第92話 整理は完了した
王都統合作戦室。
投影された戦域図から、赤い進軍線がゆっくりと後退する。
「帝国軍、大規模侵攻作戦は停止」
「アストラム撃破確認後、部隊再編のため後退」
消えたわけではない。
引いただけだ。
「赤鬼部隊、壊滅確認」
室内がわずかに揺れる。
だが次の報告が冷たく落ちる。
「帝国通常軍、戦力七割保持」
「再侵攻能力あり」
歓声はない。
勝利でもない。
延命。
それだけだ。
フィーナは立ったまま地図を見つめる。
レイは壁際。
静かに。
戦争は終わっていない。
むしろ、深くなった。
⸻
夜。
REV倉庫。
オルクシアの前に、レイは一人立っている。
赤い機体の最後の瞬間が浮かぶ。
あの一瞬。
確かに止まった。
100%のはずだった。
完全接続。
揺れはないはず。
迷わない。
なのに。
止まった。
なぜ。
「……ルク」
答えはない。
残響もない。
それが、重い。
⸻
帝国中央審議室。
重い空気。
アインス・クラウスは拘束されたまま座っている。
「ネスト・アーヴィン殺害」
「ミーファ・メネス殺害」
「Ωシステムの無許可拡張」
淡々と読み上げられる。
アインスは小さく笑う。
「彼は到達した」
誰も反応しない。
「100%だ」
沈黙。
帝国は象徴を失った。
だが折れてはいない。
「クラウス技術少将」
「全権剥奪、拘束」
兵が入る。
アインスは抵抗しない。
扉が閉じる。
帝国は膿を切る。
牙は残したまま。
⸻
カルネア連邦会議室。
映像が流れる。
赤と青。
白の割り込み。
「赤鬼撃破確認」
「青鬼生存」
「エレジアの割り込みが早かった」
「射撃継続すればエレジアに命中の可能性」
沈黙。
「友軍として象徴を撃つのは問題になる」
グレイヴスが静かに言う。
「赤鬼を退治出来ただけで充分」
「均衡は維持された」
誰かが問う。
「戦争は」
「続く」
即答。
「だから価値がある」
一拍。
「大丈夫、整理は完了した」
帝国は象徴を失い。
共和国は消耗し。
青鬼は壊れかけ。
白百合は立っている。
盤面は崩れていない。
むしろ、より危うく整った。
戦争は終わらない。
次の一手を待つ。




