第49話 50から40へ
二日目。
同じ時間に照明が明るくなる。
同じトレイ。
いつもと同じ部屋。
フィーナは起きる。
レイは既に起きている。
三日目。
食事を半分ずつ分けるのが自然になる。
味付きと無味。
最初から混ぜる。
「今日はちょっと濃いね」
「塩分0.2%増加」
「分かるの?」
「舌はある」
フィーナが笑う。
生活が、回り始める。
観測は続いている。
⸻
再度、共鳴試験。
今度は制御された出力。
エレジア30%。
オルクス50%。
リンク。
揺れはある。
だが、前回のような暴発はない。
共鳴は滑らかだ。
研究員の声が上階で響く。
「同期率、上昇」
「干渉値、安定傾向」
だが。
最初に音を上げるのはフィーナだ。
「……っ、待って」
接続は維持されている。
だが重い。
レイの側は静かだ。
50%。
揺れは微弱。
以前より、安定している。
それは適応か。
それとも。
「人間化による同調傾向」
観測室で誰かが呟く。
グレイヴスは無言。
彼は気づいている。
共鳴が安定している理由。
数値が合ったのではない。
波形が近づいたのだ。
フィーナが、先に限界を示す。
レイは耐えている。
だが。
耐えているというより。
寄せている。
⸻
その日の午後。
レイは観測官に言う。
「接続値設定を変更したい」
研究員が顔を上げる。
「何%へ?」
「50から、40へ」
室内が静まる。
理由は?
問われる前に、レイは言う。
「現在の共鳴効率は40%で十分」
理屈を添える。
だがそれは理屈ではない。
“抑える”という意思。
兵器は最大出力を求める。
だが彼は下げたいと言った。
研究責任者がグレイヴスを見る。
グレイヴスは静かに頷く。
「了承」
それだけ。
「設定変更を認可する」
提案。
自発的抑制。
兵器は願わない。
彼はもう。
⸻
夜。
照明が落ちる。
フィーナは眠る。
だが。
レイは眠れない。
暗闇が、濃い。
静かなはずの部屋。
なのに。
うるさい。
戦場の残響。
シミュレーションの残滓。
フィーナの泣き声。
全てが混ざる。
レイは目を閉じたまま言う。
「……夜はうるさいな」
隣のベッドが動く。
フィーナが起きる。
「眠れないの?」
レイは答える。
「問題ない」
間。
「……少し、うるさいだけだ」
フィーナは少し考える。
少し。
いや、まあまあ考える。
そして、ため息。
ベッドの毛布を持ち上げる。
一人分の空間を作る。
「……一緒に、寝よう」
レイは目を開ける。
「何の効果がある」
即答。
フィーナは顔を赤くしながら被せる。
「いいから」
「早く」
半ば命令。
レイは数秒迷う。
だが立ち上がる。
ベッドへ。
隣に横になる。
距離は近い。
腕が触れる。
温度。
呼吸。
心拍。
暗闇。
レイは目を閉じる。
不思議と。
静かだ。
残響が、遠い。
呼吸が、落ち着く。
眠りが、来る。
一方。
フィーナは目を閉じたまま、眠れない。
鼓動が速い。
距離が近い。
腕が触れている。
無理だ。
こんな状況で眠れるわけがない。
だが。
レイの呼吸が、すぐに深くなる。
「……ほんとに」
小さく呟く。
レイは眠っている。
静かに。
初めて、自然に。
フィーナは天井を見る。
少しだけ笑う。
「人間、だよ」
小さく。
誰にも聞こえない声で。
夜は静かだ。
少なくとも。
彼にとっては。




