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不死身の元魔王ヴィルヘルミナ~吸血鬼は千年の戦場を見届ける~  作者: Takahiro
第四章 北方戦争の終幕

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ドラゴン退治Ⅱ

 ヴィルヘルミナはとりあえず、周辺の兵士に命じてドラゴンを攻撃させた。連装対空弩砲、対空投石機による攻撃を全力で行ったが、ドラゴンには全く効かず、今度は興味すら示さなかった。ドラゴンはヴィルヘルミナたちの頭上を低空で旋回し、様子を見ている。


「ドラゴンの自然な行動とは思えない。エルフはあれを相当よく飼い慣らしてるみたいだね」

「そうなんですかね? あんなデカいドラゴンなぞ、見たことありませんもので」

「うん。全ての敵を視界に入り次第粉砕するのがドラゴンってものだ」


 ヴィルヘルミナは、エルフがドラゴンの一挙手一投足を制御できている可能性が高いと判断した。それはつまり、挑発が通じないということだ。


「ど、どうするんで?」

「うーん……。困ったね。私は空は飛べないから、高度を落としてくれないとどうしようもない」

「奴も困ってるんですかねえ」

「それもそうだね。下手に近寄ったら殺されるかもしれないとは思ってくれてるみたいだ」


 ――別に全然いいことじゃないんだけど。


 状況はすっかり千日手に陥ってしまった。ドラゴンが上空を飛び回っている限り、こちらからは手の出しようがない。


 ――いや、待てよ。空を飛べないとは限らないじゃないか。


 ヴィルヘルミナはふと、あることを思いついた。


「投石機で私を投げてくれるかい?」

「は、はい?? いやいや、そんな馬鹿な」

「無理なのかい?」

「べ、別に、そんなことはありませんけど……」

「しくじっても私は死なないんだ。気にせずやってくれたまえ」

「……は、はい!」


 投石機で自分を投げてもらえばよい。それがヴィルヘルミナの結論であった。ヴィルヘルミナは対空炸裂弾を一個だけ抱え、投石機に乗り込んだ。


「い、いきますよ!」

「ああ。いつでもいいよ」

「は、発射!」


 投石機にぶん投げられるのは、ヴィルヘルミナの長い人生でもさすがに初めての経験である。とんでもない加速度で骨が何本か折れたが、特に問題はない。


 ヴィルヘルミナはドラゴンに向かって射出され、見事に命中。ドラゴンに取り付くことに成功した。不快を感じたドラゴンは激しく旋回し、ヴィルヘルミナを振り落とそうとするが、鱗にしっかり掴まっていれば落ちることはない。


「さて……。これで終わりにしようか」


 腹の辺りに取り付いたヴィルヘルミナは、鱗を伝ってゆっくり口の方に近づいていく。あっさりと顔に到達し、砲丸を口の中に投げ込もうとしたのだが、まさにその瞬間、ドラゴンが一回転した。


「あ――しまった」


 ヴィルヘルミナはせっかくの砲丸を落としてしまった。


 ――一度地上に戻るか? いや、別にその必要はないか。


 ドラゴンを操るエルフが二度も同じ手に引っかかる可能性は低い。一度地上に戻ってしまえば、再びドラゴンに取り付けるとは限らない。であれば、対空炸裂弾なしでドラゴンを仕留めるしかない。


「非常に嫌だけど……仕方ないか」


 ヴィルヘルミナはドラゴンの口のすぐ下に張り付いている。まずは槍を作り出し、鱗の隙間から下顎に突き刺す。なかなか効いたのか、ドラゴンは呻き声を上げて口を開いた。


「しめたッ!」


 ヴィルヘルミナはその隙に、ドラゴンの口の中に飛び込んだ。全身が入る前にドラゴンが口を閉じ、下半身が噛み切られた。


 ――さすがに、連続でここまで損傷するのはキツいな……


 上半身だけになったヴィルヘルミナは、自身が疲労しているのを感じていた。全身を黒焦げにされた時の負担が残っているようだ。下半身の再生が遅れる。


 ――まあいいか。下半身くらい、なくてもいい。


 左手に槍を作り出してドラゴンの口内に突き刺し、身体を固定する。ドラゴンはヴィルヘルミナを舌で押し出そうとするが、槍で固定されたヴィルヘルミナは何とか耐える。


「君にも死んでもらうよ」


 続いて、右手に戦斧を作り出した。だが、ドラゴンは次の手を打とうとしていた。


 ――炎か。


 ドラゴンの喉の奥から光が漏れ出した。このままだと黒焦げにされ、さすがに耐えきれない。


「間に合え!」


 すんでのところで右足だけ再生が間に合い、踏ん張れるようになった。大斧をドラゴンの舌に向かって振り下ろし、叩き切る。たちまち大量の血が溢れ出し、同時にドラゴンが急速に落下していくのを感じた。


 ドラゴンはすぐに墜落した。息絶えたドラゴンの口の中から、血やその他体液でずぶ濡れになったヴィルヘルミナが出てきた。あまりにも酷い有様に、兵士たちは固まってしまった。


「ご、ご無事でしたか……」

「私は無事に決まってる。こいつの舌を斬り落としたんだ。吸血鬼としては、貴重なドラゴンの血を吸えて幸運だったよ」

「は、はぁ……」

「でも全身ずぶ濡れなのは最悪だ。一度全身の皮を剥いで洗いたいよ。ああ、洗わなくても再生すればいいだけか」


 ヴィルヘルミナは少なくともここ百年で一番最悪の気分であった。頭を吹き飛ばされても身体を粉々にされてもどうということはないが、汚れを即座に消し去る魔法は持ち合わせていない。


「ほ、本気で、言ってるので……?」

「ああ。ちょっと全身の皮を剥いでくる。ついてこない方がいいと思うよ」

「は、はは……」


 ヴィルヘルミナは人目につかないところまで行って、さほど時間もかからず戻ってきた。戻ってきた彼女には汚れ一つなかった。


「ほ、本当に、皮を剥いできたんで……?」

「さあ、どうだろうね。ご想像にお任せするよ」

「想像はしたくないですね……」

「賢明な判断だ。それにしても、さすがに疲れたよ。ここまで連続で身体を粉々にされるのは久しぶりだ。私は寝る」


 とにもかくにも、ヴィルヘルミナは二体の成体のドラゴンを討伐することに成功したのである。


 それと同時に、辺境伯軍はドラゴンを操っていたエルフを一人拘束することに成功した。最後に殺したドラゴンに乗っていたエルフは墜落の衝撃で死んでしまっていた。

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