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不滅の元魔王ヴィルヘルミナ~討伐されたはずの吸血鬼のやり直し戦記~  作者: Takahiro
第四章 フロレンティアの戦い

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止めの一手

 ラエティア大公はようやく重い腰を上げ、騎乗して前線から兵を指揮していた。


「騎士を正面に立て、堀を越えて攻め込め。敵の抵抗など恐るるに足りん」


 全く覇気がないが、ラエティア大公は非常に積極的な命令を下した。


 大公が後ろから見守る中、三千の軍勢は一気に攻めかかる。ランゴバルド軍は当然魔導弩などで反撃してくるが、その射撃は疎らであり、騎士たちが持つ盾などで十分防げた。堀を乗り越え、乱戦に突入する。


「既に均衡を保っていたところ、我々が加われば、局所的に崩れるのは明らかだな」

「はっ」

「皇帝軍と我々だけが敵陣に攻め込んだとなれば、我々の価値は大いに示せた。この名声は、後々役に立つだろう」

「はい。ポメレニア辺境伯とフランク公だけの手柄とは思われますまい」

「目的は果たした。後は放っておけば、あの連中が勝手に勝つであろう」


 ラエティア大公に、ポメレニア辺境伯らの作戦に積極的に貢献する気は毛頭なかった。あくまで自家の存在感を示せれば、それでよいのである。


 ○


「これで大方の諸侯が動いてくれました。ラエティア大公は思ったより積極的に動いてくださっています」


 ポメレニア辺境伯とフランク公は状況を確認し合っていた。


「ラエティア大公の場合は、単に手柄が欲しいだけであろう」

「だとしても、敵を引きつけてくださるのは大変助かります」

「まあな」

「条件は整いました。そろそろこの戦いを終わらせるとしましょう。敵の中央を突破します。問題ありませんよね、殿下?」

「もちろんだ」


 フランク公は馬を少し前に進め、高らかに宣言する。


「これより敵の中央を突破し、これを分断する! この一撃でランゴバルド軍を壊滅せよ!」


 その命令は直ちに諸将や諸侯に魔導通信で伝達され、ランゴバルド軍中央部に対する猛攻が開始された。


 ○


「陛下! 敵が中央に攻め込んできております!!」

「敵の吸血鬼は依然健在……。最早、耐えられませんかと……」


 衝突は勢いを増し、主にポメレニア辺境伯軍とフランク公軍で構成される五千ばかりの軍勢が雲霞のごとく突撃し、ランゴバルド軍を急速に押し込んでいた。


 兵は先を争って前に進み、ランゴバルド軍は陣形を維持できず、弓なりになって辛うじて抗戦を続けていた。だが、それが寸断されるのも時間の問題だろう。敵兵の叫び声がランゴバルド王アストルフォに近づいてきている。


「な、何故だ……。どうしてこんなことに……。敵は統制が取れていないのではなかったのか!?」

「敵の統制は依然として取れておりません。中央の部隊を除き、バラバラに攻め込んでいるだけと見受けられます」

「しかし、そうであってもこちらの兵力を拘束されることに変わりはありません。中央を支える余力は、残されておりませぬ」

「ど、どうすればよいのだ……」

「逃げる他にありません。敵が我が軍を分断すれば、我々は全滅です! そうなる前に逃げるのです!」


 せっかく北方帝領の諸侯を一網打尽にできる好機だと思ったのに、いつの間にか自分たちの方が殲滅されそうになっていた。


「そ、そうだな……。それしか、あるまい……。全軍……撤退するのだ!」


 ランゴバルド王アストルフォは歯ぎしりしながら命じた。


「皇帝なき諸侯の寄せ集めなど、勝てるはずだったのに……」

「陛下、逃げるのなら殿軍が必要です」


 ヤヌア公ロレンツォは言った。


「あ、ああ、そうだろうな……」

「ここは私にお任せを。全滅してでも敵を食い止めてみせます」

「す、すまない……。余が不甲斐ないばかりに……」


 ランゴバルド軍は撤退を開始した。ランゴバルド軍が逃げ始めると、北方帝領の諸侯は先を争って追撃を始めた。古今東西、最も多くの兵が死ぬのは撤退戦と追撃戦であると相場が決まっている。


 ○


「どうやら、ランゴバルド軍は負けたみたいだね」


 ヴィルヘルミナとジルベールは殺し合いを続けていた。ジルベールの動きは明らかに鈍っており、ヴィルヘルミナが優勢なのは誰の目にも明らかであった。


「俺には関係のないことだ」

「そうは言っても、ここに残ってたら君はただの野良の吸血鬼だ。あの数の軍隊相手に勝てるとでも思っているのかい?」

「無理だろうな」

「おや、あっさりと認めるね」

「俺は人間と殺し合うつもりはないし、ランゴバルド王には忠誠を誓ってすらいない。吸血鬼を一匹も殺せなかったのは残念極まりないが、ここは退くとしよう」

「そうかい。私も君をここで殺しておきたかったが、残念だよ」


 ジルベールの心臓の守りは堅い。それすら崩れるほど消耗させるのは困難だろう。


「いつか必ず殺す。吸血鬼にとって、時間はいくらでもある」

「楽しみにしているよ。できれば早めに来て欲しいね」


 特に人間に危害を加えていない吸血鬼でも、ジルベールにとっては殺す対象だ。それよりはヴィルヘルミナに襲い掛かってきてくれた方が良い。


 ――今はあいつを追いかけている暇はない。できるだけ死人が減るよう立ち回ろう。


 やがて、ジルベールはランゴバルド軍に紛れて姿を消した。ランゴバルド軍を手助けするつもりは全くないようであった。

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