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不滅の元魔王ヴィルヘルミナ~討伐されたはずの吸血鬼のやり直し戦記~  作者: Takahiro
第四章 フロレンティアの戦い

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吸血鬼ジルベール

「な、何だ、あれは……!?」

「氷の槍、でしょうか……」

「吸血鬼にそんな力があるのか!?」

「さ、さあ……しかし、あれは……」


 アストルフォ王の目に映ったのは、戦場に次々と氷の槍が生えている異常な光景。しかもそれらの一つ一つに丁寧に死体が串刺しにされており、まるで悪魔が通りかかったかのようである。


「吸血鬼にあのような力があるなど聞いたことがありません」


 ヤヌア侯は吸血鬼の仕業だとは思っていなかったが、だからと言って敵の正体がわかるわけでもない。


「し、しかし……あれが生えているのは、あの吸血鬼が暴れ回っているところではないか!」

「それはそうですが……」

「陛下! 前線の兵があの氷を恐れております! このままでは総崩れになってしまいます!」

「そ、それも無理はないか……。あれを、何とかしなければ……」


 自分もあのように串刺しにされて無残な死を迎えるのかもしれないという恐れは、周辺の兵士に急速に広がっていた。実際、ヴィルヘルミナのすぐ近くでは前線を突破され、何とか予備隊で穴を塞いでいる状態である。


「と、とにかく、あの吸血鬼を排除するのだ……!」

「しかし、相手は不死身と言う他ありませぬ! 何をしても死なず、全く太刀打ちできません!」

「か、かくなる上は……ブルグント王からの援軍に、頼る他ないか……」

「この際は、仕方ありませんかと」


 アストルフォ王は声を震わせながら、一人の男を呼びつけた。ヴィルヘルミナと似た、病的に白い肌と不気味な赤い眼をした男――その眼は光というものを持っておらず、どこまでも深い闇のようであった。


「ジルベール殿……。貴殿に助太刀を頼みたい。前線で暴れ回っている吸血鬼を討伐して欲しいのだ」

「吸血鬼を殺すのであれば、喜んで」

「あ、ああ、頼んだぞ……」


 その男――吸血鬼ジルベールはアストルフォ王の命令を受けると、直ちにヴィルヘルミナを殺しに向かった。


 ○


 ――ん? 吸血鬼の気配……近づいてきている。


 ヴィルヘルミナはその気配を察知し、すぐさまヴェロニカとシルヴァに警戒を促した。


「わ、私も、気配がします……」

「吸血鬼同士なら相手を探知できるのか。魔力の気配は全くないけど」

「さて、どんな奴かな」


 ――相手に文句を言えないのは少々癪だが。


 本当なら吸血鬼の軍事利用など認めたくないが、やむを得ずとは言えヴィルヘルミナ自身が戦争に加担してしまっている以上、ランゴバルド王が吸血鬼を投入したことを非難はできない。とは言え、それならそれで対等な立場で殺し合いができるというものだ。


 ――楽しみ……なんて思うべきじゃないな。


 来る戦いに胸を躍らせていることは、ヴェロニカに悟られないよう表には出さない。あくまで淡々と、その吸血鬼と向かい合った。その吸血鬼は死んだ魚のような目でヴィルヘルミナを見据えていた。


 ――強い力だ。始祖か、それにほとんど等しい力だな。


「君はランゴバルド王に雇われているのかい?」

「俺の雇い主はブルグント王だ」

「なるほど。ランゴバルドが裏切ったのは、後ろにブルグントがいるからか」

「そんなこと、俺にはどうでもいいことだ。俺は吸血鬼を皆殺しにするためにいる」

「ほう。吸血鬼のクセに吸血鬼を殺すって? 何を考えているんだい?」

「ここで死ぬお前に、話すことはない」

「ッ……」


 吸血鬼ジルベールはヴィルヘルミナに向かって突進してきた。武器は何一つとして持っていない。


「舐められたものだね」


 ヴィルヘルミナは剣を作り出す。吸血鬼相手には取り回しのいい武器の方が好ましい。だが、ジルベールには怯む様子も武器を作る様子もない。


 ――まさか、殴りかかってくるとでも?


 ジルベールに武器を作る様子は最後までなかった。だが、彼の武器はそれ以外に存在した。


 ――腕が溶け――武器になった……!?


 彼の右腕が液状に溶解したかと思うと、次の瞬間には分厚い刃のような形状へと変化していた。血でできた刀身である。


「それが君の固有魔法か!」


 ジルベールが剣と化した右腕で斬りかかる。ヴィルヘルミナは剣で受け止めようとしたが、その剣はまるで砂のように砕け、ヴィルヘルミナの胸から脇腹にかけて肉が抉り取られた。


「ヴィルヘルミナ様ッ!」

「こんなの、何でもないよ」


 この程度の傷であれば、動きに影響も出さず再生することができる。


「高位の吸血鬼か。ならば、確実に仕留めよう」

「やってみるといい」


 ジルベールはヴィルヘルミナを睨みつけながら、身体を低くしたかと思うと、矢のような勢いでヴィルヘルミナに飛びかかった。ヴィルヘルミナは両手の爪を伸ばして受け止めたが、ジルベールはその右腕で粉砕し、ヴィルヘルミナの心臓を貫いた。


 だが、ヴィルヘルミナはその程度では死なない。


「ははっ。それで殺せると思っているなら、ちゃんと私を調べておくべきだったね」

「ッ……」


 ジルベールはわずかに目を見開き、ヴィルヘルミナから飛び退き距離を取った。


 ――さて、どうするべきか……


 戦いは続いている。ヴィルヘルミナが敵陣を荒らし続けなければ、決定的な勝利を得ることは難しいだろう。そして目の前の吸血鬼はとても無視できる相手ではない。

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