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第90話 俺だけだった
旧市街。
煙。
崩れた鐘楼。
赤と青が、止まっている。
GRASP-Ω《アストラム》。
そのコックピットは、オルクシアの刃に貫かれている。
赤い装甲が割れ、内部フレームが露出。
完全沈黙。
反応、ゼロ。
一方。
REV-VII。
接続反動。
出力波形が乱れる。
青い内部フレームが瞬き、消えかける。
機体もまた、ゆっくりと沈黙しかけている。
⸻
暗闇。
レイが目を開ける。
呼吸が荒い。
視界が揺れる。
接触通信が、かすかに残っている。
ノイズ混じり。
その向こう。
声。
「……レイ…」
ルク。
微弱。
だが確かに。
「お前だけ、だったのに…」
その言葉。
残響。
小さな白い部屋。
コンクリートの床。
隣にいた存在。
あの声。
「お前だけだよ」
重なる。
残響。
残響。
残響。
波形が暴れる。
レイの脳波が崩れる。
モニター警告。
数値が跳ね上がる。
抑制不能。
レイは口を開く。
声にならない。
叫び。
震えが止まらない。
涙が溢れる。
息が詰まる。
「ルク」
胸が裂ける。
「俺だけだった」
あの白い部屋。
兄弟。
兵器。
唯一。
全部が重なる。
残響が濃くなる。
深く。
暗く。
沈む。
沈む。
残響の海へ。
残響の闇へ。
青い機体の中で。
レイの意識が、落ちていく。




