうかもしれないが……ヴェロニカ、今は脱出してくれるかい? 出口はすぐそこだ」


 ヴェロニカと洞窟の出口の間にあるのは、ヘルムートとその配下の吸血鬼二体だけである。


「……何を言ってやがる」

「それは……こういう、ことです……!」

「ッ!?」


 それは、ヘルムートにとって予想だにしないことだった。何が起こったか理解した頃には、彼の背中から幾本もの血の棘が突き出していた。言わずもがな、その血はヴェロニカの血である。


 唐突な攻撃に、ヘルムートは反射的にヴェロニカを突き飛ばした。何本もの棘が身体を貫き、ヴェロニカ相手だとしても戦える状況ではない。


「ヴェロニカ! 逃げるんだ!」

「はい……!」

「親分!?」


 ヴェロニカの動きは素早かった。洞窟の入口に立つ、まだ状況を掴めていない吸血鬼に向かって突進した。爪を伸ばし、片方の吸血鬼の首を突き刺して息の根を止め、そのまま洞窟の外へ転がり出た。


「せっかくの人質が……!」

「ヴェロニカに傷をつけたのが失敗だったね。ヴェロニカも私も、血を固めて武器を作ることができるんだ」

「クソッ。そんな力が……」

「さあ、どうする? 君達はもう詰んでいる。逃げ場はないよ?」

「クッ……」


 一本道の洞窟で、奥にはヴィルヘルミナ、外にはヘルヴェコナ伯ゲッツ率いる軍勢が控える。人質を失い逃げ場は皆無。完全な挟み撃ちである。


 戦況は、一気に好転した。


「ヴィルヘルミナ! こっちからも攻め込むか!?」


 ゲッツが洞窟の奥に向かって叫んだ。大声で叫べば意思疎通を図ることは可能だ。


「ああ! そうしよう! こいつら全員皆殺しだ!」

「おうよ! んじゃ、突撃!!」

「クソッ! 舐めるなよ!!」


 ヘルヴェコナ伯率いる騎士の突入が敢行される――まさにその時だった。


 突如として、ゲッツの目の前に割り込む人影があった。吸血鬼ゲルトルートであった。ゲルトルートはサーベルをヘルヴェコナ伯に向け、洞窟へ通す気はなさそうだ。


「おいおい、何のつもりだ、あんた?」

「お前達が介入する必要はない。ヴィルヘルミナと勝手に殺し合わせて、消耗しきったところを皆殺しにすればよかろう」

「挟み撃ちした方が効率的だろ」

「ヴィルヘルミナにはできる限り死んでもらう。奴の生命力を消費させる。それまでは手を出すな」

「なるほどねぇ……」


 ゲルトルートはヴィルヘルミナにもヘルムートにも死んでもらいたい。どちらかが圧倒的に勝つのは望んでいないのだ。それ故、戦闘不能になるまでヴィルヘルミナ一人に戦わせ、その後に残った吸血鬼を殺そうというのである。


「安心せよ。こいつらを討ち漏らすつもりはない」

「その言葉に嘘はないだろうがなぁ……」

「ヘルムートとやら、いいことを教えてやる。心臓から身体を再構成するのは体力を消耗する。奴を攻撃し続ければ、そのうち手足の再生も覚束無くなるであろう」

「ちょっと! 人の弱点を勝手に晒さないでもらえるかな!」

「何なんだ、お前は」

「ヴィルヘルミナを動けなくなるまで消耗させれば、褒美として楽に殺してやろう。それまでは私が背中を守ってやる。悪い話ではあるまい」

「……いいだろう。ただし、その時はお前を殺す」

「やってみるがよい」


 ヴィルヘルミナを倒したいという目的だけは、ゲルトルートもヘルムートも同じであった。それまでの間だけ、この二人は束の間の同盟を結んだのである。


「で? 私を倒してヴィルヘルミナを助けに向かうか?」


 ゲルトルートはヘルヴェコナ伯ゲッツに問いかける。


「あんたと敵対せずとも目的は果たせるが……さすがにヴィルヘルミナを見捨てるってのは、人の道を外れてるな」

「なれば、私と戦うか」

「ああ、そうさせてもらおうか!」


 ゲッツは銀の棘がついた棍棒をゲルトルートに叩きつけようとした。ゲルトルートはその棍棒をサーベルで受け止めた。細身の刀身であったが、強度は十分であり、全く折れる気配はない。


「ただの人間が、私に勝てると思ったか?」

「確かに、人間は同じ数じゃ吸血鬼に勝てねぇな」

「――正々堂々と戦おうとは思わんのか?」

「化け物相手に騎士道なんてねぇよ」

「卑怯者め」


 ゲッツの背中と洞窟の壁面との隙間に、弓兵が矢をねじ込んだ。銀メッキされた鏃がゲルトルートの心臓に迫る。

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