第50話 共有しているからだ
朝。
人工照明がゆっくりと明るくなる。
フィーナは眠れていない。
目は閉じていた。
だが、意識は浅いままだった。
隣の温度が、いつの間にか消えている。
そっと目を開ける。
レイが立っている。
静かに。
窓のない壁を見ている。
「……起きたの?」
掠れた声。
レイは振り向く。
「先ほど」
それだけ。
フィーナは身体を起こす。
「眠れた?」
数秒。
「問題ない」
静かだ。
揺れていない。
本当に眠れたのだと分かる。
フィーナは毛布を握る。
「私は、眠れてないんだけど」
少しだけ不満が混じる。
レイは考える。
「なぜだ」
「……知らない」
言えるはずがない。
同じベッドで眠ったせいだなんて。
だが、胸の奥にあるのは、照れだけではない。
彼が眠れたことへの安堵。
⸻
再び実験室。
空色のスーツ。
エレジア側30%。
オルクス側40%。
合計70%。
「共鳴試験、開始」
LNSが接続される。
残響が流れ込む。
以前のような暴発はない。
波形は滑らかに重なる。
だが。
モニターに異常値。
72。
76。
80。
「受容量、理論値を超過」
研究員の声がざわめく。
70のはず。
だが崩れない。
フィーナは歯を食いしばる。
重い。
だが、溢れない。
レイは揺れている。
だが崩れない。
受け皿が広がっている。
分散ではない。
共有。
精神の重なりによる拡張。
「停止」
接続が切れる。
フィーナは荒い呼吸のまま笑う。
「……前より、うるさくない」
レイは言う。
「共有しているからだ」
自然に出た言葉。
フィーナはそれを聞き逃さない。
⸻
午後。
扉が開く。
「共和国より客人が到着」
廊下の向こう。
ユユ。
駆け寄る。
抱きしめる。
「フィーナ……!」
声が震える。
フィーナも腕を回す。
目が潤む。
「ごめんね」
何度も。
「生きててよかった」
ユユは泣きながら頷く。
カルネア部隊長が前へ出る。
「フィーネリア・ルミナリア姫」
「帰還許可が出ました」
事務的な声。
フィーナは頷く。
そして。
「……レイは?」
部隊長は端末を見る。
「本人の意思に委ねる、と」
フィーナは振り向く。
レイは静かに立っている。
帝国へ戻れば、ルクの隣に立てる。
だが。
自分は変わってしまった。
接続値を下げた。
共有を覚えた。
あの夜。
フィーナの隣は静かだった。
レイは言う。
「同行する」
短い。
迷いはある。
だが決めた。
フィーナの目が揺れる。
「いいの?」
「問題ない」
今度は、確かに柔らかい。
ユユは二人を見る。
理解している。
⸻
連邦会議室。
グレイヴスが立つ。
モニターに実効受容量80超。
「共鳴実験は有効でした」
「分散では到達できない領域」
「精神容量の共有による拡張」
一人が問う。
「100%到達の可能性は」
グレイヴスは頷く。
「理論上は存在します」
「しかし」
「共和国側にその上限を許すつもりはありません」
穏やかに。
「均衡が崩れる」
一拍。
「今は見」
「もし100%へ至る兆候があれば」
視線が冷える。
「我々が先に作りましょう」
「すぐに壊せるように」
通信が開く。
「さて、DC2ndの進捗は」
間。
「何機出せますか?」
画面が暗転する。
均衡は揺れ始めている。




