第62話 人間ではない
夜戦。
荒野。
赤鬼部隊、出撃。
先行するのは十二機の《ゼルガード》。
灰色の群れ。
接続値20%。
揺れなし。
迷いなし。
敵REV部隊が展開する前に。
撃つ。
滑走。
射線は最短。
挟撃。
撤退路を断つ。
反撃は成立しない。
悲鳴は通信に混じるが、
ゼルガードの波形は揺れない。
ミーファは指揮車両からそれを見ている。
モニターに並ぶ数値。
敵機撃破。
損耗軽微。
戦況優勢。
完璧。
完璧すぎる。
「……」
次に赤が動く。
GRASP-Ω《アストラム》。
接続値、50%。
警告域。
だが安定。
赤が突入する。
踏み込み。
加速。
敵主力REVに肉薄。
一瞬で三機。
切断。
撃破。
反応速度が違う。
戦術の隙がない。
ルクは喋らない。
命令も最小。
ゼルガードは自律的に動く。
無駄がない。
戦場は十数分で沈黙した。
共和国部隊、壊滅。
赤鬼部隊、損耗ゼロ。
ミーファは立ったまま、画面を見ている。
静かに、呟く。
「……これが、戦闘?」
違う。
これは。
蹂躙だ。
敵は“戦った”のか。
ただ処理されたのではないか。
赤鬼部隊が帰投する。
格納区画。
ハッチが開く。
ルクが降りる。
無言。
汗も荒い呼吸もない。
戦闘直後とは思えない。
ミーファが歩み寄る。
「今のは」
言葉を選ばない。
「人間の戦いじゃない!」
格納庫が一瞬、静まる。
整備兵が視線を逸らす。
ルクは止まらない。
通り過ぎる。
答えない。
そのとき。
背後から柔らかい声。
「そうだよ」
アインス・クラウス。
眼鏡を押し上げる。
「人間じゃない」
ミーファが振り向く。
「……何ですって」
アインスは平然としている。
「DC2ndは設計上、精神干渉を最小化している」
「迷いがない」
「罪悪感もない」
「揺れない」
にこり。
「だから強い」
ミーファの拳が震える。
「それでいいと?」
アインスは首を傾げる。
「戦争をしているんだ」
「効率的に終わらせる方がいいだろう?」
一拍。
「君の居た第8は、迷ったのかい?」
刺す。
ミーファの表情が固まる。
第8部隊。
壊滅。
通信に残る最後の声。
「撤退を——」
アインスは続ける。
「赤鬼部隊は迷わない」
「だから壊れない」
「だから強い」
ミーファはルクの背を見る。
赤い機体の影。
「……隊長は」
「人間です」
アインスの目が細くなる。
「そうかな?」
遠くで、ルクが止まる。
振り向かない。
だが聞いている。
アインスは静かに言う。
「兵器はただ機能すればいい」
ミーファは言い返す。
「それでも...私は人間として戦います」
アインスは笑う。
格納庫に赤が沈黙している。
揺れない。
だが。
完全に無音ではない。
ミーファは気づいていない。
アインスは気づいている。
赤鬼は、
まだ壊れていない。
だが。
削れている。




