最終話 誕生
春。
王都はまだ傷跡を残している。
それでも、瓦礫の隙間から小さな花が咲いている。
共和国軍研究区画。
新しく割り当てられた個室。
質素なベッド。
机。
棚。
窓。
レイは部屋の中央に立っている。
「ここが、レイの部屋」
フィーナが言う。
少し誇らしげに。
レイは窓に近づく。
空がある。
風が入る。
白い部屋ではない。
番号もない。
ただの、部屋。
⸻
最終検査。
単独接続上限――20%。
「これ以上は危険です」
医療主任は淡々と言った。
かつてなら、低下は“劣化”だった。
今は違う。
20%でも、重い。
20%でも、十分だ。
感じる。
それでいい。
⸻
フィーナが箱を開ける。
「ユユから」
小さな観葉植物。
緑。
レイが葉に触れる。
柔らかい。
「……弱いな」
フィーナが笑う。
「うん、人間もね」
レイは少し考える。
弱い。
揺れる。
壊れる。
だが。
それでも立つ。
口元がわずかに緩む。
フィーナが目を丸くする。
「今、笑った」
「……否定はしない」
小さく、ぎこちない。
だが確かに。
胸の奥が温かい。
⸻
荷解きが終わる。
部屋が整う。
静かな時間。
フィーナが窓辺に立つ。
「ねえ、レイ」
レイが振り向く。
「後悔してる?」
ルク。
戦場。
残響。
光。
すべてがよぎる。
「……していない」
はっきり。
フィーナはほっと息を吐く。
レイが続ける。
「フィーナ」
自然に。
「まだ分からないことが多い」
「感情も、選択も」
一拍。
「だが」
視線が合う。
「隣にいることは、選べる」
フィーナの心臓が跳ねる。
少しだけ、近づく。
「じゃあ」
いたずらっぽく。
「今も、選んでる?」
レイは迷わない。
「選んでいる」
即答。
フィーナの顔が赤くなる。
「……またずるい」
「なぜだ」
「そういうの、照れる」
レイは首を傾げる。
そして、ほんの少し考えて。
一歩近づく。
距離が縮まる。
「不快か?」
静かに。
「そうじゃないけど…」
フィーナは少し微笑む。
「選ぶのって、難しいよね」
レイは微かに笑う。
「…そうだな」
その笑顔は、前より少し自然だ。
⸻
夜。
レイはベッドに座る。
静かだ。
残響は遠い。
暴れない。
20%。
低い。
不完全。
未完成。
だが。
ドアがノックされる。
「……レイ?」
フィーナ。
「眠れないから、ちょっとだけ話さない?」
レイは少し考える。
そして。
「構わない」
ドアが開く。
フィーナが入ってくる。
ベッドの端に座る。
肩が触れる。
心臓が早くなる。
レイはその感覚を、逃げない。
「うるさい?」
フィーナが聞く。
レイは目を閉じる。
耳を澄ます。
残響ではない。
鼓動。
温度。
気配。
「……うるさくない」
小さく答える。
フィーナが笑う。
「そっか」
レイは横になる。
フィーナも隣に。
触れ合う距離。
自然と手は重なる。
震えはない。
闇も来ない。
胸の奥が、静かに満ちる。
これは兵器には必要ない。
だが。
必要だ。
完全でもない。
100%でもない。
20%。
それでも。
レイ・セルドは。
兵器としてではなく。
一人の人間として。
いま。
生まれた。
どうも。
邪神山阿波男です。
これにて、
「残響兵器─戦場の声を聞く双子は人間になれるか─」
完結となります。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
作者の趣味全開の世界でしたが如何でしたでしょうか……?
ちなみに!
残響兵器の世界はまだ続きます。
よろしければ、またお手に取って頂ければと思います。
邪神山阿波男でした。




