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不死身の元魔王ヴィルヘルミナ~吸血鬼は千年の戦場を見届ける~  作者: Takahiro
第六章 西の吸血鬼退治

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ヴィルヘルミナの固有魔法

 ヘルムートはヴィルヘルミナとヴェロニカを洞窟の入口まで運ばせた。入口のすぐ外にはヴィアドルス宮中伯とヘルヴェコナ伯の軍勢が待機しており、当然、敵が目の前にいることに気づいた。


「なんだなんだ? 降伏でもしに来たのか?」


 ヘルヴェコナ伯ゲッツはヘルムートを煽るように。


「んなわけねぇだろ。こいつはお前らが差し向けてきたんだろ?」


 ヘルムートはヴィルヘルミナを、日光が当たる寸前のところまで蹴り飛ばした。


「ヴィルヘルミナか? どうしちまったんだ」

「ごめんごめん。捕まっちゃったよ」

「こいつを利用して俺達を皆殺しにしようとしたんだろうが、そうはいかねぇ。そして今からこいつを殺す」

「日光に当てて殺すのか? ヴィルヘルミナ、お前それで死ぬのか?」

「この状態で日光に当たったら、跡形もなく消滅しちゃうね」

「だとよ。んじゃ、死んでもらおうか」

「あー、おい! 待て待て!」

「は?」


 ヘルムートがヴィルヘルミナを蹴ろうとすると、ゲッツが慌てて止めに入った。


「交渉しようとしてるのか?」

「ああ、そうだ。ヴィルヘルミナの命を握ってるんだ。お前達にとってもいい交渉ができるんじゃないか?」

「私の命をなんだと思ってるんだ」


 確かに、ヴィルヘルミナを人質にすれば、莫大な対価を得られる可能性はある。だが、ヘルムートは端からそんな選択肢に興味はなかった。


「交渉なんてする気はねぇよ。死ね」

「いッ……」


 腹を思いっきり蹴られ、洞窟の外に放り出された。次の瞬間、ヴィルヘルミナの全身が真っ黒の炭のようになり、そのまま灰となって、溶けるように消えてしまった。


「……ど、どうするのだ!? 吸血鬼が死んでしまったではないか!」


 宮中伯がヘルヴェコナ伯に問いかけるが、さすがの伯爵もこれには絶句していた。


「さあ……どうしましょうかね……」

「わ、我々だけでやるか? 洞窟で吸血鬼と戦うなど、あまりにも危険だと思うが……」

「その通りですな……。しっかし、殿下にどう報告すれば……」


 その時であった。沈黙を保っていた吸血鬼ゲルトルートが口を開いた。


「あの化け物は、この程度では死なん」

「俺には跡形もなくなったように見えるが?」

「奴は不死身だ。本当に、不死身なのだ……」


 ゲルトルートが忌々しげに言った。


 と、まさにその時であった。


 ○


「ただいま、吸血鬼諸君」

「は……?」


 ヘルムートの背後から――洞窟の奥の方から――女の声がした。聞き覚えのある挑発的な声だ。振り返り、その姿を目の当たりにして、吸血鬼たちは一瞬、自らの目を信じられなかった。ほんのわずかの間、誰も声が出ず、静寂が場を支配した。


「お前……どうなってる……」

「そ、そんなの、ありえねぇだろ!」


 ヘルムートは吸血鬼らしくもなく冷や汗をかいていた。完全に滅ぼしたはずの存在が平然と、自分の後ろに立っていたのだ。彼は無意識のうちにヴィルヘルミナから距離を取っていた。


「お、親分! どうなってるんすか!」

「俺が知ってるわけねぇだろ! クソッ……。転移の魔法……いや、確実に灰になった。まさか偽物だったのか……?」

「偽物か。いい線いってるね」


 ヴィルヘルミナは不敵な笑みを浮かべながら、吸血鬼たちに一歩近づく。


「でも偽物ってわけじゃない。さっき灰になったのも、確かに私だよ」

「じゃあ、どうなってやがる」


 ヴィルヘルミナはニヤリと微笑み、静かに言い放った。


「心臓さ」

「心臓……? 何を言ってる」

「私は心臓さえあれば、そこから再生できる。そして、心臓は予備を用意しておくこともできる。この洞窟にも一つ隠しておいたんだ。念のためにね」

「別の場所にある心臓から再生できる、か。ははっ、無法にもほどがあるだろ」


 心臓がどこかに残っている限り、そこから生き返ることができる。それがヴィルヘルミナの再生能力の真価であった。


「これが私の固有魔法――『命を弄ぶ魔法』だ」

「……化け物め。お前の方がよっぽど討伐されるべき化け物だ」

「そうは思わないな。私は罪のない人間を襲ったりはしない。化け物とは、その行為によって定義される存在だ」

「何言ってんだか分かんねぇが、知ったこっちゃねぇな」

「さあ、どうする? 私は絶対に殺せないよ? そして君達はここから逃げられない」

「確かにそうかもな。ただ……そんな魔法を使って何の代償もないんじゃ、さすがにおかしいだろ」

「鋭いね」


 ヴィルヘルミナは確かに死なないが、絶対に無敵というわけでもない。何度も再生を繰り返すと疲労が溜まり、再生に遅れが生じ、戦闘不能になる可能性もある。


「……しかし、お前と正面から殴り合うのは危険すぎる。こいつを使うとしよう」

「ヴェロニカ……!」


 ヘルムートは気絶しているヴェロニカを羽交い締めにすると、軽く頬を殴って目覚めさせた。


「どうなんだ? こいつもお前と同じく、何をしても死なないのか?」

「どうだろうね? そんなこと、どうして教えなきゃいけないんだい?」

「すぐさま襲いかかってこないなら、こいつは死ぬようだな」

「…………」


 まさに図星であった。ヴェロニカはまだ、ヴィルヘルミナのように不死身の極地に達しているわけではない。


「まだ吸血鬼に成り立てだから、生命力を十分に溜め込んでねぇってところか」

「……さあね」


 ――こいつ、無駄に賢い。


 この吸血鬼ヘルムート、そう簡単に死んでくれる相手ではないようだ。

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