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不死身の元魔王ヴィルヘルミナ~吸血鬼は千年の戦場を見届ける~  作者: Takahiro
第五章 南方旅行

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吸血鬼エンヘドゥアンナ

「して、汝の名前はなんぞ?」

「あ、失礼、しました……。私は、ポメレニア辺境伯アドルフの妹、ヴェロニカと、いいます……」

「なるほど。あの勇者の末裔か。そんな者が吸血鬼の血に悩まされているとは皮肉よ」

「――その、どうして、わかったのですか……?」

「我を何だと思っておるか。この馬鹿な吸血鬼より数倍長く生きておる」


 エンヘドゥアンナは一目見ただけでヴェロニカの状態を言い当てた。ヴィルヘルミナ以上の知識と経験を持っていることに疑いようがない。


「長く生きてるだけで大して成長してない奴に言われたくないね」

「は、はぁ……」


 エンヘドゥアンナがヴィルヘルミナより遥かに長く生きているのは事実だ。しかし両者の間の空気は険悪。ヴェロニカは何とかしたかったが、人間離れした言い争いに介入できる気がせず、黙るしかなかった。


「我のことはアンナと呼んでくれて良いぞ」

「そ、それで、いいんですか……」

「うむ。意味合いとしてもそれほどおかしくはなし」

「わかり、ました……」


 古代人の名前は大体が短文のようになっているので、区切るのは容易い。


「それで……私はどうやら、ヴィルヘルミナ様曰く、体内に吸血鬼の血が微量に混じり、常に身体を冒されている状態、だそうです。実際……およそ七年間、ほとんどベッドの上で過ごしていました」

「なるほど。立てるか?」

「立ては、しますが……。歩いたりは……」


 ヴェロニカは立ち上がってみせるが、ただ直立しているだけでふらつき、今にも倒れてしまいそうである。


「なかなか重症であるな」

「そう、なんでしょうか……」


 ヴェロニカは椅子に戻った。


「これは……どうにかできるの、でしょうか……?」

「先例はある。この状態を治すには血を抜く他になし。体内から吸血鬼の血がなくなるまで血を抜き続ければ治ることは確かめておるが、汝の場合は特に体力が衰えておる。少なくとも十年は掛かるであろう」

「それは困ったね。不可能ってほどじゃないけど」

「他に、手段はないのでしょうか……」

「汝は相当恵まれた貴族の生まれであろう。十年くらいベッドの上にいればよいのではないか?」


 農民や下級貴族であれば、動けない人間を養っている余裕はないかもしれない。だがポメレニア辺境伯は非常に豊かな貴族であり、ヴェロニカ一人を一生養うことも十分に可能である。エンヘドゥアンナは十年かかってもよいのではないかと提案した。


 しかし、ヴェロニカの気には召さなかったようだ。


「わ、私は……人に頼りきりなんて、嫌です」

「別に悪いことではなかろう。人とは誰でも相互に依存して生きるものであろうに」

「それは、そうかもしれませんが……。でも、私からは、何もできないのです……。それは、相互に依存、ではありません」

「なるほど。であれば、動けるようになる手段は一つしかなし」

「それは……?」


 エンヘドゥアンナは一瞬だけ言葉が詰まった。が、意を決して言い放った。


「吸血鬼になってしまえばよい」


 血を取り除けないのなら、もっと血を注いで吸血鬼にしてしまえばよい。そうすれば自由に動けるどころか、人間離れした怪力まで得られる。


「そ、それ、は……」

「無論、ポメレニア辺境伯がそれを許すとは、到底思えぬがな。否、左様なものは要らぬな。汝の生き方は汝自身で決めるべきであろう。兄の命令に従うもまた、生き方の一つではあろうがな」

「……わかり、ました」

「随分とご丁寧な対応だね」

「我はいつも求める者に与えるまで。して、どうするつもりだ?」

「わ、私は……吸血鬼になる方が、いいのかもしれません」


 ――まあ、君ならそう言うと思ったけど。


「ちゃんと考えてから決めるべきだ。辺境伯領に戻ってから考えよう」

「ヴィルヘルミナ、汝がヴェロニカを吸血鬼にする気か?」

「吸血鬼にすると決まったらね。君の眷属にはしたくない」

「我も同胞は要らぬ。好きにせよ」

「じゃあ行くよ、ヴェロニカ」

「は、はい……」


 ヴェロニカはよろめきながらもエンヘドゥアンナに一礼し、ヴィルヘルミナに連れ去られるように大図書館を出た。ユニコーンに乗り、グダンツに向かう旅を始める。


「ヴィルヘルミナ様……。アンナさんとは、仲が悪いのですか……?」


 あまり聞かない方がいいとは思いつつ、ヴェロニカは好奇心を抑えきれなかった。とは言え、ヴィルヘルミナはそれほど感情的になっているわけではない。


「昔、ちょっと迷惑をかけてね。まあなんだかんだ言って手は貸してくれるし、悪い奴じゃないよ」

「では、私をアンナさんの眷属にしたくないと仰ったのは……」

「エンヘドゥアンナの血で吸血鬼になった連中は、お互いの頭の中が覗けるんだ。気持ち悪いだろう?」

「誰の血をもらうかで……吸血鬼の力が異なるのですか?」

「もちろんだとも。私はそういうのを吸血鬼の固有魔法と呼び、それを共有する集団を血族と呼んでいる。辺境伯領で暴れている連中は、霧になる魔法を持つ血族と言ったところかな」

「なるほど……」


 ヴィルヘルミナの説明には色々と欠けているところがある。ヴェロニカはもっと質問したいとも思ったが、思いのほか疲れていたため、馬の上で寝ることにした。

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