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第51話 隣、空いてんぞ

帰投予定時刻を過ぎても、オルクスは戻らなかった。


格納区画の時計がやけに大きく見える。


「通信は」


ルクの声は低い。


管制官が答える。


「途絶したままです」


「最終確認地点は?」


「崩落地域付近。詳細不明」


不明。


ルクは舌打ちする。


「捜索は」


「既に出ています」


待機命令。


ルクは立ったまま動かない。


落ち着きがないわけではない。


ただ、じっとしているだけだ。


三時間。


六時間。


一日。


帰らない。


二日目。


捜索範囲拡大。


三日目。


爆発痕なし。


残骸なし。


四日目。


「……生存率は」


誰かが小声で言う。


ルクが睨む。


「口閉じろ」


それだけで、室内は静まる。


一週間。


戦死扱いという言葉が、どこかで出始める。


ルクは聞こえないふりをしない。


聞いて、否定する。


「アイツが落ちるわけねえだろ」


即答。


理屈ではない。


確信。



研究区画。


ルクは扉を開ける。


「ログ出せ」


アインスが眼鏡越しに見る。


「穏やかじゃないね」


「いいから出せ」


戦闘ログが投影される。


夜の峡谷。


オルクス50%。


白百合。


刃の交差。


スロー再生。


一瞬。


ほんの一拍の遅れ。


ルクの目が細まる。


「……遅い」


アインスが言う。


「波形上は正常だよ」


「正常じゃねえ」


ルクは即座に切る。


映像を止める。


その“間”。


「揺れてやがる」


アインスは沈黙する。


「50%だ」


「それでも遅れる」


「弱くなったわけじゃねえ」


ルクの拳がわずかに握られる。


「変わってる」


一拍。


「アイツは俺と同じだ」


「遅いなんてありえねえ」


それは信頼だ。


絶対の。


アインスは言う。


「変化は劣化とは限らない」


ルクは鼻で笑う。


「理屈じゃねえ」


踵を返す。



夜。


格納区画。


GRASP-α《アストラ》。


赤い機体が静かに立っている。


ルクはリンクスーツのまま、機体を見上げる。


照明が落ちる。


影が長い。


「……どこ行った」


誰もいない。


だから出る。


「勝手に消えんな」


拳を機体に軽く当てる。


鈍い音。


「隣、空いてんぞ」


沈黙。


静寂。


だがルクは信じている。


死んだとは思わない。


思わないというより、


認めない。


「戻って来い」


短い。


強い。


赤い機体は答えない。


だがルクは動かない。


隣は、まだ空いている。

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