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不滅の元魔王ヴィルヘルミナ~討伐されたはずの吸血鬼のやり直し戦記~  作者: Takahiro
第四章 フロレンティアの戦い

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身体を溶かす魔法

「君はどうして吸血鬼を殺したいのかな? まさか家族が殺されたとかそんな理由じゃないよね?」

「そうだが、何が悪い」

「……はぁ。まったく、その手合いか」


 ――よくいるつまらない奴だ。


 家族を吸血鬼に殺されたから吸血鬼を殺すことに精を出している――そんな人間は、この千年の時の中で数え切れないほど見てきた。まあ吸血鬼がそんなことを言っているのは非常に珍しいが。


「じゃあ君は、家族を殺した相手が人間だったら、人間を皆殺しにしようとするのかい?」


 ヴィルヘルミナは説教するような口調で言った。大抵の相手は、こう言われると言い返せず黙り込む。だがジルベールの反応は予想外のものであった。


「当然だ。もしもそうであったなら、俺は人間を皆殺しにしようとしていただろう」

「驚いた……。本気で言ってるのかい?」

「本気ではないと思うか?」


 その深淵を映したような目は、冗談を言うような人間には――もちろん吸血鬼にも――できないだろう。


「筋金入りってわけだ。まあ、それならもっと吸血鬼のことを勉強した方がいいと思うけどね」

「殺すだけの相手など、知る必要はない」

「それは愚かだ。そんなんじゃ、私を殺すことはできないよ」

「ならば、まずは後ろにいる方から殺そう」

「ヒッ……」


 ジルベールはヴェロニカに視線を移すと、彼女に向かって跳ねた。ヴィルヘルミナを飛び越え、一撃でヴェロニカの息の根を止めようとしている。


「ヴェロニカ!!」


 だが、その一撃は防がれた。ヴェロニカに背負われているシルヴァが、その目の前に巨大な氷の塊を作り出したのである。ジルベールの右腕も、岩のような氷に突き刺さりこそすれ、打ち砕くことはできなかった。


「あ、ありがとうございます……」

「巻き添えで死にたくないからね」


 ジルベールは一旦下がり、ヴィルヘルミナはヴェロニカとシルヴァを守るように立ちはだかった。


「君はおいたが過ぎる。ここで殺させてもらうよ」


 ヴェロニカを攻撃しようとしたことへの怒りを込めて、ヴィルヘルミナは手元に弓矢を作り出し、容赦なくジルベールの心臓に向けて矢を放った。


 だが、その矢も防がれた。ジルベールの左腕が盾のように変形し、ヴィルヘルミナの矢を弾いたのである。


「ははっ。便利だね。剣にも盾にもできるのか」

「吸血鬼を殺すには便利な固有魔法だ」


 ヴィルヘルミナは何度か矢を撃ち込んでみたが、ジルベールは逃げも隠れもせず、そして矢が左腕に当たっても微動だにしない。まるで鋼鉄の塊に矢を放っているかのようであった。


「これほどの強度とは。驚いた」


 ――早く排除しないといけないんだが、困ったな。


 早くランゴバルド軍を荒らしに戻りたいのだが、吸血鬼を殺すこと自体が目的のジルベールに帰ってもらうのは期待できない。しかし彼の防御力は本物だ。


「なら……こうしようか」

「斧か。芸がない」


 ヴィルヘルミナは自身の身体より大きな斧を作り出し、ジルベールに思いっきり斬りかかった。いや、斬るというより叩きつけると表現した方がいいだろう。だが、それほどの重量の攻撃を受けてもなお、ジルベールの両腕は砕けない。


「さすがに両腕を使わないと耐えられないようだね」

「お前の手は空いているのか?」

「血族の始祖としては、私はあまり力が強い方じゃないからね」


 ヴィルヘルミナもジルベールも両腕を束縛されている。膂力は概ね拮抗しており、双方共に打つ手なしと言うべき状況であった。


「とは言え、君は一度心臓を貫かれれば死ぬのに対し、私は心臓をいくら抉り取られても死なないのだから、そのうち負けるのは君の方だと思わないかい?」

「殺せるというなら、やってみるといい」

「そんなに調子に乗って、後悔しないことだ」

「ッ……」


 ヴィルヘルミナが採った手段は至って単純。ジルベールの心臓を蹴りつけたのである。もちろん体勢は崩れ、斧はジルベールに押し返されるが、心臓に一撃食らわせれば勝ちなのだ。


 ――あまり美しい勝ち方じゃないが――ん?


 ヴィルヘルミナの足先に伝わってきたのは奇妙な感覚。まるで石の壁を蹴りつけたかのようであった。


 ――鎧でも着こんでるのか? そうは見えないけど。


「吸血鬼らしく小賢しいやり方だな」

「そりゃどうも」


 ヴィルヘルミナは一旦距離を取った。


「君はいい鎧を着ているね。どこで買ったんだい?」

「鎧など着ていない。心臓の周囲を硬化させただけだ」

「へぇ。腕に限らずどこでも溶かせるのか」


 ――本当に面倒な固有魔法だな……。まあ私に言えたことではないか。


 全身のどこでも、矢が通じないほど硬化させることができる。その防御力は一級品。相手の意識の外から心臓を一撃で射貫くのでもなければ、殺すのは困難だ。


 ――さて、どうする……。こいつの弱点でも探るか、それとも別の作戦に切り替えるか。


 敵も味方もヴィルヘルミナとジルベールの戦いを恐れ、彼女の周辺は兵士の空白地帯になっていた。しかし、そう言っている間にも戦況は刻一刻と進展し、兵らの叫び声や剣を打ち合う音が響き渡っている。

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