ジルベールの弱点
「その力、万能すぎない? 弱点とかないのかい?」
「わざわざ弱点を教えると思っているのか?」
「だって、弱点が全くなかったら殺し合いが楽しくないじゃないか」
ヴィルヘルミナがふざけた調子で言うと、ジルベールの逆鱗に触れたらしい。
「……やはり貴様も、人殺しを楽しむ外道か。必ずここで殺しきる」
「そういう風に取られるのは心外だな。戦場に立っている者に容赦はしないが、罪のない人間を殺したりはしない」
「信じられるか!」
ジルベールはヴィルヘルミナに斬り込んだ。ヴィルヘルミナも斧で応戦するが、ジルベールは左腕の盾で受け止めつつ懐に潜り込み、ヴィルヘルミナの心臓へ右腕を突き立てた。
「だから、無駄だって言ってるだろう」
「黙れ」
心臓に突き刺した刃をそのまま右に動かし、ヴィルヘルミナの胸部を切断する。胴を半ば真っ二つにする一撃であったが、しかしヴィルヘルミナの肉体はすぐさま再生する。裂けた肉は速やかにくっつき、傷の一つも残らない。
「忌々しい……」
「それはどうも」
ジルベールはまたしても飛び退き、距離を取る。彼の両腕は普通の人間の形に戻っていた。
――そう言えば、毎度わざわざ腕を元に戻しているな。そうせざるを得ないのであれば……
「君、腕を武器に変えた状態を長く維持できないんじゃないかい?」
「どうしてそう思う?」
「だって、戦いの最中にわざわざ元に戻すのは意味がわからない。わざわざ隙を晒しているだけだからね」
「戦い慣れしているな。だが、それがどうした? お前が矢を放ってからでも変形できる」
「まあねぇ」
ヴィルヘルミナがすぐ目の前から矢を放っても、ジルベールはその矢が届く前に左腕を盾に変え、矢を防いだ。その反応速度は吸血鬼であっても追随を許さない。
――確かに、だからどうしたって話ではある。ここはやはり、策を切り替えるべきか。
「ヴェロニカ、私がこいつを足止めしておくから、君は敵の兵士を殺して回ってくれないかい?」
「わ、私ですか!?」
「ああ。私が血をたくさんあげたんだ。君ならできるよ。それとも、ただの人間は殺したくないかい?」
「戦争である以上、人を殺すこと自体は躊躇いません。しかし、ヴィルヘルミナ様ほど上手くやれるかは……」
「上手くやれるよ。シルヴァもいるしね。当然、手伝ってくれるだろう?」
「……まあ、ここで負けるのは困るから」
「だそうだ。じゃあ頑張ってくれ」
相手はただの人間だ。ヴィルヘルミナでなくとも、荒らして回ることは可能なはず。ヴィルヘルミナが相手にするべきはジルベールの方である。ヴェロニカは顔を青くしながらも、ランゴバルド軍の中に突っ込んでいった。
「話は終わったか?」
「ああ。けどいいのかい? ヴェロニカを止めないと、君達は負けるよ?」
「俺は戦争など興味はない。ただ吸血鬼を殺すだけだ」
「ブルグントに雇われてるんだろう?」
「契約条件は吸血鬼を殺すことだけだ」
「変な奴だねぇ。まあ、こうして私を足止めできている以上、間違ってはいないか」
相手が吸血鬼を出してきた時の対抗手段として吸血鬼を雇うのは、実に合理的なやり方だ。倫理的に非難されることもなく、戦力としても役に立つ。ヴィルヘルミナとしても、ジルベールの性格がもっとまともであれば、手放しで称賛するところであった。
「さて、殺し合いを再開しようか。お待ちいただき感謝するよ!」
「また斧か」
ヴィルヘルミナは再び大斧を叩きつける。ジルベールはすぐさま右腕を剣に、左腕を盾に変形させ、真正面から振り下ろされる斧を受け止めた。ヴィルヘルミナが一旦下がると、ジルベールは腕を元に戻した。
「まだまだ!」
「無駄なことを」
ヴィルヘルミナは数度にわたって攻撃を仕掛けた。ジルベールはことごとく完封したが、彼の動きにわずかな変化が出てきたのを、ヴィルヘルミナは見逃さなかった。
「君、腕を溶かすのが遅くなってきてるよ?」
これまで目にも留まらぬ速さで腕を変形させていたが、いつの間にか人の目でも追える程度になっていた。
「……」
「図星か。力を使い続けると疲労するのは、やはり吸血鬼に普遍的な現象のようだね」
腕を溶かして血の武器にするのは、それなりに体力を消耗するようだ。いつか限界が訪れるだろう。
「お前こそ、いつまで再生できるんだ?」
「確かに私も再生に限界はあるが、君みたいに綺麗に心臓だけ貫いてくれると体力の消耗は少ない。何より、君は攻撃を受け止めるだけで体力を消耗するのに対し、私は傷を負わなければいい。どちらが先に斃れるかは、言うまでもないだろう?」
「…………」
ジルベールは忌々しげにヴィルヘルミナを睨みつける。ヴィルヘルミナの指摘を認めざるを得ないようだ。
「ならば、今日はあのヴェロニカとかいう奴を殺そう」
「それは許さないよ? 私を殺せたら先に行くといい」
「貴様……」
立場が逆転した。ヴィルヘルミナはジルベールを足止めすればいいのである。ジルベールは苛立ちを隠せなかった。




