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不死身の元魔王ヴィルヘルミナ~吸血鬼は千年の戦場を見届ける~  作者: Takahiro
第五章 南方旅行

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グダンツへの帰還

 復路で特に困難はなかった。ビュザンティオンの渡し船は東方正帝アレクシオスからの勅命によって即座に用意された。ビュザンティオンで暫く休んでいってはどうかとも提案されたが、ヴィルヘルミナは早く帰りたかったのでこれを謝絶した。


 グダンツを出発してウル・シャリムの大図書館に至り戻ってくるまで、往復およそ六千キロ、掛かったのはわずか四十六日であった。これは国家が管理する伝令の速度と同程度であり、普通の旅人の三倍は速く移動したことになる。


「――もう帰ってきたのですか、ヴィルヘルミナ殿。それにヴェロニカも」

「ああ、ただいま」


 馬車を呼んだりするのが面倒なので、ヴィルヘルミナはユニコーンに乗ったまま辺境伯の屋敷までやって来た。ヴェロニカは馬の上で寝ていた。すっかり馬上で寝るのにも慣れたものである。


「こんなに早く帰ってくるとは思いませんでした。相当な強行軍だったと思いますが」


 辺境伯アドルフは疲れた様子のヴェロニカを見ながら心配そうに言う。


「いやいや、そんなことはないよ。ユニコーンの足がめちゃくちゃ速いだけで、普通に昼間の間しか移動してない」

「左様でしたか……。それならいいのですが。それで、ヴェロニカをなんとかする手段は見つかりましたか?」

「いいや、特には見つからなかった。すまないね」


 ヴィルヘルミナは辺境伯に、ヴェロニカを治療する手段が二つしかないことを告げた。つまり十年以上かけてゆっくりと吸血鬼の血を取り除くか、いっそのこと吸血鬼にするかである。


「あそこに行って分からないということは……本当にそれしか手段がないのでしょうね」

「ああ、私もそう思う。エンヘドゥアンナ――大図書館の館長が知らないのなら、誰も知らないだろうね」

「大図書館にこの世の全ての本が集まっているとは言え、館長が自身の図書館の本を全て把握しているとは思えませんが」

「彼女と彼女の血族の吸血鬼は、頭の中を共有できるんだ。だから館長は全ての本の内容を把握している」

「なるほど。仮にそうでなくても、遥かな昔から生きる館長が知らないのであれば、望み薄ではあるでしょうね」


 辺境伯はまだ諦めたくないようだったが、彼の知性をもってしても、さすがにどうにもならない。


 ○


 さて、長旅の疲れが溜まっているということで、ヴェロニカは彼女の部屋で三日間ほど休んだ。帰ってきた日は丸一日寝ていたらしい。彼女の疲れが癒えてきた頃、ヴィルヘルミナとアドルフとヴェロニカは、ヴェロニカの今後について話すことにした。


 ヴェロニカのベッドの隣に椅子を並べ、彼女は横たわったままだ。


「まず私としては、今すぐにでもヴェロニカを吸血鬼にすることは可能だ。だが、私はヴェロニカを吸血鬼に勧誘するつもりはない。全てはヴェロニカの意思次第だ」

「私もヴェロニカの意思を尊重するつもりです。無論、何十年であっても生活は保証できます」

「君はどうだい、ヴェロニカ?」

「わ、私は……」

「まあ、そんなに急いで結論を出さなくてもいいよ」


 まさに人生の岐路である。この決断次第で彼女の人生はまるで別のものになるのだ。ヴィルヘルミナは慎重に考えて欲しいと思っていた。


 だが、ヴェロニカの結論は既に決まっていた。


「私は、吸血鬼に、なりたいです」


 ――そこまではっきり言うか……


「……それは、どうしてかな?」

「兄上に、迷惑を掛けたくないのです……。これから、最低でも十年も迷惑をかけるなら、吸血鬼になった方が、いいです」


 ――兄に似て、実に他利的だ。


「実際のところ、吸血鬼になったらどうなるんだい、辺境伯?」

「無論、我が家に置いておくことはできなくなります。公的には死んだことにせざるを得ないでしょう。勇者の家系というのは特に関係なく、吸血鬼を身内に置いておくことなど貴族には許されません。ヴェロニカは、それでもいいのか?」

「はい。地位など、必要ありません。それに、吸血鬼になれば、兄上の力になれます」

「おいおい、それで吸血鬼の力を戦争に使ったりしたら、怒るよ?」


 「殺すよ」とは言えないヴィルヘルミナであった。


「それは……どこまで許されるのでしょうか? 少なくとも、農業に力を使うのは、ヴィルヘルミナ様も認めていたはず、ですよね……?」

「はは、なかなか痛いところを突いてくるね。個別のケースごとに判断する――なんて誤魔化しは君達には通じないだろうから、はっきり言ってその時の気分次第だよ」


 果たしてどこからどこまでが吸血鬼の力の真っ当な使い方で、どこから先が人道に悖る使い方なのか。明確な基準はヴィルヘルミナにはない。具体的な状況を見て、叩き潰すかそうでないかを決めている。戦争を激化させる方向に力を使っていれば、ほとんど間違いなく叩き潰す対象に入るだろうが。


「そんなことより、本当に吸血鬼になっていいのかが問題じゃないかい?」

「これは、大事な問題です……。吸血鬼になって、兄上の力になれないのなら、意味がありません……」

「そんなことに人生の意味を求めるものじゃないと思うけど。でもまあ、相手が先にバカなことをしてきたのであれば、力をどう使おうが問題はないかな。辺境伯が邪法に手を出さない限り、私が君と敵対するようなことは起こらないと思うよ」

「それは、よかった、です……」


 どうやらヴェロニカの中で吸血鬼になるのは前提になっているようだ。それほどまでに、人に迷惑を掛けたくないという想いが強いらしい。

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