吸血鬼の起源について
ユニコーンに揺られる旅が再開してから二日。ヴェロニカはヴィルヘルミナが先日話していた『血族』について詳しく聞いてみることにした。
「――そうだねぇ、何から話そうかな」
「できるだけ、詳しく聞きたい、です……」
「わかった。まず、吸血鬼の繁殖手段は知っているかい?」
「吸血鬼が人間に、血を与えること、ですよね……?」
「ああ。この説明には一つ、明確におかしな点がある。なんだと思う?」
「な、なんでしょうか……」
「誰かを吸血鬼にした吸血鬼がいて、それを吸血鬼にした吸血鬼がいて、と遡っていくと、どうなる?」
「……無限後退、ですね」
「おお、そうそう」
――さすが、賢い。
もしも吸血鬼が、人間を吸血鬼にする以外で繁殖する方法がないのであれば、無限の過去から吸血鬼が存在するしかない。つまるところ、最初の一人はどうなっているのかという話である。
「つまり、少なくとも一人は、吸血鬼は他の吸血鬼から血を与えられる以外の方法で発生しなければならない」
「ですね……」
「であれば、どうなると思う?」
「理詰めで考えれば……自然に発生する、ということでしょうか?」
「そうそう。どういう条件なのか詳しくは分からないが、恐らく強い感情を人間が持った時、極稀に吸血鬼に変化する。他の誰の血にも頼らない、完全に独立した存在として」
「それが、複数いるのですね……。そして、それぞれに、特質が異なると……」
「その通り。その最初の吸血鬼を私は『血族の始祖』と呼んでいる。血族同士は、吸血鬼として共通する特性は持っているが、それ以外はまるで別の生き物だ」
歴史上、恐らく十数人の人間が自然に吸血鬼に変化した。これら『血族の始祖』が人間に血を与えることで、『血族』を構成する。そして同じ始祖に由来する吸血鬼たちは同じ固有魔法を共有するのだ。
「先日のアンナさんは、血族の始祖、なのですね?」
「ああ、間違いない。そして彼女の血族の固有魔法が、意思の伝達だ。辺境伯領を荒らしている連中の始祖が誰なのかはわからない」
「では……ヴィルヘルミナ様は、どうなのですか?」
「そう聞いてくると思ったよ」
「答えにくい、のですか……?」
「そうだね……どう説明したものか……」
ヴィルヘルミナは明らかに言い淀んでいた。
「こ、答えたくないのであれば、結構ですが……」
「いや、そこまでじゃない。私は血族の始祖ではないけど、それに限りなく近い存在といったところだ」
「な、なるほど……」
ヴィルヘルミナがそれ以上の詳細を語りたくなさそうだったので、ヴェロニカはこの話題を終わらせることにした。
「では、ヴィルヘルミナ様の固有魔法というのは、なんなのですか……?」
「聞いてないのかい? 私の固有魔法は心臓を破壊されても再生できる魔法だ。私の血族以外の吸血鬼は、心臓を破壊されたら確実に死ぬからね。エンヘドゥアンナも例外じゃない」
「吸血鬼の特性に、反する固有魔法……。それが、許されるのでしょうか……」
ヴェロニカはヴィルヘルミナの固有魔法に違和感を持った。固有魔法の例は二つしか知らないが、どちらも吸血鬼に共通する特性に何かを付け足すようなものであった。それに対し、ヴィルヘルミナの魔法は共通の特性そのものを否定している。
――思ったより鋭いな、この子は。
「そういう風に生まれてきたんだから、そんなことは知らないよ。どうして人が吸血鬼になるのかとか、根本的な原理については誰も知らないんだ」
「吸血鬼は、いつから現れるように、なったのでしょうか……。何千年も前から存在するのなら、吸血鬼が世界を支配していても、おかしくはなさそうですけど……」
「面白いことを言うね。確かに、もしも人類が誕生した時から吸血鬼が存在するなら、そうなっていてもおかしくない」
人類が吸血鬼に対抗できているのは、強力な武器を持っているからである。文明などができる前から吸血鬼が存在するのなら、彼らが人類の支配者として君臨していてもおかしくはない。
「どう、なのですか……?」
「確かに、歴史に吸血鬼が現れ始めるのは、帝国暦にして紀元前三千年頃からだ。何があったんだろうね」
「アンナさんも、ご存知ないのですか……?」
「彼女が生まれるよりも何百年も前だからね。さすがに知らないよ」
「そう、ですか……」
エンヘドゥアンナでも知らないとなると、いよいよ調べる手段はなさそうだ。ヴェロニカはガッカリした。
「それにしても、君は知的探究心に溢れているね」
「ま、まあ……。ここ数年、ずっと部屋にこもりきりで、楽しいことといえば、本を読んで知識を得ることだけ、でしたから……」
「そうか。本を読むのは素晴らしいことだけど、やっぱり自分の目で見ることの方が大事だ」
「それは……そう、ですね」
「吸血鬼になればそれも可能ではあるけど……いや、よくないな。私は人間の自由意志を尊重する。君が望むのならそうするし、望まないのなら何もしない」
――私はこの子を吸血鬼にしたい、のかもしれないな。本当によくない。




