第89話 俺は選んだ
青と赤が衝突した瞬間。
世界が砕ける。
音が消える。
視界が白く弾ける。
次に見えたのは――
水。
いや、海。
残響の海。
重く、濃い。
沈む。
レイは立っている。
生身。
リンクスーツもない。
武器もない。
ただ、立っている。
向こうに、ルク。
同じく生身。
無表情。
静か。
ここは現実ではない。
機体でもない。
精神の深層。
100%と解放値が衝突した副作用。
残響が溢れた。
⸻
ルクが動く。
速い。
拳が振るわれる。
レイは受ける。
衝撃。
重い。
だが血は出ない。
ここは物理ではない。
意志の戦い。
「俺たちは兵器だ」
その言葉が空間に響く。
海が波打つ。
レイは立ち上がる。
「違う」
拳を返す。
当たる。
ルクは揺れない。
「拾われた」
「使われる」
「壊れる」
淡々と。
レイは歯を食いしばる。
残響が濃い。
叫び。
怒り。
死。
それでも。
「俺は、選んだ」
ルクの動きが、わずかに止まる。
「……何を」
初めての問い。
レイは言う。
「フィーナの傍にいる」
海が震える。
波形が乱れる。
ルクの目に、かすかな揺れ。
記憶が滲む。
白い部屋。
番号。
隣にいた存在。
声。
「レイ」
一瞬。
本当に一瞬。
完全接続の静寂に、ひびが入る。
ルクが止まる。
その瞬間。
レイが踏み込む。
迷わない。
拳でも刃でもない。
手。
ルクの胸へ、深く。
貫く。
光が溢れる。
残響の海が割れる。
精神世界が崩壊する。
現実へ引き戻される。
旧市街。
煙。
赤と青。
確かに、一撃が入っている。
そして。
まだ、終わっていない。




